ルティアの追放を賭け、真剣勝負を始めたラセル王と宰相カザック。

しかし突如現れた東の主、ファスターによって勝負は中断。

王を得たいがために国民を虐殺し、

ディルスを破壊せしめんとするファスターに、意を決し立向かうカザック。

すべての運命の歯車が狂い始める―


魔性の傷跡 第7話 『狂乱の始まり』

魔性の傷跡
第7話 『狂乱の始まり』

【登場人物】♂4♀1 もしくは♂3♀2

ルティア・ナレーター(21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ラセル  (26歳)♂:ディルス国の若き王。
カザック (48歳)♂:ディルス国の宰相。
レイス+監視兵(20歳)♂or♀:クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ
ファスター(?歳)♂:魔性。東の「主」

※監視兵はファスターでも可能です。

【役表】
ルティア・ナレーター♀:
ラセル♂:
カザック ♂:
レイス・監視兵♂or♀:
ファスター♂:



ナレーター「戦闘訓練場アルスでは、ルティアの追放を賭け、ラセル王と宰相カザックの

      真剣勝負が始まろうとしていた。両者、愛刀を引き抜く。」

【戦闘訓練場アルス】

カザック「おやおや、貧弱なレイピアで私の攻撃を受け切れますかな?」

ラセル「ふん、ファルシオンのようなウスノロ刀、まともに受ける気も無いさ。

    すぐに老いぼれの足腰立たなくしてやる。」

レイス「あーあ、見てらんない。」

カザック「期待させて頂きましょう。」

ラセル「期待してもらおう…行くぞっ!はぁあっ!」

カザック「猪(いのしし)ですか貴方は。」

ラセル「先ずは小手調べ、せいっ!」

カザック「っ…さすがに…速い…」

ラセル「まだまだっ!」

カザック「くっ…」

ラセル「どうした、避けるのに精一杯で手が出ないか!」

カザック「確かに…速いっ…ですが…」

ラセル「しまった!」

カザック「一度止めれば、こちらの番…」

ラセル「ちっ!」

カザック「ボンナリエール(後ろに飛ぶ)。そうですね、的確だ。」


ラセル「攻撃が長引くと読まれるな。」

カザック「攻めすぎるのは昔から悪い癖ですね。」

ラセル「それは…どうかな!(突き)」

カザック「!低いっ…」

レイス「あんな低姿勢から!?」

ラセル「そらっ!」

カザック「ぐぅぅっ!」

レイス「うわぁ…痛そっ」

ラセル「まずは一本!だが、休ませない!」

カザック「ぐあっ…!」

レイス「うあー鬼畜…」

カザック「…これは参った、足をやられてはウスノロがますますノロマになってしまう。」

ラセル「自虐が似合わん奴だな、本気で来い。」

カザック「いやいや、本気ですよ。ラセル様があまりにお強くなられたのでしょう。」

ラセル「気持ち悪いぞ、カザック。」

カザック「本当ですよ、困りました。これではルティア殿を追放出来ません。」

ラセル「何を企んでいる。」

カザック「企んでなどいませんよ…ただ…血の匂いで少し眩暈がしてきました。」

ラセル「いつからそんなひ弱になった。来ないならこちらから行くぞ!はあぁっ!」

カザック「ふぅっ(呼吸が変わる)」

レイス「止めた!?あの速さを!」

カザック「ラセル様、あなたのお父上ベルサス様はなぜ…

    騎神王(きしんおう)と呼ばれたか…ご存知ですか?」

ラセル「ぐっ…知るか…強かったからだろう…」

レイス「ああ、まともにあんなの受けてたら剣が持たない。」

カザック「そう…強かった。本当に強かった。向かうところ、敵無し。

     普段お優しいベルサス王が戦場で第一線に立つそのお姿は

     まさに『軍神アーレース』。ご存知ですか?破壊と狂乱の神ですよ!」

ラセル「ぐっ!」※鍔が割れる

レイス「ラセル、サーベル!受け取って!(投げる)」

ラセル「いらん!これは真剣勝負だ!(予備のマインゴーシュを抜く)」

レイス「かっこつけないで!予備刀で勝負になるわけないでしょ!」

カザック「年々ベルサス様の面影が色濃くなりますね、ラセル様。そういうところもそっくりです。」

ラセル「思い出話をしたいなら、後日にしてもらおうかっ!(突き)」

カザック「ファンデウ(突き)美しいフォーム、だが…その剣には向かない!」

ラセル「(胸を切り上げられる)うああっ!」

レイス「ラセル!…おかしい、さっきと比べてカザックの身体能力が格段に上がってる…それに…」

カザック「くくっ。ははは…あはははははは!」

レイス「…戦いを…楽しんでる…」

ラセル「…なんだ、お前…」

カザック「言ったでしょう?『狂乱』ですよ。血の匂いをかぐと…ベルサスの戦場での姿を思い出す…

     この状態になると…手加減するのが非常に難しい…」

ラセル「…元より、手加減など望んでいないさ…」

カザック「いくら頑固な貴方でも、腕の一本くらい奪えばわかってもらえるかな?」

ラセル「父の猿真似芸などに奪われはせん、次で決める!」

カザック「せいぜい命を奪われないように気をつけてください。死なれては私も困るのでね!」

ラセル「舐めるなっ!」


(ルティア駆けつける)

ルティア「そこまでです!」

ラセル「ルティア!」

レイス「ルティアちゃんどうして」

ルティア「城中騒ぎになっています、何故こんな事をするのです!」

カザック「くく…それを聞くのは少々酷ではありませんか、ねぇラセル様。」

ラセル「ルティア、部屋に戻ってろ。」

ルティア「なら、こんな事は今すぐ止めてください。」

ラセル「出来ん!」

ルティア「何故です!」

カザック「私は構いませんよ、あなたがこの国から消えてくださるなら。」

ルティア「!…私が…消えれば…」

カザック「ええ、あなたはディルスにとって疫病神です。」

ラセル「黙れカザック!」

レイス「あーもー!」


(爆音)

全員「!?」

ルティア「ものすごい音…」

カザック「…今の爆音は…」

ラセル「どこからだ?」

監視兵「ラセル様!ご報告致します!7の塔から何者かによって爆発物が打ち上げられた模様です!」

ラセル「塔の被害は?」

監視兵「外観は損傷ありません!」

ラセル「その他、1から8の塔は?」

監視兵「損傷ありません!」

ラセル「一体何者だ…」

監視兵「7の塔、最上部に見たところ20歳前後の男が目視できます!

    あ、こちらに向かって手招きをしています!」

ラセル「…明らかに、誘われているな。」

カザック「…行きますか。」

ラセル「ああ。カザック、決着は…後日!」

カザック「わかりました。」

(ラセル・カザック 7の塔へ)

レイス「あ、ちょっと二人とも!…あーあ、僕も行くしかないか。

    ルティアちゃんは部屋に戻ってなよ。」

ルティア「私も、行きます。」

レイス「…カザックの言った事、気にしなくていいんだよ。」

ルティア「…ありがとう。でも宰相様の言うとおりだと思います。
    

     私は、この国にとって疫病神でしかない。でも…それでも…

     こんな私に生きろと言ってくれる人がいた。だから、今はこの国の為に何かをしたい。

     だから、私も行きます。お願いですレイスさん。止めないでください。」

レイス「…ルティアちゃん…わかった。行こう!」


【7の塔】

7の塔最上部にファスター。地面からファスターを見上げる形でラセル達4名到着。
兵士が10人程度、様子を伺っている。

ファスター「やぁやぁ、高い所から失礼。皆さん本日はお集まりいただき真にありがとう!」

ラセル「前置きはいい!派手に呼び出した要件はなんだ!」

ファスター「んー、元気がいいな。」

レイス「…やばい。」

カザック「レイス様、どうしました?」

レイス「…あいつも…魔性だ。しかも…」

ファスター「まずは自己紹介させてもらおうか、僕はファスター。東のファスター。」

ラセル「東…」

ルティア「まさか…」

ファスター「東の『主(あるじ)』って呼ばれる事もあるかな。宜しく。」

カザック「主…クラス…」

ファスター「さぁ、みんなも自己紹介してくれるかい?」

ラセル「招かざる客に名乗る名などない!」

カザック「こうも立て続けに…主クラスの魔性が…」

ファスター「威勢がいいなぁ。君が噂のラセル君だろ?」

レイス「バル・インダード!」

ファスター「へぇー、防御結界…手際いいね。君は魔法帝国クラリオンのレイスだね?」

レイス「ラセル…絶対に、挑発に乗らないで。助けられないから。」

ファスター「知ってるよ君の事。クラリオンの最有力、王位継承者なんて言われてるけど

      …元を明かせばディルスの捨て子。だろ?」

レイス「…っ。」

ラセル「貴様!」

カザック「ラセル様…挑発です。」

ファスター「その結界ほどくのは手間かかるな…シセルドなら簡単にやるだろうけど

      僕はめんどくさい事が大嫌いなんだ。」

ラセル「(カザックへ)わかってる…。貴様!何が目的だ?」

ファスター「僕はね、面白い事が大好きなんだよ。ねぇ、ルティアちゃん…シセルドのお姫様。」

ルティア「貴方…シセルドの差し金ですか。」

ファスター「違うよ。ああ…いいね。本当に眩しいな君は。人間とは思えないくらい派手だなぁ。」

ルティア「…何がです…」

ファスター「自覚ないのかい?君のその魂、目立ちすぎるんだよ。」

ルティア「…魂が目立つ…?」

ファスター「ゾクゾクするなぁ。その魂が、どれだけ僕たち魔性にとって魅力的かわかるかな?

      今すぐ切り刻んで僕の中に取り込んじゃいたい。」

ラセル「おい貴様!」

レイス「やめてラセル!」

ファスター「なんだいラセル君。僕の本命は君だよ。」

ラセル「…何?」

ファスター「シセルドに歯向かおうなんて面白いじゃないか。そんな君にすごく興味あるんだよ。

      とりあえず、その結界から出てこない?」

レイス「駄目だ!」

カザック「ラセル様、先日の事…くれぐれもお忘れなきよう。」

ラセル「…わかっている。」

ファスター「出てこないの?意外とビビリなんだな。じゃあ、こんなのはどうか…なっ!」

ラセル「っ!?」

(ファスターが塔を一突きすると爆音と共に、7の塔の上半分がガレキと化した)

カザック「…塔が…一撃で…」

レイス「…ガレキに…」


(ファスター地面に着地)

ファスター「今のは単純に力技だよ。魔力なしでいいからさぁ、一回やろうよ!ラセル君!」

カザック「力の差が…ありすぎる…」

ファスター「ほらほら、野次馬のお貴族様達まで集まってきちゃったよぉ。」

ラセル「来るな!」

ファスター「ざっと30人くらいか、ちょっと少ないけど。まぁいいか。

      ラセル君がそこから出てくるまで、今から大虐殺をしたいと思います!」

カザック「皆さん!お逃げください!」

ファスター「スタート。」

ラセル「貴様っ、やめろぉ!」

ファスター「はい、1人。」

ラセル「…やめ…」

ファスター「4人、5人!」

ラセル「やめ…て…くれ…」

レイス「耐えて、ラセル。せめてこの結界が完全に完成するまで。」

カザック「ラセル様…」

ファスター「8人、9人…」

ラセル「…俺は…」

ルティア「…ラセル…ごめんなさい…」

ファスター「10、11!駄目だ全然面白くない!みんなゴミみたい!」

ラセル「…俺は…無力だ…(涙が滲む)」

カザック「…(意を決する)」

ファスター「14、15!ねぇラセル君!これじゃ城中全部殺しちゃうかもよ。」

カザック「…ラセル様。何があっても、ここから出てはなりませんよ。」

ラセル「カザック?」

レイス「駄目だよ、カザック!まだ早い。」

カザック「私とて…これ以上ディルスの人間を殺されるのは黙って見ていられません。」

ラセル「ならば俺も!」

カザック「自覚なさい。あなたはディルス国の『王』です。

     …生きなくてはならない。その責任があります。」

ラセル「ならば何故、宰相のお前が出る!許さんぞカザック!」

カザック「私はもうこの年です。私より強い者もディルスにはまだいます。

     宰相1人が世代交代したところでディルスにとって、たいした痛手ではありませんよ。」

ラセル「馬鹿な…カザック!」

カザック「レイス様、ラセル様を頼みます。」


(結界から出るカザック)


ファスター「何?君に用はないんだけど。死ぬの?」

カザック「お初にお目にかかります。この国の宰相カザックと申します。

     死ぬつもりで出て参ったわけではございませんよ。」

ファスター「どういうつもりでもいいけどさ、ラセル君を出して欲しいんだけど?」

カザック「申し訳ありませんが、王はまだ貧弱でお相手になりません。

     私でご満足いただけませんか?」

ファスター「おじさん、ちょっとは強いの?」

カザック「恐れながらこの国で5本の指に入る程度にございます。

     しかし本日のところは、どうか私でご満足いただき、お引取り願えませんか?」

ファスター「交渉する気?まぁ面白ければなんでもいいけど。」

カザック「ありがとうございます。それでは、全力でお楽しみいただけるよう努めます。」

ファスター「ふーん…いいよ、君、悪くない。おいで。」

カザック「お言葉に甘えさせていただきますっ!(斬りかかる)」

ファスター「(手で刃を掴み動きを止める)大型のファルシオン、体格を生かした武器選択だね。」

カザック「…うっ」

ファスター「重さも人間にしてはある。腕力は合格だ。(手を離す)」

カザック「(剣を降ろす)…全く…届きませんね。」

ファスター「ところで足、怪我してるみたいだけど大丈夫なの?」

カザック「ええ…ご心配ありがとうございます。むしろこの痛みと血の匂い

     思考を鈍らせてくれるので助かるくらいですよ。」

ファスター「ふーん、もっと痛がらせたいなぁ!(キック)」

カザック「(ギリギリでかわす)っ…!」

ファスター「そうだ、逃げて逃げて、すぐ死なれちゃつまらない。(連続攻撃)」

カザック「(避けながら)…努力っ…します!」

ファスター「へぇ、今の避けたのはすごい!遅いけど先読みが上手い、頭使ってるね。でも…(肘鉄)」

カザック「(ミゾオチに入る)ぐはっ!」

ファスター「先読みだけじゃ、限界がある。」

ラセル「カザック!」

ファスター「魔力使えない人間にしては随分良い方だよ、おじさん。

      でも…それだけだ!(倒れたカザックを踏む)」

カザック「ぐぅっ…」

ファスター「どれだけ手加減してあげたら、死なないで長持ちするかなぁ。

      (カザックの顎を持ち上げる)目は一個あればいいよね?」

カザック「(右目をえぐられる)あああああああああ!」

ラセル「やめろおぉーっ!目的は俺だろう!俺が出て行けばいいんだろう!」

レイス「いい加減にして!カザックがなんで出て行ったか、わからない程の馬鹿なの!

    ラセルだけは、守りたいからでしょう!」

ラセル「無理だレイス!もう耐えられない!俺は出る、そこをどけ!」

レイス「もう少しで術が完成するんだよ!おとなしくしてて!」

ラセル「完成してどうなる!あの魔性をどうにか出来るのか!カザックの目が戻るのか!」

レイス「そんなの無理だよ、この結界が完成したら、僕らと城の人は安全に逃げられる。

    それしか今は出来ない!邪魔しないで!」

ファスター「内輪もめ?面白そうだなぁ。君はラセル君に大事に思われてるんだろうねぇ。」

カザック「ラセル様…今しばらく、今しばらく…そこで。」

ラセル「いやだ!俺は、俺は戦う!」

カザック「ふふっ…戦い…思えばディルスの300年は戦いの歴史。

     こうして戦いの中で死ねるならば本望。

     むせかえる血の匂い、悲哀、陰謀、狂気、すべて私の中に堕ちればいい。

     ラセル様、あなたは真新しい光だ。新しいディルスの時代を作られよ。」

ファスター「…その目…死を、覚悟したね。」

カザック「願わくばディルス最後の『狂乱』の戦と散れることを…いざ参る!」


ナレーター「次回、魔性の傷跡第8話、ご期待ください。」


fin

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