理想を夢見る人間の王。
復讐を夢見る鉄血の王。
少女は嘆き、騎士は叫び、道化は愉快にあざけり踊る。
潜む闇は甘く囁き――最後に訪れる夢の果てで、笑うのは『誰』か。  

魔性の傷跡 第22話 『夢の果て』
魔性の傷跡 第22話『夢の果て』
【登場人物】
ラセル(26歳):ディルス国の若き王
イース(20歳)+ナレーター♂:ダズット国の若き王
スフレ(?歳)+兵士♂:魔性、西の副官
シルキィ(28歳)+カザック(48歳)♂:ディルス国の将軍「白銀軍」を率いる/故人・ディルス国の元宰相
アルザ(20歳)♂:ディルス国の給仕
ヨミ(24歳)+ルティア(21歳)♀:白銀軍副長/亡国セーレクトの姫
ツドイ(35歳)+ナレーター2♀:クラリオン国の元帥
【役表】♂5♀2
ラセル:
イース+ナレーター♂:
スフレ+兵士♂:
シルキィ+カザック♂:
アルザ♂
ヨミ+ルティア♀:
ツドイ+ナレーター2♀:

※ナレーターが2名です。

ナレーター「ディルスを囲む深い森の中、敵国ダズットとの激戦は続いていた。
      部下のアルザを人質にとられたラセル王。
      ダズットの巨大な兵器は、ゆっくりとその照準を定めていく。」
【A地点】
ラセルM「俺が一歩でも動けば、アルザは殺される……どうする……!」
イース「もっと上だ上。よし、もう5メートル下がれ。
    よーし、そこだ、そこに縛り付けろ。
    ……くっ……はは……いい格好だぜ、ラセル。
    俺はこの瞬間をずっと夢に見ていた。
    追い続けた獲物を仕留める瞬間ってのは最ッ高の気分だ……」
ラセルM「密かに防御魔法を組むか……しかし、あの砲撃はとても防ぎきれそうにない。
     どうすればいい……!」
カザック 「自覚なさい。貴方はディルス国の王です。」
ラセル「カザック……?」
カザックM「生きなくてはならない。その責任があります。」
ラセル 「……王としての責任……」
イース「さてと、お祈りの時間だ。」
兵士「二十八糎榴弾砲(28センチりゅうだんほう)発射まで!10、9……」
アルザM「ラセル様!僕はどうなっても良いんです!」
ラセル「……それでも俺は……」
兵士「7、6……」
イース「喜べよラセル、こんな盛大な最後を迎えられる事をさ。」
ラセルM「……俺はもう2度と……」
ルティアM 「私が死ねば全て終るのよ!」
ラセルM「もう2度と、お前のような奴を見殺しにしたくないんだ……!」
兵士「3、2……」
イース「騎神(きしん)のご加護がありますように。」
兵士「発射!」
ナレーター2「大気を劈く(つんざく)爆音と大地を震わす衝撃に、雪煙が巻き上がった。」      
イース「はーっはっはっはっ!ついにやったぜ、見てくれ親父いぃ!」
兵士「イース王!あれをご覧ください!」
イース「!?」
兵士「あ、あの砲撃が直撃して、む、無傷、無傷です!」
ラセルM「(※息を吐く)漸(ようや)く、時満ちたか。」
イース「…………こいつはたまげた。」※冷や汗が流れる
ナレーター2「ラセルは雪煙の中を悠々と飛翔し、イースの前に静かに降り立った。」
ラセル「(※降り立つ)…ふっ。」
イース「やるじゃないか。魔術か何か知らないが、まさかコイツを防ぎきるとはなぁ。」
ラセル「ヌシは、さような戯具(ぎぐ)で、まこと我を滅せると思うたか?」
イース「おいおい、調子にのってもらっちゃ困るな。こっちには人質がいることを忘れてないか?」
ラセル「笑止。」
イース「なんだと……?」
ラセル「我を滅したくば、魂を滅してみよ。」
イース「お前、何言ってやがる?」
ラセル「わからぬか?例えば、かように。」
イース「ぐああっ!?お、俺の体から、針が!?」
ラセル「はは。」
イース「なんだ、何が起きてる!うおお!」
ラセル「カラクリ人形と言えど、その表情は生きた人間……悪くない。」
イースM「馬鹿な……!俺の皮膚を突き破って針が出てくる……!」
ラセル「喜べ、ヌシを最初の獲物としてやろう。」
イース「てめぇ……一体何をしやがった!?」
ラセル「冷えた鉄の肢体にとくと味わえ。
    我が血に受け継がれし『南の力』を。」
【B地点】
スフレ「ビックリしました、こうもあっさり見破られちゃうとは。」
ヨミ「シルキィ!こいつと戦っちゃダメ!私は大丈夫だから逃げて!」
スフレ「うぅん、泣かせますねぇ!こんなにガッチリ拘束されて、
    どうして『大丈夫』なんて言えるのでしょう。
    お顔は努力賞ですが、その健気さには……特別賞をあげましょうかねぇ。(※口づけそうな程顔を近づける)」
ヨミ「っ!」
シルキィ「西の副官!何が目的だ!」
スフレ「『目的』ですかぁ?」
シルキィ「魔性がなんの理由もなくダズットに協力するとは思えない。
     人の戦にわざわざ介入するからには、それなりの目的があるはずだ。」
スフレ「ん〜ザッツライト。」
シルキィ「その目的、聞かせてはもらえないだろうか。
     内容次第ではダズットより良い条件で、それに協力しよう。
     こちらの望みはただ一つ。ヨミを解放して欲しい!」
スフレM「あぁ……聞きしに勝るとはまさにこの事……
     極上の魂と類い希なる美貌……魔性の本能を掻き乱される……!」
シルキィ「さぁ、単刀直入に言ってもらえないか。」
スフレ「ズバリ言いましょう。……『貴方』ですよ。」
ヨミ「っ!?」
シルキィ「私……?」
スフレ「貴方が欲しいんですよ、シルキィ将軍。」
ヨミ「シルキィ駄目ッ!むぐ」※口を手で塞がれる
スフレ「ちょっと黙っててくださいね、ヨミさん。
    ご存じかもしれませんが、魔性というのは『調律』をとる存在なのです。
    この世界の『調律』をとることが本能に組み込まれています。」
シルキィ「聞いた事のない話だが、それと私になんの関係がある?」
スフレ「シルキィさんのせいじゃないんですけどね?
    最近『調律』が狂ってきてるんですよ。
    僕の大好きな大好きな南の主リビア様の消滅は大打撃でした。
    こうなると魔性としては、いてもたってもいられないわけです。
    そ・こ・で。アッチとコッチをこーやって、アレをちょいちょいとやると
    とってもイー感じになるなと思うんです。その為に、貴方と契約したいんです。」
ヨミ「(※スフレの手を噛む)」
スフレ「っ痛ったぁ〜!。ビックリ。貴方のキティちゃんに噛みつかれましたよ。」
ヨミ「シルキィ!逃げて!」
スフレ「ダメだなぁ。いい子にしてないと飼い主の評判まで落としちゃうでしょ!」※顔を殴る
ヨミ「ぐうっ!」
シルキィ「やめろぉ!ヨミに手を出すな!」
スフレ「ふふ。貴方みたいな美男子(びなんし)が、この程度の女にそこまでお熱ってのも面白いですよねぇ。
    こっちも時間が無いんです。もっともっと焦ってくださいよ。ほら!」※ミゾオチに膝蹴り
ヨミ「ぐはあっ!」
シルキィ「ヨミぃ!」
スフレ「ほら、わかるでしょ?これだけ親切に色々教えてあげたんだから。
    言えばいいんですよ。『同意する』って。」
ヨミ「はぁ、はぁ……シルキィ……だめ……!
   魔性と契約なんて、絶対に……しないで……!」
スフレ「それじゃあシルキィさんはどーやって貴方を救うんですかァ!?」※もう一撃ミゾオチへ
ヨミ「がはっっ!」
シルキィ「貴様……っ!」
スフレ「どうです?まだ迷ってるのかな?」
ヨミ「ゴホッゴホッ、はぁ、はぁ……」
スフレ「だったら、こういうのはどうです?」※ヨミの上着斬る
ヨミ「え、きゃああ!」
スフレ「あらあら、随分と女性らしい声をあげる戦士さんですねぇ。」
ヨミ「……」※恐怖で声が出ない
スフレ「将軍様の寵愛を受けるご尊体はどんなものかなぁ?」
ヨミ「ううっ!」
スフレ「へぇ、思ったよりあるんですね。ちょっとだけ、見直しました。」
ヨミ「やめて……」
スフレ「じゃあ……こっちの方はどうかなぁ。……ねぇ、『将軍様ぁ?』」
シルキィ「貴様、許さんっ……!」※剣を構える
スフレ「……あっれぇ?そっち?そっち選んじゃうんですか?絶対に得しませんよ。」
シルキィ「損得勘定など知ったことではない!」
スフレ「やだなぁ。戦わないで、お願い聞いてあげるって言ってるんですよ。
    ちょっと『傷跡』をもらってくれるだけで。」
シルキィ「ふざけるな。魔性と契約すれば、人としての命を奪われ、
     魂すら作り変えられる事は知っているぞ。
     私はこの身の全てを20年前ディルスに捧げた。魔性の配下などには下らぬ!」
スフレ「ちょっとちょっと、頭に血が上ってるんじゃないですか?
    バカ正直もクソ真面目も苦労するだけですよ〜。
    もうちょっと落ち着いて考えて……あれ?消えた?」※シルキィ消える
シルキィ「話はもう終わりだっ!」※攻撃
スフレ「ぐあぁっ!」
ヨミ「駄目、シルキィ!」
シルキィ「ヨミは返して貰うぞ。」

スフレ「(※距離をとって)あーあーあー、やってくれちゃいましたねぇ。
    これで、後戻りは出来ないですよ。……よいしょっと。」
ヨミ「あっ……!?」
ナレーター2「ヨミの体が空中に浮き上がる。」
スフレ「ヨミさんは邪魔だから上で見ていてくださいね。」
シルキィ「ヨミ、そこで待ってろ。すぐに汚れた魔の手から救いだしてやる!」
スフレ「すごい自信だ、でも確かにディルス最強と謳われるだけの事はありますね。
    今の一撃、僕も本気を出さないと、ちょっと危ないかなって感じました。
    んふふふ……やっぱりアナタ、欲しいぃ……!」
【A地点】
イース「南の力……?てめぇまさか、魔性と契約してやがったのか……!」
ラセル「我が力は『継承』に似る。『契約』とは異なる。」
イース「くそが……反則じゃねぇか!」
ラセル「違式(いしき)を唱えるのであれば、ヌシとて体を捨てる事となろう。」
イース「てめぇは善人ヅラしてるのがムカツクんだよ!
    やっぱりベルサスの野郎と同じじゃねぇか。
    どこまでも汚ねぇ血だぜ!くそっ!くそおおおおっ!」
ラセル「ははは、もはや我が針からは逃れられぬ。命尽きるまで嬲ってやろうぞ。」
イース「ぐぅうっ!」
ラセル「どうだ痛むか。怨讐(えんしゅう)の果てに見えた末路は、あまりに無惨よのう。」
イース「……ハッ!いい気になるな、クソ野郎ッー!」
ラセル「ヌシの肢体に針では少々役不足と見える。どれ、この杭も与えてやろう。」
イース「がああああ!」
ラセル「ははは。」
イースM「……このまま……この野郎にジリジリ殺されるぐらいなら……
     もう、俺の体がどうなろうと……かまわねぇ……」
ラセル「然(さ)しものヌシも杭は堪えたか。
    生命は甚(はなは)だ衰弱の気色(けしき)……なれど魂の火はまだ燃えさかっておる。」
イースM「鉄の心臓に刻みつけた『復讐』の二文字(ふたもじ)。
     そうだ……それを成し遂げる事さえ出来れば……
     後がどうなろうと、知ったことじゃねぇ!」
ラセル「どうした、痛苦(つうく)の音を漏らせ。怨嗟(えんさ)の声を吐くが良い。」

イースM「悲願『復讐』。ラセルを殺す。それだけで満願成就で万々歳だ!

     ふはっ……ベルサス!何があっても、どんな手を使っても、
     てめぇの息子だけは、ズタズタに引き裂いてブッ殺してやる。俺の最後の手段だ!」
ラセル「我を退屈させるでない。応えよ。」
イースM「コレを起動すれば、俺の意識は二度と戻らねぇ……
     アイツの骨を砕く感触すら味わえないのは、つまらんが……
     この体はもう数分だって保ちそうにねぇ……待ってろよ、親父……」
ラセル「……ふん、打てども響かぬ鉄屑ならば、もうよいか。」
イース「『動作状況変更』→『第四・第五動作:緊急停止』……」
ラセル「金物処分は我が得手と……ん?」
イース「『接続確認』→『保護切替/制御部 二五ノ一(ニゴノイチ)』→『零七(ゼロナナ)計測』……」
ラセル「何をしている。」
イース「『設定変更完了』→『零零零(ゼロゼロゼロ)自動操縦装置』→『作動』→『角指(カクシ)』」
ラセル「がはぁっ!」※ダメージ
イース「………シュウウウ」
ラセル「今の攻撃は……」
イース「『速度最適化+20』『修正/南南東+3』」
ラセル「くふっ、ふはは!そうか、ついぞ真の鉄屑と化したか、イース!
    一国の王たる地位も、人としての魂も全て投げ捨て!ははは。
    よかろう。ヌシの最後の足掻き、怨恨のカラクリ芝居、楽しませてもらおうか!」
【B地点】
ヨミM「シルキィが私の為に危ない目にあってる……嫌だ……
    シルキィの力になりたくて、今まで戦ってきたのに……
    こんな、こんな足手まといになるなんて!」
シルキィ「はあぁっ!」※突き
スフレ「わー怖ぁい!」※回避
シルキィM「またかわされた。なんというスピード、しかし絶望的ではないっ!」
スフレM「さすがに身体能力は抜群。僕とほぼ互角ってところかなぁ。」
シルキィM「ヨミを救う。この魔性を倒し、ヨミを救う!それだけでこの戦いに未来はある!」
スフレM「なんて純粋な殺気。混じり気の無い、祈りにも似た聖なる想いの強さ。
     これが危ない。僕達魔性の一番苦手なやつ。だから……!」
シルキィ「……なっ!?いつ後ろに……」※後ろをとられる

スフレ「貴方だけは絶対に口説き落とせって上から言われているんです。
    僕この前失敗した案件があって、これ以上ヘマ出来ないんですよ。覚悟してくださいね。」
ツドイ「RAD:EOLH+(ラグズエオロー)」
ヨミ「あっ!……」
ナレーター「空中に歯車の形をした魔力が出現し、ヨミの拘束を巻き取り保護する。」
シルキィ「ツドイ元帥!」
スフレ「おやぁ、クラリオンの援軍ですか!」
シルキィ「スキあり!」
スフレ「うわっと!あ、逃げられちゃった。」
ナレーター「歯車はツドイの近くまで移動して消滅する。」
ヨミ「ツ、ツドイさん、ありがとうございます!」
ツドイ「大丈夫ですか?」
ヨミ「はい、なんとか……」
ツドイ「ヨミ殿……その乱れた衣服は、あの魔性に?」
ヨミ「……あ……はい……」
ツドイ「…………怖かったでしょう。」
ヨミ「え?」
ツドイ「もう大丈夫ですよ。」※今まで見せた事が無い優しい表情で、ヨミに上着を着せる。
ヨミ「……」※ツドイの表情に見とれる
スフレ「ねぇねぇ、三対一って卑怯だと思いませんか?」
ツドイ「下劣な魔性、その言葉をそのまま返そう。貴様の行為は犬畜生にも劣る。臭いから口を開くな。」
スフレ「なんて酷い。繊細なハートが傷ついちゃう。」
シルキィ「ツドイ元帥、奴は『西の副官スフレ』と名乗っていました。気をつけてください。」
ツドイ「西の副官、スフレ……!」
スフレ「やだ、そんなすごい顔で見つめないでくださいよ。
    イース王から聞いてるんですね。」
ツドイ「貴様がレイス様の行方を知っているのか!」
スフレ「ええ、よぉ〜く、知っていますよ。
    どうですツドイ元帥、こちらに協力しては頂けませんか?
    僕はそこのシルキィ将軍をお仲間に迎えたいと思ってるだけなんです。
    それさえ叶えば『レイス様』の超レアな情報、教えてあげちゃいますよ。」
ツドイ「……」
ヨミ「ツドイさん……」
ツドイ「臭いから口を開くなと言ったはず。
    貴様が口をきいていいのは、私が命じた時だけだ。」
スフレ「あらまー。」
シルキィ「ツドイ元帥、感謝致します!」
ツドイ「このような事で感謝されるのは不愉快です。さぁ、とっととあの魔性を叩きのめしますよ。」
シルキィ「そうですね!」※剣を構える
ヨミ「わ、私も戦いますっ!」※戦死者から拾った剣を構える。
スフレ「どーしてそうなるのかなぁ。やんなっちゃう。」
【A地点】
ラセル「やりおる、人の身の限界を超えた速さと力……」
イース「『角指(カクシ)』」
ラセル「っ!(※ガード)
    一筋の『殺意』。ふふ……その切なる願いのなんたる強さっ!
    これは、何かしらの媒体があるのう。オレイカルコスを包蔵(ほうぞう)しておったか。」
イース「『九九式小銃(きゅうきゅうしきしょうじゅう)』」
ラセル「つむぎくげ(※針のガード)
    ……面白い。受けてみよ、-溝(みぞ)おおくけ-」
イース「『緊急回避』『第六装甲集中強化』」
ラセル「我が力をはねた!?」
イース「『解除』」
ラセル「……これは、魂を投げ捨てただけの事はあるのぅ。先程までとは段違い。」
イース「『九七式自動砲(きゅうななしきじどうほう)』」
ラセル「なかなかどうして、あなどれぬ!」
イース「『八十一粍無反動砲(81みりむはんどうほう)』」
ラセル「はやいっ!? -つむぎくげ……」
イース「『追撃』『八十一粍無反動砲(81みりむはんどうほう)』」
ラセル「連射、馬鹿なっ!?……ッ!」
 
ラセルM「(……かえせ、俺の体を……!)
     
     邪魔をするな!今戻ればヌシに勝ち目など無い。
     
     (それ以上、魔性の汚(けが)れた力を使わせはしない……)
     
     笑止、生き残る為に利用すれば良いだけの事、甘受せよ。
     
     深淵なる闇に身を委ね糸を垂らせ。『泉』を近く感じぬか?
     
    
    (俺は人間だ!魔性になど、決してならない……!)
     
    
     もう遅い……お主の針は抜けぬ。
    
     魔性の性(さが)が血に巡り、同化の時を待つのみ。
     
    
    (いいや、俺は戻る!お前の思い通りにはならない!俺の体から消え去れ!)」

イース「『生命反応確認』『接続切替』」
アルザ「はい、そこまで。」※頭部切断
イース「ガ、ガ、……
   『標的未確認』『強制停止まで5秒前』」
アルザ「……ふん」
イース「4」
アルザ「少し、機械の力を甘く見すぎていたようだ。」
イース「2、1、『自爆装置起動』」
アルザ「!?」
ナレーター2「天をも引き裂くような爆音、そして炎と風が森を襲った。
       それはあたり一帯の木々を消滅させ、戦いを続けていた兵士達の姿すら消し去った。
       後にはただ、熱と黒い影だけが残った。」
アルザ「あぶなかった……せっかくここまで積み上げてきたものを
    一瞬で全て壊されてしまうところだった……まぁ、この方が静かで良い。
    最後の最後まで食らいつく、火中の蛇のような男だったな、イース。
    俺は結構好きだったよ。……『復讐』美しい言葉じゃないか。
    怨讐(えんしゅう)の果てに見えた末路は、あまりに無惨……それもまた良かろう。」
ラセル「……ルティア……」※気絶している
アルザ「っくく、ははは……
    起きてくださいよ、ラセルさまぁ。」
【B地点】
スフレ「さぁ出ておいで、僕の人形(マリオネット)。」
ナレーター「スフレの呼びかけに答えるように空気が歪んだ。
      そこから現れたモノは、ツドイ、シルキィ、ヨミと全く同じ姿形をしていた。」
シルキィ「なんだこれは……!」
ヨミ「ツドイさんが4人、シルキィが4人、私が5人……全部で13人……」
ツドイ「ずいぶん悪趣味なものを呼び出したな。」
スフレ「数の暴力で勝ったつもりだったのでしょうが、お生憎様。
    そういうのは僕の十八番(おはこ)なんですよねー。
    さぁ、僕のマリオネット達に勝ってるっかな〜?」
シルキィ「元より数の暴力で勝つつもりはない。
     一体ずつ確実に倒していけば良いだけのこと!ヨミ、いくぞ!」
ヨミ「うん!」
ツドイ「ふっ、悪趣味な人形はお焚き上げに限るでしょう。
   『・UR;KEN(ウルズケン) 』!」
ナレーター「激しく燃えあがる炎が、巨大な雄牛(おうし)の形となって現れる。」
スフレ「これはなんとひどいセンス!ツドイさん、少しは女性らしくなさってはいかが?」
ツドイ「戦において無意味な事はしない!ふっ!」※牛に乗る
スフレ「エエエ〜乗っちゃうんだ。」
ヨミ「ツドイさんカッコイイ!」
スフレ「僕ついていけない。マリオネット、止めちゃって。」
ナレーター「4体のマリオネットが掌から糸状の魔力を繰り出し、ツドイごと炎の牛を巻き上げる。」
ツドイ「くっ!?」
スフレ「大物つかまえた。今夜はビフテキだぁ♪」
シルキィ「そうはさせん!はぁっ!」※糸を切る
ヨミ「ツドイさん、今お助けします!」※糸を切る
ツドイ「助太刀無用。燃え上がれ!」
スフレ「おお、すごい火力!」
ナレーター「魔力の繰糸(くりいと)が燃え落ちる。
      勢いを強めた炎の牛は、そのままマリオネット達に突進していく。」
ヨミ「すごいパワー!ツドイさんの魔力って、本当に強いんだ。」
シルキィ「これは、もしかしたら俺達の出る幕じゃないかな?」
スフレ「あーん!2体もやられた。さすが魔法帝国の元帥さんだ。」
ツドイ「貴様など南の主の絶望に比べれば、野良犬のようなもの!」
スフレ「ふぅん……」
ツドイ「っ!?」※転倒
ナレーター「炎の牛が横転する、それと同時にツドイもその背から投げ出された。
      マリオネットが足元に糸を張っていたのだ。
      気づけば繰糸は森の木々を用いて、辺り一面に張り巡らされていた。」
ツドイ「(※起きあがって)……ちっ、面倒なことを……」
ヨミ「ツドイさん大丈夫ですか!」
シルキィ「やはり連携で戦いましょう!」
ヨミ「今そちらに行きます!」
シルキィ「怪我はありませんか?」
ヨミ「ツドイさん、こっちの方が安全ですよ!」
ナレーター「ヨミとシルキィの姿形をした者達が、一斉にツドイに声をかける。」
ツドイ「……しまった。今のスキにシャッフルされた。どれが本物だ……」
シルキィ「そうか、ツドイ元帥は俺達のマリオネットに攻撃出来ない。」
ヨミ「じゃあ、私達が倒していくしかないね!
   私ははぐれてもシルキィを見間違えたりしないから大丈夫だよ♪」
シルキィ「俺も一太刀かわせばすぐにわかる。
     ツドイ元帥、ご自身のマリオネットだけ倒して下さい!」
スフレ「そう上手くいくかな?」
ナレーター「ツドイの形をした4体のマリオネットがヨミを取り囲む。」
ヨミ「!」
スフレ「せーのっ。」
シルキィ「避けろ!」
ナレーター「繰糸がヨミに一斉に襲いかかる。」
ヨミ「1、2、3、4、123……!」
スフレ「へぇ!すごい体勢でかわしましたね。」
ヨミ「2、2、3、4!」
スフレ「わぁーすごいすごい!でも、いつまでもつかな?」
ヨミM「負けない……!あの日決めたんだもの、私は絶対、シルキィの役に立つって……!」
【ヨミの回想】
ヨミ「お願いします!私を白銀軍(しろがねぐん)にいれてください!」
シルキィ「悪いけど、女の子を入隊させるわけにはいかないよ。」
ヨミ「足手まといだから?」
シルキィ「……(※ため息)はっきり言わせてもらうとそうだ。
     女の子は男に比べて筋肉量が少ない。当然非力だし、体力だって劣ってくる。
     それが悪いわけじゃないし、君の責任でもない。体の構造の違いだ。
     女性は戦には向かない。だから入隊させることは出来ない。諦めてくれ。」
ヨミ「絶対いや。」
シルキィ「あのなぁ。」
ヨミ「誓うわ。私はそんじょそこらの男になんか絶対負けないようにする。
   絶対あなたの役に立ってみせる。他に行くところなんてないの!」
シルキィ「ご両親があるだろう?」
ヨミ「……ないわ。」
シルキィ「ご親戚は?」
ヨミ「ないわ!……お願い、シルキィ将軍。私を追い返さないで。
   あなたがあの日、森で私を助けてくれたから、私はここにいるの。」
シルキィ「……」
ヨミ「どんな厳しい訓練だって大丈夫。
   本当に、心から、あなたの役に立ちたいって思う。
   それが出来たら私、やっと……自分を、認められそうなの。」
【B地点】
ヨミ「はぁ、はぁ……234!」
スフレ「ねぇ、ヨミさん!もう諦めたらどうです?
    どうしたってこの状況を打破出来そうにないと思いませんか?」
ヨミM「……負けない。シルキィが見てる、私を心配してる。
    大丈夫。あの頃より私、強くなったんだから……!」
【ヨミの回想】
シルキィ「……それじゃあ、命をかけられるか?」
ヨミ「それは無理。」
シルキィ「おいおい。」
ヨミ「命なんか賭けないわ。私は明るい未来を掴みたいの。」
シルキィ「……(※ため息)テコでも動かないって感じだな。
     負けたよ、わかった。」
ヨミ「ほんと!?」
シルキィ「ただし、弱音を吐いたり、戦力にならないとコチラが判断した場合は即刻お引き取り願おう。」
ヨミ「そんな事にはならないわ!」
シルキィ「では明日から訓練兵だ。あそこに見える宿舎に寝泊まりするように。」
ヨミ「訓練兵?白銀軍(しろがねぐん)じゃないの?」
シルキィ「馬鹿言うな。白銀軍はディルスでも生え抜き揃いの軍だぞ。
     そう簡単に入隊出来ると思わないように。」
ヨミ「えー!」
シルキィ「半年に一度、昇格試験があるんだ。
     面接、知識、実技のテストを受けてもらうぞ。
     階級は訓練兵からはじまり、2等兵、1等兵、上等兵、兵長、軍曹・・・・・・
     ここまで昇格したらナイトクラスと呼ばれ、軍の入隊試験を受ける事が出来る。
     ディルス軍の編成は8軍、16団、24大隊(にじゅうしだいたい)。
     当然、軍に入隊出来るまで昇格出来ない者が圧倒的に多い。もし仮に入隊試験に合格しても、
     8軍の中から最も適正のある軍を選ばれ、配属が決まる。
     希望の軍に入れるかは運と実力次第。順調に進めば三年だ。頑張れよ。」
ヨミ「さ、さんねんっ!?」
シルキィ「今すぐお家に帰ってくれるのが俺としては一番安心出来る。」
ヨミ「ううっ!絶対飛び級してやる〜!」
【B地点】
スフレ「うーんすごい、よくあんな風にかわせますねぇ!
    五感が随分と発達していそう。もっと囲んで囲んで〜。」
シルキィ「あの魔性、ハナから一番非力なヨミを狙い打ちにする気だったのか!
     どこまで卑怯なヤツだ!」※シルキィ型1体と戦っている
ツドイM「くっ!どれが本物のシルキィ殿かわからない!」※シルキィ型2体と対峙している
シルキィ「ツドイ元帥、協力してヨミを助けましょう!」
ツドイ「そうしたいのは山々だが、あなたが本物だという確証がない。」
シルキィ「私が本物です、わかるでしょう?」
ツドイM「……背を向けてヨミ殿を助けに動けば一斉に襲いかかってくる可能性が高い。
     解呪(かいじゅ)の術も、この人形達には無効のようだ。
     あちらで戦っているシルキィ殿が本物か?
     どうすれば正体を見極められる……!」

スフレ「ほらほら、息があがってきてますよ〜。
    そろそろ降参したらどうですか?」
ヨミ「うるさいっ……!」
ツドイ「そうやって必死にもがく顔は一層醜いですね。」
ヨミ「!」
ツドイ「貴方みたいな女の子、どう見たってシルキィ将軍と釣り合わないな。」
ヨミM「……これは、ツドイさんじゃない。ツドイさんじゃない!」
ツドイ「こんな醜女(しこめ)に付き纏われて、貴方もご苦労な事ですね、シルキィ将軍。」
シルキィ「ええ、しつこい女で困っていたんですよ。」
ヨミ「!」
ツドイ「やはりそうですか。わかりますよ、貴方程の人材ならば王族にすら引く手数多でしょうに。」
シルキィ「ヨミがこの戦で死んでくれたら、私の評判を落とす事無く縁を切れて、すごく助かります。」
ヨミM「シルキィ……!あっ!?」
ナレーター「ヨミの右足を、繰糸が捕らえた!同時に左腕、右腕を絡めとられる。」
ツドイ「ヨミ殿!?」
スフレ「はい、ゲーット♪」
ヨミ「いやあ、離してっ!」
スフレ「再び魔の手に落ちた白銀軍副長ヨミ!
    彼女の運命や如何に!?次回をご期待ください……って感じですかね。」
シルキィ「しまった……!間に合わなかった・・・・・・!」
スフレ「ああいうの剣舞っていうんですか?いやぁ、お見事でした。
    でも、ちょっとメンタルを揺さぶってやればカ〜ンタン♪」
ヨミ「っ!」※舌を噛もうとする
スフレ「おおっと。」※ヨミの口に指を入れる
ヨミ「ぐ……」
スフレ「舌を噛んで死のうなんて、許さないですよ。」
ヨミM「……どうして、どうして、私ここにいるの……
    ……こんな、弱くて……全然、弱いじゃない……
    シルキィの足かせにしか、なってないじゃない……!」
アルザ「スフレ、よくやった。」
ナレーター「それは、鼓膜にベットリとこびりつくような、不快な響きだった。」
スフレ「おっと、我が主君のお出ましだ。」
ナレーター「降り積もった雪が一斉に溶け出し、柔らかな大地を露出させてゆく。
      大地は徐々に黒く染まりゆき、俄(にわ)かに沈下して、大きく穴を開けた。
      黒い大地の大穴から、現れたのは……ラセル王を抱えたアルザであった。」
スフレ「お早いお着きで。」
アルザ「お前の顔を早く見たくてな。」
スフレ「やだ、こんなところで止めてくださいよ。」
シルキィ「あれは、アルザ……どういう事だ……」
アルザ「しかし、ラセル王が起きないんだ。やはり人の肉体のままでは、かなりの消費らしい。」
スフレ「南の力はどうでしたか?」
アルザ「問題ない。肉体と合わせて、もう少し馴染めば」
ヨミ「アルザ、良かった、無事だったのね……!」
ツドイM「……知り合い?馬鹿な……あれは紛れもなく……!」
アルザ「はい!ヨミさん。僕は無事です。でも、人の心配してる場合じゃないでしょ?」
ヨミ「え?」
ナレーター「ヨミはアルザの中指に胸をブスリと突かれた。」
ヨミ「あ……ぁ……?」
ナレーター「ヨミの胸から血が滴る。」
スフレ「あーあ。手が早いんだから。彼女、状況が飲み込めてないみたいですよ?」
ヨミ「……なに……どうして……?」
アルザ「わからないわけないよね。ヨミさん、貴女そんなに鈍くないでしょ?
    それとも、認めたくないのかな?」
ヨミ「…………嘘……」
アルザ「……だったら良かったね。
    この俺が、西の主じゃなければ、良かったな。」
ヨミ「………嘘、嘘……!」
スフレ「お可哀想に。」
シルキィ「アルザ、お前……いつから欺いていた……」
アルザ「最初からに決まってるだろ?」
ツドイM「主クラス……勝てるのか……
     南の主で感じた、あの絶望的な力の差に……」


アルザ「さて、今この女に仕込んだのは俺の持つ『毒』。
    今から10分もすれば胸の痛みも消えて、
    めまい・手足のしびれ・呼吸困難に襲われる。
    言語障害・白血球と血小板の減少および造血機能障害、多様な症状が現れ、
    心肺停止に至るまでは約1時間。解毒剤は俺しか持たない魔性の毒。」
ヨミ「アルザ、嘘だって言って。アルザ……!」
スフレ「ちょっと、今大事なお話中なんだからお静かに。」
ヨミ「ディルスの役に立ちたいって、言ってたじゃない……
   あの時、命をかけてくれたの、嘘だったなんて……思わない……」
アルザ「……ヨミさん。」
ヨミ「ラセル様だって、アルザが助けてくれたんでしょ……」
スフレ「黙らせますか?」
アルザ「ヨミさん……僕、貴女のそういうところ『人間らしくて』良いと思いますよ。」
ヨミ「!」
アルザ「甘ったるい幻想に浸りながら剣を振り回して、死ぬ覚悟も無くて
    ガタガタ震えながら戦ってる背中、もう少し見ていたかったかな。
 
    でも、夢は終わる。戦場に来たからには覚悟が無かったじゃすまないだろ?」

ヨミ「……」
アルザ「さて、お約束の時間だ。スフレまかせる。」
スフレ「はーい、そういうのはドンドンまかせてください♪
    んっんー、『この女の命を助けたかったら、僕達と契約を結ぶのだ。』パーフェクト!
    ね、今度こそ年貢の納め時でしょ。シルキィ将軍。……ふふっ、ははは。」
ナレーター「この戦は全て、西の魔性の筋書き通りに進行していたのだ。
      囚われたラセル、毒に犯されたヨミ。
      シルキィは血が滲むほど握りしめた拳を、ただ奮わせていた。
      次回、魔性の傷跡第23話、ご期待ください。」
fin

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