北の主シセルドの来襲により、深く傷を負ったラセル。

カザックは騎神にディルスの加護を祈り、自らの遠い過去を憂う。

ラセルの父である、今は亡き騎神王 ―― ベルサスとの思い出を。


魔性の傷跡 第6話 『騎神王ベルサス』

魔性の傷跡
第6話 『騎神王ベルサス』

【登場人物】♂3不問1

ラセル (26歳)♂:ディルス国の若き王。
カザック(48歳)♂:ディルス国の宰相。
レイス (20歳)♂or♀:クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ。
ナレーター+ベルサス(35歳):ディルス前国王。ラセルの父。騎神王(きしんおう)の異名を持つ。

【役表】
ラセル♂:
カザック♂:
レイス不問:
ナレーター+ベルサス♂:



ナレーター「魔性『北の主』シセルドから受けたラセル王の肩の傷は深かったが、

               レイスの回復魔法とディルス医師団の集中治療により後遺症は残らないレベルまで回復した。

               ここは療養中のラセル王の寝室、カザックとレイスは見舞いに来ていた。」

【ラセル寝室/療養中】

レイス「く・ら・い!」

カザック「明かりを足しましょうか。」

レイス「そういう意味じゃないよ。さっきからウジウジウジウジ…」

ラセル「別にうじうじしてるわけでは…」

カザック「してますね。」

レイス「してる。」

ラセル「お前ら、変なところだけ息合わせやがって。」

レイス「せっかく肩の傷、無事に治りそうだっていうのに、暗いのだけは勘弁してよね。

    苦手な回復魔法頑張ったかいがないじゃない。」

ラセル「…すまない。」

カザック「リザイア姫はご帰国の準備が整いましたので、明日にもマリーガルドへ帰られます。」

レイス「早いほうがいいね、あの精神状態は見てらんないよ。」

カザック「母国でゆっくり休まれれば、じき回復されるでしょう。」

ラセル「そうだな…」

レイス「ルティアちゃんも、あれから食事全然とらないんだよね…」

カザック「最近は中庭にも出られていません。」

ラセル「…そうか。」

レイス「…ラセル、君はしっかりしててよね!」

ラセル「…わかってる。」

レイス「さすがに…あれには僕もへこんだけどね。魔性絡みってのは元からわかってたけど…
 
    いくらなんでも『主(あるじ)』クラスが出てくるとは思ってなかったしなぁ…」

カザック「…レイス様、主(あるじ)というものについて教えていただけますか?」

レイス「あ、まだ話してなかったっけ。」

カザック「詳細は…」

レイス「詳細ねぇ、それは正直わかんないんだよなぁ。」

カザック「レイス様でもお分かりにならないのですか?」

レイス「んまぁ、ざっくり言うと、魔性の親玉。東西南北の4方位(しほうい)を

    『主』(あるじ)と呼ばれる4人の魔性が統治してるっていう伝承があるの。」

ラセル「あんな化け物が4人もいるっていうのか!?」

レイス「シセルドとか言う魔性、上位魔性の中でもケタはずれすぎる。

    アレは間違いなく『主(あるじ)』だよ。

    まさか、本当にお目にかかる事になるとは思わなかったなぁ…」

カザック「危険性は?」

レイス「未知数。一つだけいえるのは『主』クラスの魔性が登場する伝承は

    だいたい歴史の分岐点と関わりがあるって事。」

ラセル「魔性が、人間の歴史を変えたというのか?」

レイス「それはわからないけど…ただ、もしそうなら、歴史を変える程の力…って事だよね。

    僕があれだけ念入りに作った結界だって一瞬で消されたんだもん。プライドズタボロだよ。」

ラセル「それは…俺も同じことだ。」

レイス「ラセルは馬鹿なだけだよ。」

ラセル「なんだと」

レイス「魔性になんの魔力補正もなく勝てるわけないじゃん。

    チーターに裸足で短距離走挑んでるみたいなもんだよ。

    足の作りからして違うの。意味わかる?」

ラセル「…作りが違う…?」

レイス「そ、人間と魔性は見た目は似てるけど作りが違う。だから魔法を使って、能力の差を埋めるの。

    それでも足りないから、知恵と努力と汗と涙を振り絞ってクラリオンは

    あそこまで魔性に対抗出来るようになったわけ。

    ここをわかってないから馬鹿だし無謀って言ってるの!」

ラセル「…もうなんとでも言ってくれ。」

レイス「体力馬鹿!頭固い!無駄に偉そう!」

ラセル「うう…」

カザック「レイス様、そのくらいで。」

レイス「だからね、ディルスは魔性に対して丸裸なんだよ。もっと勉強して対策練らないと駄目だ。」

ラセル「わかってる。そのつもりだ。」

レイス「…よし。いつものラセルに戻りそうかな。」

ラセル「…レイス、ありがとう。」

レイス「感謝の気持ちは魔術講演の礼金に反映してくれてもいいよ。」

ラセル「はっ、ちゃっかりしてるな。」

レイス「さて…講演5分前だ。頭の固い戦士達にたっぷり魔術を叩き込んであげよう♪」

ラセル「死人は出さないでくれよ。」

レイス「はーい」


(レイス退室)

ラセル「あいつ変わったな。昔は俺の後を着いてくる弟みたいだったのに…」

カザック「随分たくましくなられました。」

ラセル「見た目はどう見ても女なのにな。よし、俺も負けてはいられない。

    明日にも『アルス』で訓練再開だ。」

カザック「なりません。」

ラセル「肩なら、もう大丈夫だ。なんなら今日再開してもいい。」

カザック「なりません。」

ラセル「カザック。」

カザック「…あまり私を怒らせないでください。」

ラセル「…」

カザック「魔性に操られたのが、リザイア姫で良かった。」

ラセル「何?」

カザック「もし私が操られていれば、ラセル様、あなたを殺していました。」

ラセル「…」

カザック「あなたは、愚かだ。」

ラセル「……。」

カザック「なぜ…ルティア殿なのですか。」

ラセル「…わからない。」

カザック「リザイア姫をご正室にむかえられませんか。」

ラセル「それは出来ない。」

カザック「ディルスを真に思うのなら、お父上ベルサス王の死を悼(いた)むのなら

     貴方が選択した道は間違っています。」

ラセル「…わかっている。」

カザック「…わかっているなら、なおのこと厄介です。それでは、肩に受けた傷の事はどうです?

     平気だ大丈夫だとおっしゃって、どれだけ重症だったのか、わかっていないのではないですか?

     レイス様の回復魔法がなければ、あなたは隻腕(せきわん)の王となっていたかもしれないのですよ。」

ラセル「…すまない。」

カザック「謝ってすむ問題ではありません。片腕の剣技国王など、他国の笑い者だ。」

ラセル「…そうだな。」

カザック「笑い者ですめばまだいい。

    ここぞとばかりにディルスを狙う国々が攻撃を開始するでしょう。おわかりですね。」

ラセル「…ああ、ミザール、ダズット…あのあたりは大喜びだろうな。」

カザック「そのような敵対国家に対する備えは充分あります。

     武力での戦で我が国が敗れる事はまずないでしょう。

     …ですが、魔術が絡めば話は別です。」

ラセル「だから、こうして国をあげて学んでいる。いずれにせよ、魔術は避けて通れない。」

カザック「時期尚早(じきしょうそう)だと言っているんです!

     ましてや魔法帝国クラリオンすら未知の『主』などという存在を

     今のディルスが相手に出来るわけがない。少しでも時間が欲しいんです。」

ラセル「…だから一秒でも早く、訓練を再開したい。」

カザック「論点がズレています!ルティア殿の事は諦めなさい。そうすれば解決します。」

ラセル「…いやだ。」

カザック「ダダをこねる子供ですか。貴方はディルス国の王なのですよ。」

ラセル「俺がルティアを見捨てれば…あいつは永遠に救われない。」

カザック「ディルスよりも大事な事ですか?『傷跡』を受けた時点で、彼女の人生は終っています。」

ラセル「!?…なぜ…お前がそれを知っている。」

カザック「当然、監視範囲内です。」

ラセル「…ご苦労な事だ。」

カザック「彼女はディルスにとって危険すぎます。」

ラセル「…すまない、カザック。出て行ってくれ。」

カザック「もう一度よくお考えなさい。騎神のご加護を。」

(カザック退室)

カザック「…ベルサス王。お守りください。」



【カザックの回想】(ベルサス35歳 カザック27歳 ラセル5歳)

(戦闘訓練場アルスにて)

カザック「…はぁ…はぁ…」

ベルサス「どうしたカザック、もう終わりか。」

カザック「…っ…はぁ…はぁ…」

ベルサス「お前は力はあるが足元が弱いなぁ。」

カザック「…はい。」

ベルサス「ほぉ、自分の弱点を理解しているようだな。」

カザック「どうしても、重心がブレてしまうのです。」

ベルサス「そうだな、体が大きい分ブレも目立つ。だがな、俺は良いと思うぞ。」

カザック「良い…とはどういう事ですか。いつまでたっても弱点を克服出来ず、お恥ずかしい限りです。」

ベルサス「お前は克服する事ばかり考えて、そこから離れられないでいるようだな。

     そのせいでその弱点が返って目立つ。」

カザック「…おっしゃる通りです。」

ベルサス「無理に矯正(きょうせい)しようとするから動きが固くなる。

     例えばだ、その重心のブレに、お前の腕力をのせてみてはどうだ?

     本人が意図せぬ動きというのは脅威だぞ。」

カザック「…それは…考えたことがありませんでした。」

ベルサス「馬鹿には使えない手だがな。幸いお前は頭が良い。

     それはそれは厄介な相手になるだろうな。ハッハッハッ。」


カザック「…恐縮です。」

ベルサス「カザック、俺はお前に期待している。いずれは…

    この国の重責(じゅうせき)を担(にな)ってもらうつもりだ。」

カザック「もったいないお言葉…」

ベルサス「そうかしこまるな。そうだ、ウェルナンから珍しい酒が入ったんだ。一杯やるか?」

カザック「まだ日も落ちていませんが…」

ベルサス「固いことを言うな、お前に色々話しておきたい事があるんだよ。

     この国の事…それと、息子の事とかな。」

カザック「ラセル様の?」

ベルサス「ああ。親馬鹿と言われるかもしれないがな、あいつは良い王になるぞ。
    
     俺に似て、少々無鉄砲なところがあるがな。」

カザック「そのようで。」

ベルサス「(笑いながら)小気味良い!俺の部屋に来いカザック。」


【ベルサス王の部屋】

ベルサス「どうだ、上手いか?」

カザック「…はい。かなり甘いですね。」

ベルサス「お前はその図体(ずうたい)で甘党か。」

カザック「…そうですね。飲んだことのない味ですが…どこか懐かしい」

ベルサス「ウェルナンが遥か西の国から仕入れた果実酒だ、杏(あんず)とか言ったか。

     俺は辛党だから持て余していたんだ。」

カザック「私は処分係ですか。」

ベルサス「おれはこっちのドンフリオ(アルコール度数激高)でやらせてもらおう。」

カザック「おっ…と、それは私には無理な代物ですね。」

ベルサス「…(飲む)ふーっ。喉が焼ける。だが爽快だ。

     こういう美味い酒は…ディルスだけでは手に入らない。」

カザック「そうですね。」

ベルサス「そうだ。ウェルナンがなければ我が国の食料事情は大きく崩れる。

     なぁ、カザック。この国をどう思う?」

カザック「300年の戦を勝ち抜いた最強の剣技国家です。」

ベルサス「聞こえはいいな。だが、あと100年、200年、守れると思うか?」

カザック「はい。私も微力ながら全力でお守り致します。」

ベルサス「その心意気や見事。だが、俺はそうは思わない。」

カザック「騎神王が、何をおっしゃいます。」

ベルサス「堅固(けんご)さというのは時に、敵を更に強くする。

     俺は先日、クラリオンで魔性というものを初めて見た。」

カザック「本当に、存在するのですか?」

ベルサス「低級の魔性は実態を持たないようでな、俺には見えなかったが、確かに『いた。』

     あんな得体の知れない存在が敵になれば、どうなるか…。

     ただでさえ、ディルスは諸外国(しょがいこく)から常に狙われている。

     いつまで持ちこたえる事が出来るか、俺は時間の問題だと思う。」

カザック「…ベルサス王、情け無い事をおっしゃいますな。」

ベルサス「カザック、お前は強く、賢い。必ずやこれからのディルスを動かす力となる。

     俺に協力してくれ。」

カザック「…もったいなき、お言葉。」

ベルサス「それとな、息子の教育係を任せたい。」

カザック「私のような平民出の無骨者(ぶこつもの)でよろしいのですか。」

ベルサス「品がよろしいだけが王族ではないさ。」

カザック「身に余る光栄。承知致しました。」

ベルサス「頼むぞ、俺の大事な息子だ。(父親のような笑顔)」

カザック「…ふふ。王のそのようなお顔、初めて拝見しました。」

ベルサス「カザック俺は…最近怖いんだよ、自分の力が年々少しずつ衰えていくのがわかる。

     筋力、体力、ゆっくりと、だが確実に全てが衰える。

     いつかは、力など消えてしまうのではないか。

     そうすれば自分の守りたい者も、この手で守れないのではないか。怖くてたまらない。」

カザック「多くのものを大切に、想われている故でしょう。」

ベルサス「家族も、国も、全てを守りたい。この命ある限り永遠に。もちろん、お前もだ。」

カザック「有り難き幸せ、この命をかけてお手伝い致します。」

ベルサス「礼を言う。…俺は良き友に出会えた。」

カザック「と、友ですか?」

ベルサス「そう呼ばれるのは、気分が悪いか?」

カザック「い、いえ。ですが、その、、なんと言ったらいいか…」

ベルサス「ならば、呼ばせてくれ。『友』と。」

カザック「は…はい」

ベルサス「ははは、ありがとう。またこうして酒を飲もう。今度はお前の話を聞かせてくれ。」

カザック「面白い話は出来ませんが…よ、喜んで。」

ベルサス「なぁ、カザック…俺にもしもの事があったら、お前に息子を頼んでも良いか。」

カザック「呑みすぎです!騎神王にもしもの事などありません。」

ベルサス「…ああ、そうだな。少し、呑みすぎた。」

【回想終了】

カザック「それから数年のうちに王は亡くなった。暗殺者による毒殺だった。

     平民出の私にあれ程目をかけてくださった、ベルサス王は…

     その優しさ故に暗殺者につけこまれた。

     私は王の遺体の前で、何も出来ず、ただ呆然と立ち尽くした。

     声をあげて泣く事すら出来なかった。

     なんという無力感、絶望、後悔…闇の感情が私の中で渦を巻いていた。

     全てを壊したくなる衝動。

     心が闇に支配されていく中で、私はたった一つの小さな光を見つけた…ラセル様だ。

     幼いラセル様は生きている、私にはまだ役目があるのだ。

     それに気がついた時、私はラセル様を強く強く抱きしめ、嗚咽(おえつ)をあげて泣いていた。

     枯れる程に涙を流した後に残ったのは『ベルサス王の願い』それだけだった。

     なんとしてでも、ディルスを守る。ラセル様をお守りする。

     それが、それだけが私の生きる意味…そうでしょう。ベルサス。」


ナレーター「それぞれの思惑がすれ違い、かみ合わぬままに数日の時が流れた。

       戦闘訓練場『アルス』では、ラセルが訓練を再開していた。

       今日はレイスとの手合わせである。」

レイス「ゼヴィ・ダルオード!」

ラセル「(風の刃をかわす)ちっ!」

レイス「上手くよけたね!」

ラセル「おしゃべりしてると印を紡ぐのが…間に合わないぞっ!」

レイス「うわっ!…と。接近戦は不利だなぁ。(距離をとる)」

ラセル「そんなヒラヒラした服着てると切り裂きやすいな。」

レイス「!?…あっー!やられた。この袖(そで)気に入ってたのに!」

ラセル「次は腰紐を狙おうか。」

レイス「ラセルったら、そういう趣味もあるわけぇ?勘弁してよねー」

ラセル「減らず口を!そらっ!」

レイス「地精(ちせい)ノーム!」

ナレーター「訓練場の床板が隆起(りゅうき)し、ラセルの周囲を囲む。」

ラセル「なっ…」

レイス「減らず口叩きながら、印を紡いでたりして♪」

ラセル「ちゃっかりしてやがる…なっ!(板を蹴り飛ばす)」

レイス「足癖悪いなぁ!でも次の手も打ってるよん♪サハラ・デルド!」

ナレーター「床板を剥がされ露出した大地から砂が激しく舞い上がる。」

ラセル「砂嵐…ぐあっ!」

レイス「あははっ。どう?何も見えないでしょ?精霊魔法って苦手なんだけど

    ディルスってば地のエネルギーが強いからこういうのはラクなんだよー♪」

ラセル「…(顔の砂をぬぐいながら)風呂に入りたい。」

レイス「余裕ありそうだね、いじめたくなるなぁ!デルドダーズ!」

ナレーター「拡散した砂が上空で一本の巨大な槍となり、ラセルに向かって急降下する。」

ラセル「はぁっ!」

レイス「速い!やるねっ!」

ラセル「こういう方がやりやすいな。」

レイス「そう、なら遠慮しないよ。デル・ダーズ・バルクリア!」

ナレーター「巨大な砂の槍が今度は数十本となった。」

ラセル「数が増えたところで、同じこと!うおおぉっ!」

レイス「わぁーお!お見事お見事!全部受けきれるとは思わなかったよ!すっごーい。さすがディルス王!」

ラセル「はぁ、はぁ…」

レイス「でも、この辺にしとかない?」

ラセル「…(ため息)そうだな。」

レイス「おぉー、さすが王様!引き際も大事だよね。」

ラセル「お前が手加減してるのが丸わかりだからな。」

レイス「あ、バレた?」

ラセル「あんな…剣で戦いやすい固形物ばかり出されては馬鹿でもわかるさ。

     …剣のみで魔法相手にするのは不可能って事が良くわかった。」

レイス「そーゆーこと♪さて、どうする?」

ラセル「…意地が悪いな、お前。」

レイス「ありがと。」

ラセル「褒めてない。」

レイス「ほらほら、どうするのー?僕にお願いないのかなー?」

ラセル「ちっ…。」

レイス「今のなにー?舌打ちー?僕クラリオンに帰っちゃおうかなー。」

ラセル「…俺に…魔術を教えろ。」

レイス「…え?なんてなんて?聞こえないよー。」

ラセル「…くそっ。」

レイス「あははっ。冗談だよ、可愛いなぁ。」

ラセル「ふざけるな。年下のくせに。」

レイス「ふふふっ。年齢でしか威張れないなんて可哀想♪」

ラセル「…(小声)誰か助けてくれ…」

カザック「レイス様、ラセル様をいじめるのはそのくらいに。」

レイス「おっと、宰相様のおでましかぁ。」

ラセル「…うっ。またやっかいなのが…」

カザック「ラセル様、今日は程々の訓練…と伺っておりましたが。」

ラセル「…だから…途中で止めたぞ。」

カザック「対魔法訓練とは聞いておりませんが。」

ラセル「言ってないからな。」

カザック「ほうほう、そうですか。お元気そうで何よりです。」

ラセル「…(悪寒)」

カザック「ラセル様はお力が有り余って仕方がないご様子ですな。」

ラセル「寝てばかりでは体が鈍(なま)る。」

カザック「成程、それでは…私とお手合わせ願えますか。」

ラセル「…その目は…本気だな。」

カザック「この老体で王のお相手が務まるか不安ですが。」

ラセル「…いいだろう。肩の傷など、もう完治した事、ハッキリわからせてやる。」

カザック「一つ。お願いがございます。」

ラセル「何?」

カザック「私が勝てば、一つだけ願いを叶えてください。」

ラセル「…どのような願いだ…」

カザック「私の望む人物を一人、この国から追放する…というのは如何ですか?」

ラセル「断る!汚いぞカザック!」

カザック「おやおや、酷い慌てようだ。この老骨(ろうこつ)に勝つ自信もないのですか?」

ラセル「なんだと…」

カザック「私ごときに勝てなくて、あの魔性に勝てるおつもりか?

     この国を守れるおつもりか?ははっ。滑稽ですよ!」

ラセル「…言わせておけば!いいだろう。受けて立つ!

    ただし、俺が勝てば、二度とルティアに関して口出ししないでもらおう!」

カザック「おやおや、せっかく名前を伏せておいたのに…」

レイス「あーあ。僕しーらないっと。」

ラセル「年寄りだと思って手加減はしないぞ、カザック。」

カザック「怪我人に本気を出すのは、気が引けるものですな。」

ナレーター「真剣をとるラセル王と宰相カザック、両者の力は拮抗(きっこう)していた。

      次回、魔性の傷跡 第7話ご期待ください。」


fin

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