暗い闇の中にいても、誰かが傍にいてくれれば。それは希望になると

…あなたが教えてくれた。あなたが私に教えてくれたの、ラセル。

……傍にいてもいいですか。





魔性の傷跡 第9話 『月明かりに咲く花』

魔性の傷跡
第9話 『月明かりに咲く花』

【登場人物】♂5♀1 もしくは♂4♀2

ルティア  (21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ラセル  (26歳)♂:ディルス国の若き王。
レイス  (20歳)♂or♀:クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ。
シセルド (?歳)♂:魔性。北の「主(あるじ)」凍りつくような瞳をしている。
ファスター(?歳)♂:魔性。東の「主(あるじ)」。
アルザ  (20歳)+ナレーション♂:給仕の青年。

【役表】
ルティア♀:
ラセル♂:
レイス♂or♀:
シセルド♂:
ファスター♂:
アルザ+ナレーション♂:

ナレーター「宰相(さいしょう)カザックの葬儀は7日に渡り取り行われる。

      若きラセル王にかわり実質、ディルス国の行政を取り仕切っていた重鎮(じゅうちん)の
   
      突然の訃報(ふほう)に、国民は騒然となった。

      老賢院(ろうけんいん)は急ぎ後任者選挙を行い、5老(ごろう)がうち

      最も高齢のスーラ・エルジュが新たな宰相に任命されたのは、葬儀の最終日の事であった。」

【ラセルの部屋】

ノックの音

レイス「…ラセル。開けてくれる?」

ラセル「……」

レイス「気持ちはわかるけど…葬儀も全部終ったんだよ。

    遠征軍も明日には帰還するって時に、王がそんなんじゃ国はどうなるの。」

ラセル「レイス、一人にしてくれ。」

レイス「……言っても無駄…って感じだね。」

ラセル「俺は、お前のようには出来ない。」

レイス「………ふぅん。」

ラセル「……今は、何も聞きたくない。」

レイス「王がだらしないから、スーラは着任したばっかりなのに

    てんてこ舞いみたい。彼の方がよっぽど王様らしいね。」

ラセル「………」

レイス「ついにだんまり?」

ラセル「……一人にしてくれ。」

レイス「…なら、いつまでもそうしてたらいいよ。(去る)」

ラセル「…」


【北の主の城】

シセルド「……ファスター。無言で人の城に入るのは、癖か?」

ファスター「残念。もうばれたか。お邪魔してマース。」

シセルド「何の用だ。」

ファスター「たまには北の主様のご尊顔(そんがん)を拝見したいと思いまして。」

シセルド「戯れ事に付き合う気はない。帰れ…と言いたいところだが、今日ばかりは…よくぞ来た。」

ファスター「おお!シセルド様に歓迎されるとは恐悦至極!」

シセルド「黙れ」

ファスター「(声を出せなくなる)むぐっ。」

シセルド「何故、ディルスに手を出した。あの国には今、我が妻がいる事は知っているな?」

ファスター「かふっ…(喉が黒く染まっていく)」

シセルド「東の主よ。お前の破壊衝動は誰より魔性らしい。

     …だが、私のものに手を出すのは許さん。」

ファスター「…っ(黒く染まった喉の中心に風穴が開く)」

シセルド「お前の副官はなかなか優れている。
    
     東の主の座にも相応しい。そろそろお前も潮時とするか…?」

ファスター「ぅううっ…(首の大半が消滅する)」

シセルド「…次はない。(術を止める)覚えておけ。」

ファスター「はぁっ…はぁっ…(喉を再生させる)ふーっ。」

シセルド「再生が早いな、もう少しきつくしても良かったか。」

ファスター「ひどいなぁ。ディルスは西の主のテリトリーだ、筋が通ってないじゃないか。

      それにあのお姫様の扱いには細心の注意を払ってたんだよ。」

シセルド「あれで、か。」

ファスター「ちぇ…見てたのか。なら知ってるだろ?僕の本命はディルスの王さ。」

シセルド「名をラセル…とか言ったな。」

ファスター「あの王すっごく良いんだよ。あの真っ直ぐな目!

      正義に燃える心…そしてあの無力さ!あっははは。」

シセルド「…ディルスから手をひけ。」

ファスター「どうして?お姫様に害が及ばなければ良いだろ?

      あの国、結構良い素材がいてさぁ、面白いんだよ。」

シセルド「同じことを2度言わせるな。本当に消すぞ。」

ファスター「おお怖い。」

シセルド「遊びも大概にしておかねば、調律が崩れる。」

ファスター「ここで調律の話出すなんて卑怯だなぁ。」

シセルド「今は大きな変動期ではない。魔性の力を加えるな。」

ファスター「変動期でないのは、誰かさんが操作してるから…違う?」

シセルド「…さて。」

ファスター「初めて間近で見たけど…本当にすごいね、あのお姫様。

      あれで人間なのが不思議。っていうか、本当に人間?」

シセルド「ファスター…」

ファスター「怒らないでって。あんな強烈な魂、気にするなって方が無理だよ。」

シセルド「…強烈か。」

ファスター「ラセル王も熱あげてるみたいだよ。

      いつまで野放しにしておくのさ。連れ戻さなくていいの?」

シセルド「…いずれ、戻る。」

ファスター「へぇー…すごい自信。」


【中庭】

レイス「あー暗かった。ラセルったらドアも開けないの。」

ルティア「そうですか…私も後で声をかけてみます。」

レイス「もー、今回ばかりは駄目すぎ。てか、なんで僕がこんなにディルスの事心配してるんだろ。

    ラセルがもっとしっかりしてたら、国内もこんなバタバタしないのになー。」

ルティア「……でも、今は…辛いと思います。」

レイス「そりゃね、辛いさ。僕はカザックと親しかったわけじゃないけど
  
    それでも…あんな終り方は酷いと思う。だけど、あの時はどうしようもなかった。」

ルティア「そうですね…」

レイス「今はカザックの葬儀を無事終えられた事だけでも喜ぶべきでしょ。
  
    ルティアちゃんのおかげだよ。あの時、ルティアちゃんがカザックの体を守ってくれたから。」

ルティア「いえ…元はと言えば、私が…」

レイス「すとーっぷ!」

ルティア「…すみません。」

レイス「謝らなくていいの!すぐ自分を責めるのが問題なんだよ。」

ルティア「レイスさん、私…ラセルは頑張ってると思うんです。

     私がラセルの立場なら何も手につかないと思います。それでもラセルは執務もこなしている。」

レイス「最低限はね。」

ルティア「葬儀も滞りなく終えました。それ以上は…今はまだ無理なのかもしれません。」

レイス「ふぅん…」

ルティア「葬儀中のラセルの顔…鉄のように強張って…無表情で…見ていて苦しかった。」

レイス「優しいね、ルティアちゃん。でも、それじゃ王としては失格でしょ。」

ルティア「王として…ですか。」

レイス「ディルスはただでさえ敵国が多い、国内がこんなに混乱してる時こそ冷静であるべきだよ。

    それにスーラは経済にとても精通した宰相だ、この機会にディルスをどんどん発展させなくっちゃ。」

ルティア「……この機会…とは。カザックさんが亡くなった事を指していますか…」

レイス「そうだよ。辛いときこそ、それを逆手に取るべき。当然でしょ。

    カザックだってその方が嬉しいはずだよ。」

ルティア「……レイスさん。貴方は……人の命をどうお考えですか…。」

レイス「……大切なものだと…思ってるよ。」

ルティア「…そう見えないのは…私の思い違いですか……」

レイス「……誰だっていつか死ぬのさ。僕も、君も。」

ルティア「……レイスさん、貴方の言う事は正しいです。

     …でも、貴方の言葉には、心が…ない。」

レイス「……」

ナレーター「その時、レイスの顔は酷く青ざめた。

      ルティアは言葉を続けようとしたが、レイスは無言でその場から去っていった。」

ルティア「…レイスさん…」


【水汲み場付近】

アルザ「うああっ(こける)」


ばしゃーん(バケツの水が盛大にこぼれる)

偶然通りかかったラセルの足をぬらした。


アルザ「あああっ…お、王様…!」

ラセル「……」

アルザ「も…申し訳ありません…(土下座)」

ラセル「…」

アルザ「どのような…どのような罰でも喜んでお受けします。

    鞭打ちでも水ぜめでも…ただ…どうか…クビだけは…ご勘弁を!」

ラセル「…かまわん。」

アルザ「ありがとうございます!どのような罰をお受けすれば」

ラセル「別に、罰など受けなくて良い。」

アルザ「…え」

ラセル「……お前、給仕(きゅうじ)か?」

アルザ「は、はい。まだ入ったばかりなので、床磨きと皿洗いと洗濯を担当しております!」

ラセル「…そうか。励めよ。」

アルザ「あ、ありがとうございます。あの…本当に罰をうけなくて宜しいのですか?」

ラセル「ああ(去ろうとする)」

アルザ「あの、ラセル王!」

ラセル「なんだ。」

アルザ「最近…お食事をほとんど召し上がらないと伺ってます。お体、大丈夫ですか。」

ラセル「…気にするな。欲しくないだけだ。」

アルザ「果物はお嫌いですか?」

ラセル「なに?」

アルザ「これを…(ポケットから紙包みを取り出し広げる)」

ラセル「なんだ…これは。」

アルザ「西の国で取れる杏(あんず)という果物です。

    砂糖と洋酒で煮込んで乾燥させたものをスライスしました。
 
    召し上がっていただけませんか?元気が出ます。」

ラセル「……お前が作ったのか?」

アルザ「はい!」

ラセル「…(ほんの一口食べる)」

アルザ「…ど、どうでしょうか…」

ラセル「……甘い。」

アルザ「申し訳ありません、甘いのはお嫌いでしたか?」

ラセル「…これを、もう少し形を整えて私の部屋に持ってきてくれ。」

アルザ「え。」

ラセル「……でかい図体に似合わず甘党だった男がいてな…そいつに、贈りたい。」

アルザ「は、はい、よろこんで!」


ルティア「(通りかかる)あ…ラセル…」

ラセル「…ルティア。」

アルザ「それでは僕、失礼します!」

ラセル「ああ。」

ルティア「今のは、どなた?」

ラセル「…新入りの給仕だ。」

ルティア「ラセル、少し時間いい?」

ラセル「もう日暮れだ。部屋に戻れ。」

ルティア「少しだけ…駄目?」

ラセル「……」


【シセルドの城】

ファスター「戻ってくるって自信があるのは結構だけど

      あのお姫様、お世辞にもシセルドの事好いてるようには見えなかったけど?」

シセルド「むしろ憎まれているよ。」

ファスター「だよねぇ、あの事は言ったの?」

シセルド「言うつもりはない。」

ファスター「わっかんないなぁ。」

シセルド「時にファスター…お前また、人間と伴侶契約をかわしたそうだな。」

ファスター「またとは人聞きが悪いなぁ、まだ4人だよ。

      しかも全員が数百年に一度ってレベルの極上の魂だし、今回なんて特に良いんだ!

      まだ契約はしてないんだけど、もうすぐ落とすよ。

      病弱で目くらなんだけどさ、ハープの名手で綺麗な音出すんだよねぇ。」

シセルド「5人も妻を得て、何になる?」

ファスター「決まってるじゃん。子供作るんだよ。

      僕達は繁殖率が極端に低い。10人いたって足りないくらいだよ。

      いつか僕の力を超える子が産まれてくれれば最高なんだけどなぁ。」

シセルド「お前は、妻達を愛しているか?」

ファスター「は?」

シセルド「…私は、人の愛し方がわからない。」


【中庭】

ラセル「おい、どこまで行く。」

ルティア「もう少し…」

ラセル「もう月が昇った。帰るぞ。」

ルティア「着いたわ。」

ラセル「……これは?」



ナレーター「ディルスの中庭の奥深く、その花は咲いていた。」



ルティア「月光花(げっこうか)」

ラセル「……」

ルティア「月の光を集め、夜に花開くの。一夜限りの命だけれど、どの花よりも鮮やかに散るわ。綺麗でしょう…」

ラセル「……そう、だな。」

ルティア「月の光には、深い癒しの力があるわ。」

ラセル「お前の髪と、同じ色だな…」

ルティア「そう…かしら?…ふふ」

ラセル「(微かに笑う)」

ルティア「ラセル、私あなたにまだお礼を言ってなかったの。」

ラセル「礼?」

ルティア「前に話した事、覚えてる?私は魔性に力を奪われ、祖国を奪われ

     この身すら魔性の伴侶へと落とした。傷跡とともに…」

ラセル「…ああ、聞いたよ。」

ルティア「もう私には生きる意味などないと、ずっと死に場所を求めていた。」

ラセル「そうだったな。今になって…お前の気持ちがわかるとはな。」

ルティア「私が生きている事で、多くの人に迷惑がかかる。

     リザイア姫も…カザックさんの事も、そう。」

ラセル「……わかっている。しかし俺は…」

ルティア「……」

ラセル「……俺は、わからないんだ。自分がどうしたいのかすら……」

ルティア「…ええ。」

ラセル「王として、間違っているんだろうな。お前をこの国に置くことは。だがどうしても

    お前を…死の影から…救いたかった。それが出来ると思った。

    だが、なんだこのザマは。俺の愚かさが招いた結果だ。

    なのに、その責任をお前になすりつけようとする心すら、どこからか沸きあがってくる。

    自分が醜すぎて…耐えられない……」

ルティア「…私を生かしておく事に、なんのメリットもありません。

     普通ならば貴方はとっくに私を殺してる。

     それでも、あなたはそうやって私を生かそうと苦しむのね。……ありがとう。」

ラセル「……」

ルティア「何の価値もない私に生きろと、言ってくれて。ありがとう。」

ラセル「…価値がないとお前がいくら言っても、俺にとっては…そうではない。」

ルティア「ならば、その言葉をお返しするわ。」

ラセル「…」

ルティア「貴方がいくら、自らを愚かだと、無力だと責めても…私にとってはそうではない。」

ラセル「……俺は…」


ルティア「貴方の悲しみ、苦しみがわかるなんて私には言えない。

     けれど、伝わる…あなたの想いが伝わってくるの。」

ラセル「…ルティア…俺はどうすれば良かった…今も後悔ばかりが溢れてくるんだ。

    ふとした瞬間に狂いそうになる。

    目に映るものや、自分自身も、全てをぶち壊して終わりにしたくなる。

    そんな衝動を抑えながら、今だってやっと2本の足で立っているだけだ。

    こんな無様な王がどこにいる…」

ルティア「…座って。」

ラセル「?」

ルティア「(ゆっくりとラセルの手を取り、座らせる)」

ラセル「ルティア?」

ルティア「…感じない?」

ラセル「何を?」

ルティア「……例えば…草花の香り、大地の温もり。」

ラセル「…」

ルティア「…空を見て。」

ラセル「…」

ルティア「星の瞬き。月の呼吸。」

ラセル「……わからない。何も感じない。月の明かりも、美しい花にも、何も感じられない。」

ルティア「いくら時間がかかってもいい。きっと、思い出すわ。」

ラセル「…そうだろうか。」

ルティア「貴方を…抱きしめても良い?」

ラセル「え…」



ナレーター「ルティアはラセルを優しく包んだ。」



ルティア「……ラセル、どうしようもない苦しみも、悲しみも、確かに存在するわ。」

ラセル「ああ。」

ルティア「自分自身に絶望することも。生きる意味を見失うことも…あるわ。」

ラセル「……ああ、身をもってわかった。」

ルティア「それでも、そんな暗い闇の中にいても、誰かが傍にいてくれれば。それは希望になると

     …あなたが教えてくれた。あなたが私に教えてくれたの、ラセル。

     ……傍にいてもいいですか。」

ラセル「…(涙が溢れる)…俺は、カザックを救いたかった。お前と同じくらいに。

    お前と同じくらいに救いたかったんだ!」

ルティア「…ええ。」

ラセル「……カザックはもういない、何故だ。俺が無力だからだ。

    こんな俺が、お前を守れるのか。笑ってくれ、俺にはもう自信がない。」

ルティア「…そう。」

ラセル「今になって…わかる…あいつは、俺のもう一人の父だった…」

ルティア「……ええ。」

ラセル「ルティア、教えてくれ。カザックの魂はどこへ行く?」

ルティア「生まれてきたところへ…。」

ラセル「カザックは、どんな気持ちで逝ったのかな…」

ルティア「それは…わからない。けれどカザックさん程、見事に生きた人はいない。

     あの人は全身全霊をもって一番大切なものを守りぬいた。

     私には出来なかったことを、あの人は鮮やかに散りゆく命をもって見せてくれた。」

ラセル「ああ、見事……あいつは、まさに見事だった。」

ルティア「どんなに力の差があろうとも、私も自分の運命と戦おうとカザックさんを見てて思いました。
  
     適わぬまでも、抗(あらが)います。私はシセルドと、戦います。」

ラセル「…何故だ。魔性の力を誰より知っているお前が、何故…なお戦う…」

ルティア「私はシセルドの元にいた3年間、死んだように生きていました。

     あなたと出会うまで、ずっと私は死んでいたのです。

     ラセル。あなたが私の死を否定してくれた。そして私は生きたいと思った。

     もう一度聞きます。貴方の傍にいても良いですか。」

ラセル「さっきも言った。…俺には力がない。お前を守る事など…出来ないんだ!」

ルティア「守ってもらわなくていいの。貴方が私が生きることを今も望んでくれるのなら

     この命ある限り、貴方の魂に寄り添いたい。それを…許してくれない?」

ラセル「……お前が言っている事がわからない。

    守らずにお前を傍に置く事など出来るわけがないじゃないか。
   
    魂が寄り添う?何を言ってるんだ…

    もう…訳がわからない事を言うのは止めてくれ。俺を馬鹿にしてるのか!」

ルティア「いいえ。違うわ、ただ…言葉が見つからないの。ごめんなさい…」

ラセル「謝るな!惨めだ……」

ルティア「…どんな言葉を使えば…伝わるの……」

ラセル「お前の優しさも、気高さも…俺を惨めにさせる。

    何故俺がこんな思いをしなければならない…

    魂?魔術?魔性?…もうたくさん、もうたくさんだ!」

ルティア「ごめんなさい…そんなつもりじゃ…」

ラセル「謝るな!」

ルティア「っ…!」


ナレーター「ラセルはルティアを組み伏せ、強引に唇を奪った。」


ラセル「…何故抵抗しない…俺は今、最低な事をした。

    お前の目の前にいるのは最低の男だ!お前の魂が寄り添う価値など欠片もない!」

ルティア「…いいえ。」

ラセル「…お前さえ、俺の前に現れなければ…」

ルティア「…」

ラセル「…違う!お前のせいじゃない・・・俺の根拠のない自信が、愚かさが招いた事だ!

    お前を守りたい気持ちと、いっそ殺してしまいたい気持ちが俺の心を壊す。

    ここは…地獄か。」

ルティア「貴方の心が救われるのならば、どうぞ…今ここで、私の命を終わらせてください。」

ラセル「…馬鹿な…」

ルティア「貴方に殺されるのなら、私は私の為に生きて、燃え尽きるのだと思える。

     さぁ、心臓はここです。」

ラセル「………ああああ。」

ルティア「ラセル?」

ラセル「もう…やめてくれ…!…俺を…一人にしてくれ……」


【北の主の城】

ファスター「まぁ、やり方は色々あるだろうけど〜

      僕なんかは、相手が何も言えなくなるくらい

      あまーい言葉並べてあげちゃうかもね。だいたい嘘だけど、あはは。」

シセルド「何も言えない程に甘く…か。必要ないな。」

ファスター「なんで?」

シセルド「ルティアが私の元にいた3年間、彼女が言葉を発したのは最後の1日だけだった。

     「私に触れないで。触れられれば、今ここで死にます。」

     私は、その彼女の背中を見送った。力で抑える事には…もう飽いた。」

ファスター「ひゅ〜♪やるねぇ、お姫様。」

シセルド「力でもって攫(さら)っても、甘い言葉をかけても、体を奪っても、彼女の魂はピクリとも動かない。」

ファスター「うーん。だからさぁ、あの事言えば良いじゃん。
  
      相思相愛は無理でも、せめて嫌われなくなるかもしれないよ?」

シセルド「セーレクト…か…美しい国だった。」

ファスター「そうそう。お姫様の祖国セーレクトだっけ?

      あの国を滅ぼしたのは、シセルドじゃないってこと教えてあげなよ。」

シセルド「……言うつもりはない。」

ファスター「なんでなのさ?」

シセルド「…ルティアは、全てを失った。その心は私への憎しみで保たれている。

     憎しみの対象すら見失った時、彼女の心は崩れ落ちる。

     そんな彼女を見るくらいならば、私は喜んで…彼女に憎まれ続けよう…」




ナレーター「かみ合わぬ想いは巡り、運命の歯車は狂ったままに。
 
      月は高く、夜は深く。全てを等しく包んでいた。

      次回、魔性の傷跡第10話。ご期待ください。」 

fin


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