敵国ダズットと魔性、西の副官スフレの甘言により
同盟国を裏切ったウェルナン
その手中に落ちたディルスの白銀軍副長ヨミとアルザ
同盟国がその事実を知らぬ間に、奇襲の準備は着々と進められていた……

魔性の傷跡 第21話「復讐」


魔性の傷跡 第21話「復讐」


♂6♀2
【登場人物】
イース(20歳)♂:ダズット国の若き王
ラセル(26歳)+魔性♂:ディルス国の若き王
スフレ(?歳)+兵士A♂:魔性、西の副官
スーラ(88歳)+ミスト(38歳)♂:ディルス国の宰相/紫紺軍軍長
シルキィ(28歳)+兵士B♂:ディルス国の将軍「白銀軍」を率いる。
エメダ(42歳)+N♂:ウェルナン国の大臣。
ヨミ(24歳)+ツドイ(35歳)♀:白銀軍副長/クラリオン国の元帥
ルティア(21歳)+アルザ(20歳)♀:亡国セーレクトの姫/ディルス国の給仕
※アルザは男性ですが、今回は女性に配役しています。


【役表】 イース♂:
ラセル+魔性♂:
スフレ+兵士A♂:
スーラ+ミスト♂:
シルキィ+兵士B♂:
エメダ+N♂:
ヨミ+ツドイ♀:
ルティア+アルザ♀:


【ウェルナン城】

エメダ「イース王、今なんと!?」

イース「耳が悪いのか?明日にもディルス城を陥落(かんらく)させると言った。」

エメダ「攻城戦(こうじょうせん)に持ち込むというのですか!?

    あきらかに下策(げさく)です!食糧供給を止めたばかりで」

イース「悪いが事情が変わった。戦うのはダズットとディルス、ウェルナンは見ていればいい。」

エメダ「しかしディルスの堅城(けんじょう)をそう易々(やすやす)と……」

スフレ「燃やしたらどうです?ディルスは森に囲まれてるでしょ?」

エメダ「あの森の土壌は地下を巡る水脈をうけて、水分を多く含んでいます。」

スフレ「おや、それじゃあ火のまわりが悪そうですね。では水攻めはどうです?」

エメダ「ディルス城はメフィスブルク山の山頂に立地しています。水没はあり得ません。」

スフレ「ずいぶんと地の利に恵まれた所なんですねぇ。」

エメダ「300年の戦いの歴史を勝ち抜いた剣技国家です。甘く見てはなりません。

    弱点である食糧供給は既に停止しましたが、当然蓄えがあるはずです。」

スフレ「今、戦を始めれば、ディルスはどれくらいの期間持ちこたえると思いますか?」

エメダ「半年は堅いでしょう。」

イース「時間が無い。兵糧(ひょうろう)攻めは諦めろと言っている。」

スフレ「せっかく農産国のウェルナンをお仲間に迎えたのに、もったいないなぁ。」

エメダ「そうです。今、万全のディルス城を攻めるのは危険すぎます。」

イース「危険とは言え、別にウェルナンが兵を出すわけでは無し」

エメダ「ダズットが破れればウェルナンとて後が有りません!一体どんな事情が」

ヨミ「うぅ……」

イース「見ろ、エメダがあんまり怒鳴り散らすから捕虜(ほりょ)がお目覚めだ。」

スフレ「おはようございます、ヨミさん。ご気分はいかがですか?」

ヨミ「……っ!」

スフレ「痛いですか?ちょっと念入りに拘束させてもらっちゃいましたけど、我慢してくださいね。」

ヨミ「……」

イース「おい、お前。なんとか言ったらどうだ?」

ヨミ「……アルザは?」

スフレ「牢に入ってもらってます。貴方はVIPなのでここに。」

ヨミ「……アルザは……非戦闘員です。お願い……です、から、酷いことしないで……」

イース「ハッ。ならばお前は戦闘員だが『酷いこと』されても良いという事だな?」

ヨミ「……いや、です……」

イース「そうやって大人しく待っていれば、そのうちに
   
    お前の愛しいナイトが助けに来てくれると思っているわけだ?」※ヨミの両頬を片手で掴む

ヨミ「……っ!」

エメダ「イース王。」

イース「もう二度とお前のナイトに会いたく無くなるようにしてやろうか……」

ヨミ「……やっ……」※あまりの恐怖に息を呑む

エメダ「イース王、相手は女性です。怯えきっているじゃありませんか。」

イース「気に入らんなぁ。……実に。」※乱暴に手を離す

ヨミ「っ!」※倒れる

【ディルス城】

ラセル「シルキィ、ヨミからの連絡はまだか?」

シルキィ「まだ来ておりません。」

ラセル「遅いな……。」

シルキィ「そうですね。偵察に早馬(はやうま)を送っていますが、そちらもまだ……」

スーラ「ラセル様!」※足早に部屋に入ってくる

ラセル「どうしたスーラ、寝てなくて大丈夫なのか?」

スーラ「そのような場合ではありませぬ、大至急全軍に戦闘準備をご指示くだされ。」

ラセル「なんだと?」

スーラ「ウェルナンが同盟国への食糧供給を全停止しました。」

ラセル「まさか!?」

スーラ「これはただ事ではありませぬ。すぐにご準備を。」

ラセル「わかった。」

シルキィ「……まさか……ヨミ……!」

ラセル「シルキィ、すまない。」

シルキィ「いえ、武人の宿命です。さぁ、一刻を争います。参りましょう。」

ラセル「あぁ。」


【ウェルナン城/地下牢】

アルザ「……エメダ様!どうしてこんなところに?」

エメダ「アルザ、顔を見にきた。久しぶりだな。」

アルザ「……はい、お久しぶりです。」

エメダ「……やはり、見間違いではなかったか。」

アルザ「覚えていてくださったんですね、僕のこと。」

エメダ「……忘れるはずがないだろう。

    ザビ山の雪崩で行方不明になった7名、誰1人として忘れはしない……。

    あの日『王の為、一刻も早く食材を手に入れよ』と、安全な街道ではなく

    険しい山道を行くよう指示したのは私だ。

    結局、誰も帰っては来なかった。……アルザ、本当に良く生きていてくれた。」

アルザ「運が良かっただけです。他のみんながどうなったかはわかりません。きっと今もあの雪の中で……」

エメダ「……そうか……」

アルザ「エメダ様、もうすぐ戦が始まるんでしょ?兵士さん達の話し声が聞こえました。」

エメダ「……あぁ。」

アルザ「せっかく生き残ったけど、今度こそ僕は生き残れませんね。」

エメダ「……それは……否定は、出来ない……が、出来れば、そうしたくは、ない。」

アルザ「ありがとうございます。お気持ち、嬉しいです。」

エメダ「……気持ちだけでは、何にもならんな……」※持っていた飲料を乱暴に飲む

アルザ「それ、ハリーマのお酒ですか?」

エメダ「わからん」

アルザ「匂いでわかります。麻薬ですよ。」

エメダ「わからん」

アルザ「……エメダ様らしくないなって、思ってました。」

エメダ「……私は、私だ。これはどうしようも無いほどに、私自身の意志だ。」


【ウェルナン城】

スフレ「勝算はあるんですか?」

イース「ああ、頼りにしている。」

スフレ「私をアテにされても困りますよ。

    まぁ、お約束ですから中位魔性を100程、用立てますけどね。」

イース「宜しく頼む。兵の数でこそ劣るが、我がダズット兵の『鉄の心臓』は

    ディルスの錆び付いた棒きれなど圧倒し、必ず粉砕(ふんさい)殲滅(せんめつ)せしめる。

    夜明けとともに出撃だ。笑えるほどに高鳴っている、この鋼鉄の臓器がなぁ。ははは。」


【ディルス城】

スーラ「農産国であるウェルナンがこのような強行手段をとるとは考えにくい。
 
    何か絶対的な強みを握ったという事でしょう。」

ラセル「ヨミか。」

スーラ「捕虜……というのも一つ。しかし、あの会食より先に握っていたと見た方が自然。

    他にもカードがあるのでしょうな。」

ラセル「これからどうすればいい?」

スーラ「そうですなぁ、先手は既にとられたわけですじゃ。後手にまわったからには
   
    流れに翻弄されていると見せかけ、油断を誘い、徐々に有利になるよう運ぶのが宜しいでしょう。」

ラセル「具体的に言え。あともっと早くしゃべれ。」

ルティア「ラセル!」※部屋に駆け込んでくる

ラセル「ルティア……」

ルティア「ヨミが行方不明って本当なの!?」

ラセル「あぁ、ウェルナンの会食に送ってから連絡が取れない。

    それに加えて今日ウェルナンから食糧供給が全面停止された。一方的に。」

ルティア「……それって。」

スーラ「同盟破棄、裏切り、あるいは宣戦布告。」
  
ラセル「いずれにせよ、ウェルナンに陥れられた。ヨミは拉致されたんだろう。」

ルティア「私ウェルナンに行くわ!」

ラセル「状況を考えろ。今にもウェルナンが攻撃を仕掛けてきてもおかしくないんだぞ。

    それにヨミがウェルナン城にいるとも限らない。」

ルティア「だって、わからなくても捜すしかないわ。ヨミは無事なの?何か、何か手がかりはないの?」

ラセル「落ち着けルティア!」※ルティアの両肩を両手で掴んで。

ルティア「(※少し落ち着きを取り戻す/ややあって涙ぐむ)

     ……お願い、ラセル。

     ……お友達なの。……ヨミを助けて………」

ラセル「もちろんだ。ヨミの救出を最優先する。安心しろ。
 
    ウェルナンがどんな手段を使ってこようと、ディルスは大丈夫だ。」

ルティア「……取り乱してごめんなさい。何か、私に手伝えることはない?」

シルキィ「ラセル様、戦闘準備完了致しました。」

ラセル「わかった。夜明けまであと3刻ほどあるな、作戦会議を開くぞ。

    ルティア、お前に手伝ってもらうまでもない。勝利を祈っていてくれ。」

ルティア「祈るわ……ディルスに騎神のご加護がありますように……。」

ラセル「ありがとう(※微笑む)いくぞ、シルキィ。」

シルキィ「はっ。7軍長及び各副長は現在『カドゥケウス』に集結しております。」

ラセル「よし。スーラ、奇策を期待する。」

スーラ「ほっほっ。基本に忠実に参りましょう。」


【ディルス城/屋上】

ルティアM「祈り……。あの男に力を奪われる前なら、少しはディルスの役に立てたのに……

      何も出来ないのが、辛くて……怖い……。

      あぁ、間もなく夜明けだわ。胸がざわめく、こんなにも朝の光が恐ろしいなんて。

      ヨミ、どうか無事でいて……!」


【ディルス城/『カドゥケウス』】

兵士A「ラセル様!申し上げます!暁の方角よりくろがねの武装集団がディルスに向かい猛進しております!」

ラセル「来たか!」

スーラ「数は?」

兵士A「およそ3万!」

シルキィ「くろがねの装備……ダズットですね。」

ラセル「やはりダズットか。ウェルナンを口車にのせたな、イースのやつ!」

スーラ「3万とは総力をあげてきましたな。」

兵士A「恐るべき早さで土煙を巻き起こし、現在、タログ平原を進行中。」

シルキィ「ラセル様、ご命令を。」

ラセル「良いだろう、ダズットの奴らには我が国民に指一本触れさせるな。全軍心して迎え撃て、出動だ!」


【ディルスの森/入り口付近】

イース「まもなくディルスの森だ、陣形『魚鱗(ぎょりん)』!

    速度をあげろ!寝ぼけ眼(まなこ)のディルスを激震させるぞ!」

スフレM「こんなに派手に動いてたら、バレてないとは思えないけど。

     ……へぇ、思ったより鬱蒼とした森なんだなぁ。」


スーラM「ディルスを囲む深い森では、いかなる大軍で押し寄せようと散兵(さんぺい)せざるを得ませぬ。

    個々の兵士の能力が、勝敗を大きく分けるでしょう。」


【ディルスの森】

イース「(見渡して)・・・・・・雪が降っていたのか。」

スフレ「静かで綺麗な森ですねぇ、雪化粧でとってもビューティフル♪

    でもこう積もっていると足下を取られちゃいますね。」

イース「(兵士達に)加速発火装置を120まで上げろ!

    我らの機動力からすればさしたる問題ではない。

    ふっ、ディルスの奴ら今頃我らの奇襲に慌てふためきベッドから飛び起きた頃だろう。」

スフレ「そうだと良いですねぇ……あれ?なんの音でしょう?」

イース「なんだ?」

スフレ「何か聞こえません?シュー、シューって。」

イース「あれは……ディルス兵だ!」

スフレ「おやまぁ、いつの間にこんな近くに。」

イース「戦闘用意!蹴散らせ!」

スフレ「初動が遅れましたね。ふぅん皆さん揃って真っ白な装備。」

イース「相手は時代遅れの武器しか持たぬディルス兵だ、我らの兵器で圧倒しろ!」

スフレ「(※飛んできた弓をかわしながら)おっとっ〜!弓がとんできた!

    なるほど、白い装備で雪に隠れていたんですね。道理で発見が遅れたわけです。」

イース「揃いも揃って死に装束とは、おあつらえ向きだ。撃て撃てぇ!」

スフレ「おー!……っと、かわされました。」

イース「ディルスのやつら雪の上をすべるように動いているぞ!?」

スフレ「滑ってますね、足に板のようなものを取り付けています。」

イース「ちぃっ!ちょこまかと小賢しい!」


スーラM「まずは小手調べ、せっかく覚えた魔術を有効活用致しましょう。

    魔術訓練の成績が優秀だった青藍軍(せいらんぐん)は

    冷気の術をもって、森に雪を降らせてくだされ。
  
    出来る限りたっぷりと積もらせていただきたい。」


イース「機関拳銃を使え!ディルス兵を蜂の巣にするぞ!」


スーラM「例え相手が、魔術のような未知なる力を用いようと、ディルスの森の木々は根深く堅い。

    大抵の攻撃に対する防御壁としては有効ですじゃ。」


スフレ「あーあー、木でガードされて無駄玉ばっかりになってる、もったいないなぁ。」

イース「ならば目に物を見せてやる。おい!あれを用意しろ!」

兵士B「うわぁあ!イース様あれを!」

イース「なんだ!?」

兵士B「獣です、獣の大群が突進してきます!」

イース「そんな馬鹿な!?」

スーラM「鬱金軍(うこんぐん)は特殊能力を披露する機会がなかなかありませんでしたが、

    今回ばかりはそのお力を遺憾なく発揮していただきますぞ。

    と言っても獣達に細かい動きは難しいでしょうから

    直進で構いませぬ。その牙を持って敵の戦力を分断してくだされ。」

兵士B「来るな、来るなぁ!」

イース「くそっ、回避だ!いったん退けっ!」

兵士B「助けてくれえぇええ!」

スフレ「はぐれちゃった……。こっちが圧倒されちゃってるじゃないですか。

    情けないなぁ。大口たたいといて、全然おつむが足りてないんだから。

    やっぱり僕がいないとダメってことかな。」

【A地点】

イースM「くそっ、スフレとはぐれた。しかし想像以上にやりにくいな……

    出来るだけ準備の時間を与えないよう、最速でここまで来たが

    雪、白の装備、滑る靴、獣の群……敵ながら天晴れだ。

    これだけの作戦を一体誰がこの一夜のうちに……」

兵士A「イース王、覚悟!」

イース「馬鹿が、バレてんだよ!(※銃撃)」

兵士A「うああ!」

イース「こそこそとゴキブリのようにつけてきやがって

   (※白装束の中の装備を確認する)やはり紫紺軍(しこんぐん)か。

    それで、そちらにおわすのはゴキブリ王国のラセル様であらせられるかな?」

ラセル「そういう貴殿は長虫のように執念深いダズットのイース王ではありませんか。」

イース「減らず口を。王がこんな所までノコノコ出てきて良かったのか?」

ラセル「こんな事になったのは、長年お前を放置してきた俺の責任だ。

    重なる挑発行為、同盟国の攪乱(かくらん)、そして拉致。さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。

    俺の大切な部下2人を返して貰おう。そして今日限りでお前とは決着をつける!」

イース「そうかそうか、俺も同じ気持ちだよ。善は急げと言うからな。

    今日こそディルス城を火の海に沈めてやろうと思っていたが

    それは後の楽しみにとっておこう。

    先に貴様の首を落としてからでも、遅くはない!」

ラセル「それはこちらの台詞!ヨミとアルザの居場所は死ぬ前に吐いてもらうぞ!

    ミスト将軍、ダズット兵を頼む。イースは俺がやる。」

ミスト「承知致しました。」

イース「お前らは目障りな紫紺軍を一掃しろ。ラセルを殺すのは俺だ!」

兵士B「ラセル様!後方から魔性が出現しております!」

ラセル「なにっ!?」

兵士B「どんどん数が増えています、10、20……まだ増えていきます!」

ラセル「なぜそんなに魔性が!?」

イース「はっ、スフレの奴ようやくだな。」

ラセル「イース、お前まさか!」

イース「勘違いするなよ、俺は『魔性の傷跡』なんざ受けちゃいない。

    ちょっと協力してもらってるだけさ。」

【B地点】

兵士A「シルキィ将軍、魔性です!魔性が多数出現しています!」

シルキィ「わかっている、怯む事はない、しかと剣を持ち迷わず戦え!はぁああ!」※攻撃

魔性「オノレ!人間ノ分際デ!消シ炭ニシテヤル!」※火炎魔法

シルキィ「禍々しき者よ!闇へ帰れ!」※かわして、斬る

魔性「グアアア!」

兵士A「おおお!さすがですシルキィ将軍!」

シルキィ「よし、オレイカルコスの武器は魔性にも有効だ!

     皆、恐れることはない、ここは我らの母なる大地!

     例え相手が機械であろうと魔性であろうと、我らは最強の剣(つるぎ)を手にしている。

     さぁ、魔性に対抗する武器を持たぬ同胞を我らが救うのだ、ディルスに騎神のご加護を!」


スーラM「全ての手綱を握るのは白銀軍(しろがねぐん)。

     オレイカルコスの武具は全て彼らに託しましょう。

     強靱な肉体、卓越した技術、揺るぎない精神力……

     ディルス最強の戦士、シルキィ将軍はどのような絶望的な事態に陥ろうとも

     優れた判断力でその場を指揮なさるでしょう。ディルスに騎神のご加護を。」

【A地点】

イース「くらえ、9mm機関けん銃(9ミリきかんけんじゅう)!」

ラセル「イース、随分とひどい身体になったな!」※銃弾をかわしながら

イース「こんな身体になったのも全ては積年の恨みを晴らすため、貴様を殺すためだ!」

ラセル「執念深いやつだな!」※飛び上がる

イース「上か、飛んで火にいるなんとやら!

    一〇〇式火焔発射(ひゃくしきかえんはっしゃ)」

ラセル「barugiru(バルギル)!」※ガード

イース「ちっ、魔術のガードか!」

ラセル「まずは先に一本もらう!」※さらに踏み込む

イース「とってみろよぉおお!」※構える

ラセル「はああああ!」※斬りかかる


【B地点】

N「激しい戦いの最中、戦死者が山となっていく。
 
 その死体の中に埋もれるように、震えながらうずくまる者がシルキィの目にとまった。」

シルキィ「あれは……ヨミ!?」

ヨミ「シルキィ?シルキィ助けて!」

シルキィ「ヨミ!無事か!?」※駆け寄る

ヨミ「怖かった、怖かったよぉ!」

シルキィ「今外してやる。(※ヨミを縛っている縄を切る)

     もう大丈夫だ。ほら」

ヨミ「シルキィ……ありがと……」※抱きつこうとする

シルキィ「ヨミ……。

      ……っ!?誰だ!!」

ヨミ「何言ってるの、シルキィ?私だよ?」

シルキィ「ヨミは俺の首には手をまわさない。」

ヨミ「えー?たまたまだよ。」

シルキィ「匂いも違う。リアナの香油の香りがしない。お前は誰だ。」

ヨミ「えー?……やだなぁ………」※偽物のヨミの身体崩れる

シルキィ「!?」

スフレ「そんな事まで、知るわけないじゃないですか。」※虚空からヨミを抱えて現れる

ヨミ「シルキィ逃げて、西の副官よ!」

シルキィ「ヨミ!」

スフレ「そうです。私が西の副官、スフレです。」

シルキィ「……!」

スフレ「お会いしたかったですよ、白銀軍筆頭シルキィ将軍♪」


【A地点】

N「ラセル王の剣戟と魔術、イース王の身体から繰り出される兵器

 それらの力は拮抗し、まさに互角の戦いが続いていた。」

イース「相変わらず逃げ足だけは速いな!」

ラセル「お前が遅いだけだ!」

イース「次はその減らず口ごと木っ端微塵にしてやるぜ。」

ラセル「のわりに、息があがってるぞ、少し軽量化(ダイエット)したらどうだ!?」

イース「この重みが、丁度いい!九九式小銃(きゅうきゅうしきしょうじゅう)!」

ラセルM「やはりそれで来た……!イースのパターンが読めてきたぞ。

     おそらく仕込まれた機械の数は10種類程度……」

イース「いつまで追いかけっこしてる気だ?仕掛けてこいよ!」

ラセルM「速度は速いが威力の弱い物、速度は遅いが威力の強い物を

    タイムロスが少なくなるよう組み合わせて使っている。
 
    それらには連続発射回数の制限がある……つまり」

イース「ちっ」※弾切れ

ラセル「スキあり、もらったぁ!」

イース「かかったな!空冷式砲(くうれいしきほう)発射!」

ラセル「なにっ、ぐああ!」

イース「はははっ!わざと弾切れを狙ってくるよう大げさにやってたんだよ。馬鹿が。

    それぐらいの対策が無いと思ったか?」

ラセル「ぐぅっ……、これは……やられた……」※半身を起こしながら

イース「接近用で威力が弱いのはイマイチだが、それだけ直撃だと立ち上がれないだろ?」

ラセル「……」

イース「っと、時間を与えると回復魔法を使われる。

    そのまま、横になっててもらおう……永遠にな。

    (※息を吸って)八十一粍無反動砲(81みりむはんどうほう)!」

ツドイ「yrNied(エイワズニイド)!」

イース「強力な魔術防御壁?!誰だ!」

ツドイ「魔法帝国第3十字軍、ただ今到着!」

イース「クラリオンの援軍!?速すぎる。ごく少数を転移魔法で送りやがったな。」

ラセル「ツドイ!ありがたい……しかし、魔性が多数出現しているんだ。そちらにあたってくれ!」

ツドイ「馬鹿な事を。貴方を守らずして何を守れと言うのですか!」

イース「おいクラリオンのババア。お前のところの王子様の情報を握ってる奴がいるって言ったらどうする?」

ツドイ「!」

イース「レイスとか言ったか。女装癖で有名な。」

ツドイ「貴様、レイス様を愚弄するか!」

イース「うちのスフレがその大事な大事なレイスちゃまの行方を知ってるらしいぞ。

    でも今頃は戦火にのまれてノタレ死んでるかもな。」

ツドイ「レイス様の行方を……」

ラセル「ツドイ、頼むからレイスの事を優先してくれ!

    俺はもう大丈夫だ。あんなヘマ、二度とはしない。必ず勝つ!」

ツドイ「……承知。魔性の事はまかされよ!ご武運を!」

イース「必ず勝つか。面白い冗談だ。」

ラセル「悪いが、さっきのダメージは今の間に回復させてもらったぞ。」

イース「まだふらついてるようだが?そうだ、良い事を思いついた。

    いまのババアにお前の首を送りつけたらどんな顔するかな?」

ラセル「出来ない事は想像するだけ無駄だ!IS(イサイス)!」※氷の魔術

イース「くらうかよ!一〇〇式火焔発射(ひゃくしきかえんはっしゃ)」

ラセル「この蒸気を利用して……はあっ!」※顔にキック

イース「ぐうっ!ははっ、卑怯じゃねぇかぁ!」※パンチ

ラセル「ぐっ!?」※ダメージ

イース「どうだ俺の拳は!?兵器だけじゃねぇんだよ。」

ラセルM「防御していなければ致命傷だった……!

     ツドイの拳とも魔性の力とも違う、あれは鉄の重さ!ただし……」

イース「くたばれぇ!」

ラセル「おそい!IS(イサイス)!」

イース「またそれかよ!・・・・・・んっ!フェイントかっ!?」※氷の魔力弾が発動されない

ラセル「かかったな、ANSUR(アンサズ)-;CENKEN(カノケン)!」※炎の魔力弾発動

イース「がああああ!……加圧式水消火装置作動(かあつしき すいしょうかそうち さどう)!」

ラセル「なにっ!?」

イース「はぁ、はぁ・・・・・・いいねぇ!もっと見せろ、お前の血が受け継いだ汚ねぇ手をよぉ。

    ほら、9mm機関けん銃(9ミリきかんけんじゅう)だ!おらあああ!」

ラセル「あんな装置まであったのか!」※かわしながら走る

イース「らああああ……ぐっ!」

ラセル「!?」

イースM「ちっ……ついにきやがった。……ガタが。」

ラセルM「なんだ?イースの動きが急に大人しくなった……」

イース「・・・・・・っ!・・・・・・九九式小銃(きゅうきゅうしきしょうじゅう)……!」※まともに撃てない

ラセルM「なんだ?イースの奴、どうしたんだ……」

イースM「くそっ……ここまでかよ……『鉄の心臓』……

     もう少し……もう少しだけ、もってくれよ!」

イース「81ミリ……!ぐっ!」※胸を押さえてうずくまる

ラセル「イース!?」

イースM「このっ……ポンコツが……!     

     はぁはぁ……こうなったら仕方ねぇ……

     俺自身の兵器でアイツをボロ切れみてぇにして、ぶっ殺したかったが……

     あれを使う時が来たってことだよな……親父よぉ。」

イース「(兵士に)おいお前ら!あれを出せ!」※立ち上がる

兵士B「はっ。二十八糎榴弾砲(28センチりゅうだんほう)用意!」

N「ラセルは運ばれてきた巨大な兵器に圧倒されると同時に

  そのかたわらに捕らわれた少年の姿に驚愕した。」

ラセル「アルザ!」

アルザ「ラセル様……!ごめんなさい!」※さるぐつわを外され

イース「このガキと仲良しなんだってなぁ。」

ラセル「イース、貴様!」

イース「そんな事より見てくれよ、この兵器。

    洗練されたボディ。ディルス城も吹っ飛ばせる代物だ。

    さすがの俺でも身体には仕込めなかったが……惚れ惚れするだろ?

    これ、くらってみたいと思わないか?」

アルザ「ラセル様!僕はどうなっても良いんです!」

イース「うるさいな。」※再びさるぐつわを噛ませる

ラセル「お前、戦士の誇りは無いのかっ……!」

イース「そんなものになんの意味がある?」

ラセル「……」

イース「お前の親もそんな事ばかり言っていたな。

    騎神王ベルサス?カッコつけやがって。あんなのは殺人鬼か狂人で上等だ。

    お前らが俺に教えてくれたんだよ、誇りなんてものは、ただのクソだってな。」

ラセル「戦場での父は非情であったと聞くが、それは守るものがあったからだ。」

イース「『守るため』なら何をしてもいいのか!?

    ……俺の親父が、ベルサスにどんな風に殺されたのか知ってるか?」

ラセル「・・・・・・」

イース「思い出したくもねぇのに、今でも夢に見る……

……親父の死に顔を……顔の原型なんてないんだがな……

    ……ガキの頃から、毎晩毎晩……頭からこびりついて離れねぇんだよ!

    『守るため』、『誇り』。反吐が出る。

    誇りなんてもんは所詮、自己満足で、自分勝手で!

    テメェが守りたいもんに、テメェが好きにしてるだけだ。

    それがどんなに血生臭い殺人行為だろうと、お前らは少しもかまわないんだろうが!」

ラセル「……そうかもしれん。国を閉ざしてから300年、ディルスは戦いの道を歩んできた。

    いくら非道な殺人を犯していたとしても、それを謝罪する事は出来ない。

    だが、今お前がやっている事は……『誇り』以前の問題。人として、醜悪だ!」

イース「はっ、俺はもう自分が人だろうと醜悪だろうと、例え畜生だろうと構わないんだよ。

    だが、そんなに言うなら、今ここで俺に見せつけてくれ。

    ご自慢の『気高き誇り』ってやつを。このガキの命、守りたいんだろ?

    そこでつったって馬鹿みたいに死んでくれよ。そしたらお前の屍に拍手喝采を送ってやるから。」

ラセル「……長年、剣をかわした仲だ。今一度だけ聞く、イース。お前自身の胸に聞いてくれ……

    お前に誇りはないのかっ……!」

イース「馬鹿が。俺にあるのは目的だけだ。

    ディルスを焼き払い、ベルサスの息子であるお前を殺し

    奴の血をこの世から一滴残らず消す……

    俺の頭にこびりついて離れねぇ、哀れな親父の魂を俺が救ってやる。

    『復讐』……それだけなんだよ。」


N「殺戮が殺戮を呼び、幾度となく繰り返す人の業……

  皮肉にもそのはじまりは、深い家族愛から生まれたのだ。

    イースの瞳はどこまでもまっすぐに、ただ復讐の瞬間だけを見つめている。
 
  その鮮烈な眼差しに射抜かれたように、ラセルは一歩も動く事が出来なかった。

  次回、魔性の傷跡第22話、ご期待ください。」

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