剣技国ディルスは魔性への対抗に魔術訓練に明け暮れ、文化大国マリーガルドは防衛の強化を急ぐ。

魔法帝国クラリオンは行方不明の王位継承候補者レイスの捜索と復興に励み

農産国ウェルナンは魔性との戦いへの不満を一層募らせていた。

四国同盟のバランスには不穏な影が差している。


魔性の傷跡 第20話 『駆け引き』

魔性の傷跡 第20話「駆け引き」

♂4♀1不問1
【登場人物】
ヨミ (24歳)♀:「白銀軍」副長
アルザ(20歳)不問:給仕の青年
ラセル(26歳)+御者♂:ディルス国の若き王
イース(20歳)+ナレーター♂:ダズットの若き王
シルキィ(28歳)+エメダ(42歳)♂:ディルス国の将軍「白銀軍」を率いる/ウェルナン国の大臣
スフレ(?歳)+門番♂:魔性。西の副官。


【役表】
ヨミ♀
アルザ不問
ラセル+御者♂
イース+ナレーター♂
シルキィ+エメダ♂
スフレ+門番♂




ナレーター「魔法帝国クラリオンの王妃エルザータ死亡よりはやひと月、

 南の主リビアの死に際の接吻により、体内をはしる激痛に

 悶え苦しんだラセルであったが、クラリオンの治癒魔法で目覚ましい回復をとげた。

 今はディルスの自室にて療養中である。」

ノック

アルザ「ラセル様お食事お持ちしました。」

ラセル「アルザか、入れ。」

アルザ「お加減いかがですか?」

ラセル「ああ、もうだいぶ良い。アルスのオレイカルコス加工は遅れているようだが

    いつまでも寝ていられん。今日あたり城外訓練に出る。」

アルザ「まだ早いですよ、すぐ無茶をなさるんですから。」

ラセル「ふっ、どこかの誰かのような事を言う。」

アルザ「え、なんですか?」

ラセル「なんでもない。これ旨いな。」

アルザ「鶏粥(とりがゆ)って言うんです。胃に優しくて滋養もあります。

    ゆっくり召し上がってくださいね。」

ラセル「そういうお前も最近は体調良いのか?」

アルザ「はい、おかげさまで。入院中はボビィさんがいつもサポートしてくださっていて」

ラセル「あぁ、あの色黒男か」

ノック

シルキィ「失礼します、ラセル様。」

ヨミ「おじゃましまーす!」

ラセル「あぁシルキィ、ヨミ。」

シルキィ「大丈夫ですか?」

ラセル「あぁ。」

ヨミ「良かったぁ!じゃ〜ん♪ケーキ焼いてきたんです!」

ラセル「おいおい、お前ら俺をフォアグラにでもする気か?」

ヨミ「そうおっしゃると思ってぇ、ヘルシーに野菜を使ったケーキなんですよっ☆」

ラセル「ケーキに野菜……だと……」

アルザ「へぇ、すごい!」

シルキィ「ラセル様、意外といけるんですよこれが。」

ラセル「本当か……?」

ヨミ「ご心配なく!味の保障はシルキィがしてくれてますって♪

   それにしっとりしてるから食べやすいと思いますよ、今カットしますからね〜!」

ラセル「うう……頭が痛くなってきたぞ。」

ヨミ「はいっ!騙されたと思って一口食べてみてくださいよ〜。」

ラセル「じゃあ……一口だけな。」※恐る恐る食べる

ヨミ「どうですか?」

ラセル「……うまい。」

ヨミ「やったぁ〜!」

シルキィ「良かったな、ヨミ。」

ラセル「ほのかな甘みがあって、普通のケーキより良いな。これなら全部食べられそうだ。」

ヨミ「ラセル様は最近ちょっと痩せすぎですからね〜。栄養とって頂かないと♪」

アルザ「野菜は何を使われたんですか?」

ヨミ「ミニマをメインにしてラデムスの果汁を……ってかキミ誰?」

アルザ「あ、すみません。僕給仕のアルザって言います。

    お二人は白銀軍(しろがねぐん)のシルキィ将軍とヨミ副長ですよね。

    お会い出来て光栄です、僕!感激しちゃいました!」

ヨミ「あらま、私たち有名人だね♪」※シルキィに

シルキィ「おいおい。」

アルザ「ヨミ副長は強いだけじゃなくて料理も出来るんですね、素敵だなぁ。

    ヨミ様って言ったら白銀軍(しろがねぐん)の紅一点、『銀の舞姫』ってみんなが噂しています。」

ヨミ「そんな〜麗しい白銀(はくぎん)の舞姫だなんて〜!」

シルキィ「実物を見て夢を壊されなかったかい?」

ヨミ「ちょっとシルキィ!」

アルザ「ふふっ、それに噂どおり仲睦まじいんですね。」

ラセル「なぁシルキィ時間あるか?」

シルキィ「はい。今から二刻ほどであれば。」

ラセル「よし、城外訓練に付き合え。」

アルザ「えー!本気だったんですか?」

シルキィ「良いですね。」

ヨミ「シルキィ!?」

ラセル「話せるじゃないか!魔術有りってのはどうだ、お互い初心者だ。」

シルキィ「承知しました。ヨミ、魔法具の用意を。」

ヨミ「(ため息)りょーかい。」


【城外訓練場】

アルザ「こんなところに訓練場があったんですね、知りませんでした。」

ヨミ「アルスも剣の訓練場としては充分すぎるほど広いけど、

   大規模な演習をする時はここを使ったり、たまに森に出たりもしてるよ。」

アルザ「そうなんですか。でもまさか本当に今日から訓練するつもりだったなんて。

    ラセル様、体……大丈夫なんでしょうか。」

ヨミ「まぁ、そろそろリハビリ時かもねぇ。」

アルザ「でも、もう少し休まれていた方が良いんじゃないかなって。。」

ヨミ「本当はそうだけどね。戦場ってさ、例え病気で動けなくても

   どんなに大ケガしてても、敵は待ってくれないんだよね……」


ラセル「久しぶりに外の空気を吸った、生き返る。」

シルキィ「オレイカルコスの鎧のおかげで寒くもないでしょう。」

ラセル「確かに暖かいな。」

シルキィ「さて、ではそろそろ……はじめましょうか。」

ラセル「あぁ、勿論だ。いくぞ、はぁっ!」※攻撃

シルキィ「随分と焦っておられる。」※受け流す

ラセル「この状況で悠々としていられるか」※立て直す

シルキィ「一日でも早く!一分でも一秒でもはやく!剣が叫んでいるようです!」※連続攻撃

ラセル「魔性とはいわば天変地異だ!なんの規律にもしばられない圧倒的な脅威!(※攻撃を受けながら)

    いつ何時襲ってくるか知れない。それに耐えうる、いや打ち勝つ力を……一刻もはやく手に入れるぞ。」(※剣を押し合いながら)

シルキィ「御意。この命にかえても。ディルス王に騎神のご加護を。」(※剣を押し合いながら)


アルザ「すごい、早くて何をしてるか僕全然わからなかった。」

ヨミ「まだじゃれてるだけだよ、お互い半分も出し切ってない。」

アルザ「あ、シルキィ将軍が前に出た。ラセル様〜!頑張って〜〜!」


シルキィ「おや、応援されていますね。いつの間にファンを?」

ラセル「そんなんじゃないさ。」

シルキィ「あなたはいつもそうやって人を引き付ける。血筋ですかね?」

ラセル「俺のまわりはいつも父の話ばかりする。親の七光りはいい加減卒業させてもらうぞ。」


アルザ「あれ?ラセル様良い感じで攻めてたのに大きく間合いをとられた。なんでだろう。」

ヨミ「魔術を使う気だ……」


シルキィ「おっと魔術ですか、剣の感覚に夢中でつい忘れていました。では私も。」

ラセル「第1章6項 呼吸を整え、呼気と吸気に集中する。」

シルキィ「第1章9項 深い呼吸を維持したまま、精神を研ぎ澄ます。」

ラセル「精神を細い糸のように集約し、大気との融合を織りなす。」

シルキィ「爪の先までその感覚が満ちたらば、呼気に音の振動をのせ、発音をはじめる。」

ラセル「正確に、一言一句違えず。」

シルキィ「呼び出す存在を、さわれるほど明確にイメージする。」 


アルザ「ラセル様すごい、もう目に見えるほどの強い魔力……僕初めて見ました。」

ヨミ「でも構成はシルキィのが速い。二人とも初心者って感じじゃないなぁ。

   私も負けてらんない!あれ?バルパルだ。」

アルザ「え、誰ですか?」

ヨミ「伝書バト。」

アルザ「ん〜?どこですか?」

ヨミ「音がしたの、声も。バルパルこっちよ〜!」

アルザ「(ちょっと間)……気のせいじゃないですか?影も形も見当たりませんけど。」


シルキィ「受けていただきましょう、『IS(イサイス)』」

ラセル「そうはいくか『ANSUR(アンサズ)-;CENKEN(カノケン)』 」

シルキィ「っ!……おし負けた。魔力はラセル様の方が上!」※ラセルの魔法を避ける

ラセル「もらったぁあ!」※すかさず剣で攻撃

シルキィ「つもりですか!複合の魔術を使うとは、手馴れていますね。しかし、剣を出されては負けるわけにはいかない!」

ラセル「くそっ!」

シルキィ「病み上がりにしては絶好調じゃないですか!」

ラセル「ふん。慰めなどいらん!」


アルザ「うわわわ!頭の、僕の頭の上に何かのっかった!?」

ヨミ「おかえり〜、バルパル!どうしたのこんなにはやく?

   あれ、スーラ様からじゃん。今風邪で寝込んでるはずだけど

   どれどれ……三本足は二本足より遅く、書状にて失礼つかまつる

   至急以下の件、対応されたし………これって!」

アルザ「どうしたんですか?」

ヨミ「た、大変だラセル様!」

ラセル「うぉおおお!」

シルキィ「はぁあああ!」

ヨミ「やめ〜!やめやめ〜!二人ともストーーーップ!」

ラセル「どうしたんだヨミ、いいところだったのに。」

ヨミ「ウェルナンのエメダ大臣から会食の招待状が届いたんです。」

ラセル「はっ、悪いが忙しいと返しておいてくれ。」

ヨミ「それがですね!なんか遠回しに書いてあるけど…

   レイス様について情報があるようなんです!」

ラセル「なんだと!?」

シルキィ「ほぅ……」

ラセル「それはすぐにでも!日時は?」

ヨミ「明後日です。」

ラセル「随分と強気な招待だな。まぁ良いだろう、明日の朝出れば間に合う。すぐに用意を。」

シルキィ「ラセル様お待ちください。どうもこの招待、臭います。レイス様の情報が欲しいというお気持ちはわかりますが

     ここは一度、代理の者でウェルナンの出方を伺うのが宜しいかと。」

ラセル「ん……しかし、スーラは今風邪をこじらせて寝込んでいる。」

ヨミ「私行きます!情報収集ならこのヨミにおまかせあれっ☆」

シルキィ「そうだな。確かにヨミが適任かと。私も今ディルスを留守にしたくはありません。」 

ラセル「しかし、ヨミ一人で……」

アルザ「あの!僕も同行させていただけないでしょうか?」

シルキィ「アルザ君。」

アルザ「分をわきまえよとおっしゃるのは良くわかります。

    でも聞いてください。僕、実はエメダ大臣のお屋敷におつとめしていたことがあるんです。」

ヨミ「ええっ。」

ラセル「ほぅ、あの堅物の屋敷に。」

アルザ「14のとき、料理の事を学ぶならウェルナンだと思ってディルスを出ました。

    そして運良くエメダ様のお屋敷でおつとめさせていただくことになったんです。」

ラセル「ふむ、ならば何故ディルスに戻ってきた?あの坊主頭が嫌になったか?」

ヨミ「ぷっ」

アルザ「エメダ様は良い方でした。国を良くしたいという、強い意志がおありでした。

    けれど、ウェルナンはそうではありませんでした。

    それは料理一つにしたってよくわかるんです。

    古いレシピを大事にするばかりで、一つも新しいものが生まれていない。

    ウェルナンは過去の栄光にすがりついているんです。

    それを知ったとき、僕はエメダ様のお屋敷を飛び出していました……

    ここにいては全てが駄目になる、そう思ったから……」

ラセル「なるほどな、だが今更エメダに会ってどうする?謝罪でもする気か?」

アルザ「いえ、そのつもりはありません。僕はウェルナンを抜け出したことに後悔はないんです。

    実は前にディルス城でエメダ様のお姿をお見かけした事があります。

    でも、僕は逃げました。エメダ様の事が好きだから……

    理由を問い詰められて、エメダ様がやっている事を否定したくなかったんです。

    そして僕自身も今選んだ道を否定されたくなかったんです。」

ラセル「アルザ、お前……意外と強いんだな。」

ヨミ「でも、なんでウェルナンに行きたいの?エメダ大臣に会いたくないなら無理に一緒に来なくてもいいんだよ?」

アルザ「僕はエメダ様のことを良く知っています。

    どんな物を好まれ、どんな物を嫌うか。どういった癖があって、どういった事が苦手なのか。

    ウェルナン城から給仕の応援に呼ばれることも度々あったので、城内の事も結構把握しています。

    明後日の会食、僕の記憶が少しでもお役に立てるんじゃないかと思うんです。

    僕はひ弱で料理くらいしか出来ないけど、何かディルスの役に立ちたいんです!お願いします!」

シルキィ「……ラセル王。これは。」

ラセル「あぁ、とんだ隠し球を持っていることに今の今まで気がつかなかった。」

アルザ「そ、それじゃあ……!」

ラセル「アルザ、ヨミ副長の付き人を任命する。」

シルキィ「ヨミは非常に耳が良い。君が誰にも聞こえない程小さな声でつぶやいても絶対に聞き逃さない。

     どうか会食が有利に運ぶよう、彼女をサポートしてやってくれ。」

アルザ「はい、必ず!」


ナレーター「翌朝、ヨミとアルザを乗せた馬車はウェルナンに向かって出発した。」


ヨミ「にしても、ウェルナンはホント久しぶりだなぁ〜♪」

アルザ「料理が美味しいのは本当なんですけどね。食材も豊富だし。」

ヨミ「会食では何が出てくるのかな〜!」

アルザ「きっとビルドー風肉料理をメインに新鮮な野菜や熟したフルーツ、ありとあらゆる食材をとりそろえていますよ。

    ちなみに僕のおすすめはフルーツです。太陽をいっぱいに浴びたマルクのジューシーさときたら
  
    ウェルナンの他ではちょっと手に入りません。」

ヨミ「おぉ、美味しそう。聞いてるだけでヨダレが、、、ってちがーう!

   旅行に行くわけじゃないんだ。ラセル様の代理なんて大役そうそうまわってくるもんじゃない……

   ここでびしーっと気をひきしめて行かないとね。つかむぞ、ボーナスアップのチャーンス!」

アルザ「あれ〜お金目当てなんですか?」

ヨミ「えへへ〜、だってご褒美欲しいもん!」

アルザ「白銀軍って言ったら戦一筋なんだと思ってました。」

ヨミ「うーん、シルキィとか他の団員はそうだよ。

   ディルスの中でも選りすぐり、エリート中のエリート集団だからね。

   私が変なのかも。どうしても国のために『命をかけて』っていうのが出来ないんだ。

   へへ、ガッカリした?ナイトっぽくないよね私。」

アルザ「いえ、人間らしくて良いんじゃないですか。みんながみんな同じなんて事、あり得ませんから。」

ヨミ「ありがと。でもちょっと弁解させてもらうけど、お仕事に手抜きはしないよ。

   だからアルザ君にもしっかり働いてもらうからね〜!君だって出世のチャンスなんだからさ♪」

アルザ「僕は……出世とかはあんまり興味ないんです。

    でも、こんな僕でも、お役に立てることがあるなら嬉しいなって。」

ヨミ「ん〜〜良い子だねぇ!お姉ちゃん感動しちゃう。なでなで〜♪」

アルザ「ちょっ、ちょっと、子供扱いしないでください!」

ヨミ「それじゃあ、まずはウェルナン城について教えてくれる?会食につかわれそうな部屋の目処(めど)はたつ?」

アルザ「はい。僕の予想では2つ思い当たる部屋があります。

    来賓との会食によく使用される『ビクトリアルーム』もしくは

    あまり公(おおやけ)にしたくない会議で使われている『オークルーム』。このいずれかだと思います」

ヨミ「ふむふむ。」

アルザ「ビクトリアルームの出入り口は一見4カ所に見えますが、実は6カ所あって配置は……」


ナレーター「その頃、ディルスに残ったラセル王とシルキィ将軍は……」


シルキィ「随分と利口な少年ですね。」

ラセル「ん?」

シルキィ「アルザ君です。」

ラセル「あぁ、だが体が弱いそうでな。入退院を繰り返している。

    しかしこの任務を上手く運んでくれれば、俺の世話役におこうと思ってるんだ。」

シルキィ「それはそれは、随分とお気に入りで。」

ラセル「そろそろ二人がウェルナンに着く頃かな。この会食どう思うシルキィ。」 

シルキィ「レイス様の情報を餌に開国に異議を唱えようとしていると見て間違いないでしょう。」

ラセル「俺もそう思う。」

シルキィ「問題はウェルナンがレイス様の情報をどれだけ握っているか。そしてその対価にどこまでを要求してくるか。

     この会食、駆け引きが命。スーラ様が倒れられている今ヨミは適任です。

     彼女は相手の会話のリズムを崩すのが上手い。」

ラセル「あれは天然だろ。」

シルキィ「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。」

ラセル「そういうまわりくどい言い方、俺は好まんぞ。」

シルキィ「まぁ、ご心配なく。ヨミは上手くやりますよ。彼女は馬鹿ではありません。

     こちらがレイス様の情報に相当する何かをウェルナンに対して持たぬ以上

     ウェルナンの要求をどこまで押さえ込み、かつ情報を引き出せるか。これがこの会食の要(かなめ)です。」
  
ラセル「はぁ、同盟国間でこんな駆け引きがあるのは馬鹿げているなぁ……」

シルキィ「おや、ラセル様奇遇ですね、私も同感です。」



門番「ようこそウェルナン城へ!身元証明を願います!」

ヨミ「ディルスよりラセル王の代理で参りました。白銀軍副長ヨミです。

   エメダ様から会食の招待状をいただいてます。」

門番「代理の方ですか?確認させていただきます。確かに。お待ち申し上げておりました、どうぞ。

   先の門が開きましたら中へお進みください。開門〜!」

ヨミ「重そうな門だなぁ、あ、オレイカルコスで加工してある!

   なんだかんだ言ってウェルナンも魔性気にしてるじゃん。

   ふふ〜ん♪こりゃいきなりつつけるネタげっとですよ〜♪」

アルザ「ふふっ、ボーナスアップ確実ですね。」

ヨミ「頼りにしてるよ、アルザ君♪」

アルザ「はい。まかせてください。」

ヨミ「……え……待って。引き返して!」


重い門が閉ざされる


御者「ヨミ様、馬車はどこへやりましょうか?」

ヨミ「ふせて!」

御者「へえ?ぐああ!!!」

アルザ「弓矢!?どこから!」

ヨミ「御者(ぎょしゃ)がやられた……遅かった…どうしよう…」

アルザ「ヨ、ヨミさん、これって……!」

ヨミ「ウェルナンは初めから会食も駆け引きもする気なんてなかったんだ……

   ……これは、裏切り!」

エメダ「レイス殿の情報をちらつかせれば、あの血気盛んな王が喜び勇んで飛び出してくると思いましたが……アテが外れましたな。」

イース「いきなりチェックメイトというわけにはいかなかったか。
   
    まぁいい、ナイトでも人質くらいの価値はあるだろ。ん?女か。」

ヨミ「イース王!」

イース「あぁ、そのそばかす見覚えがあるな。たしかシルキィ将軍の女だ。

    随分と自分を卑下(ひげ)した女選びをするものだと驚嘆した覚えがあるよ。」

ヨミ「エメダ大臣!ウェルナンは同盟国を裏切り、敵国ダズットと組んだと理解します!」

エメダ「貴殿達を取り囲む兵士達はダズット兵、この状況の通りです。」

ヨミ「なんて恥知らずな!あなたは実直な方だとお聞きしていましたが失望しました。」

イース「無駄なおしゃべりはその辺にしておこうか。」

エメダ「そうですね、捕らえよ!」

ヨミ「うわあああ!」

イース「おいエメダ見ろ、あの動き!ほぉ〜!さすが白銀軍副長と言ったところか、恐るべき身のこなし。

おっと一人殺された。また、また!」

ヨミM「どうしよう、どうしよう……!」

エメダ「何をやっている!多少怪我をさせてもかまわん!まわりこめ!」

イース「やるなぁ、皆女と見て気が抜けてるんじゃないか。殺されるぞ!」

アルザ「うぁあっ!」※弓矢がかする

ヨミ「アルザ!私から離れないで!」

イース「そうだ上手いぞ!付き人をねらって女の動きを制限し、追い詰めろ!

    餌は活きが良い方が良い。くれぐれも女は殺さず捕らえるんだ。」

エメダ「アルザ?あれはアルザか?」 

ヨミ「うぅ、兵士達は物の数じゃないけど、アルザを守りながら

   なんとかこの場を切り抜ける方法は……!」

アルザ「あっ!ヨミさん左!」

ヨミ「おっけ〜っ!」



イース「……ふん、たかが女一人に何人がかりでどれだけ時間を使う気だ。

    女の相手は御免被りたかったが、時間の無駄だな。俺が出るしかないか。」


ヨミ「アルザ、しゃがんで!」

アルザ「は、はいっ!」

ヨミ「!?右っ!」

爆音

イース「ほぅ、やるじゃないか。俺の『九七式自動砲(きゅうななしきじどうほう)』をかわすとは。」

アルザ「なんて威力……。」

イース「あ、しまった。この兵器だと直撃したら死んでしまうな。よけてくれて助かったよ。」

ヨミ「卑怯じゃないですか!か弱い女の子と美少年1人によってたかって!」

イース「か弱いねぇ、その腕があと2まわり細ければ説得力があったかもしれないな。」

エメダ「(小声で)イース王、あの付き人の少年ですが出来れば殺さないでいただけませんか?」

イース「そんな器用な事が出来るか。」

エメダ「昔私の屋敷に勤めていた者です、確かめたい事があるので。出来れば。」

イース「出来れば、な。」

ヨミM「おおっ、これはつかえるかも……!」※2人の会話聞こえている

アルザ「ヨミさん?」

ヨミ「イース王、エメダ大臣、私の鎧を見てください!」

イース「ん?」

エメダ「あれは、オレイカルコスの鎧……」

ヨミ「今なら新品同然、傷一つついてません。これをこの場で差し上げます。

   かわりにアルザを攻撃しないと誓ってもらえませんか?

   私を捕らえてしまえば、アルザを捕らえるのはわけないでしょう?」

イース「ふん……脱ぎたてほやほやね、どうする?」

エメダ「是非。」

イース「俺はいらんが、エメダが欲しいらしい。良かったな。」

ヨミM「……良かったぁ。イース王相手じゃ鎧はほとんど意味が無い。一撃くらえば致命傷になる。

   私がイース王に勝ってるのはスピードだけ。彼の機械仕掛けの体から飛び出してくる兵器……

   ほんの一部しかしらないけど、その全てをかわして叩く。イース王さえ抑えれば、きっと道は開ける!」

アルザ「ごめんなさい、僕のために。」

ヨミ「やだなぁ違うよ。自分のため♪」

アルザ「え?」

イース「さて、それじゃあそろそろ……狩るか。」

ヨミ「うわっ……煙幕!?まわりが見えない……」

イース「九九式小銃(きゅうきゅうしきしょうじゅう)」

ヨミ「よぉっとっ!(※かわす)……大丈夫よヨミ、落ち着いて。耳をすませば足音が聞こえてくる。」

イース「とった!角指(かくし)」※接近

ヨミ「そこだあぁっ!」

イース「ちっ、耳が良いのか。煙幕はあまり意味が無かったな。」

ヨミ「良かった、晴れてきた!」

イース「じゃあ、これならどうだ?避け切れるかな。9mm機関けん銃(9ミリきかんけんじゅう)おらあああ! 」※連射

ヨミ「ひゃあああああ!」

イース「ちぃっ!ちょこまかと逃げまわるな!はぁああ!」

ヨミ「いったぁ……!」※一発かする

イース「よしっ、ようやくかすったな。このまま少しずつ削りとってやる。」

ヨミM「痛いけど……ガマン出来る!」

イース「おっと、弾切れだ。手負いでもまだすばしっこい、拉致があかん。こうなったら……

    こいつを……使うか!八十一粍無反動砲(81みりむはんどうほう)くらえっ!」

ヨミ「うわあっと……ハっズレ〜!」

イース「狙いはそっちじゃない。」

アルザ「ヨミさん!上から瓦礫が!」

ヨミ「え?わぁあああ!」

※瓦礫がヨミに襲い掛かる、がすばやく回避。もくもくと土ぼこりがあがる。

ヨミ「ふぁー……危なかった。」

イース「これもかわしたか……悪いがもう手加減出来ん。脚一本、潰させてもらうぞ。」

ヨミ「それはこっちのセリフ。周りをよ〜く見て♪」

イース「何だと?…っ!?これは、魔方陣か!?」

ヨミ「実戦初挑戦にしては上手く出来たかな。攻撃を避けながら陣を描いてたんだよ!」

イース「くそっ!」

ヨミ「燃え尽きろ『Gaθa(ガーサー)』!」

イース「ぐがああああ!」

ヨミM「お願い、倒れて!そのまま倒れて……!」

イース「がああああ…加圧式水消火装置作動(かあつしき すいしょうかそうち さどう)!」

ヨミ「そんなっ!?魔方陣の炎が消された!」

イース「はぁ、はぁ…ははっ。ディルスのナイトもついに魔法を使うようになったのか、愚かな。

    魔術など魔性の専売特許。同じ土俵で勝てるわけがないとクラリオンで学ばなかったのか?」

ヨミ「はぁ、はぁ……」

イース「おや、そちらも息があがっているようだ。慣れないことをしたからスタミナ切れかな?」

ヨミ「くっ……まだまだっ!」


アルザ「ヨミ様、もう僕のことは良いから逃げてください。」※以下ヨミとアルザ、敵に会話聞こえないよう小声で。

ヨミ「そんな事出来るわけないでしょ。」

アルザ「僕、役に立ちたくてここまで来たんです。これ以上足手まといになりたくない……

    良い案があるんです。よく聞いてください。僕は今からそこに落ちている剣をひろいます。

    そして大声を出してイース王に斬りかかるふりをして自害します。」

ヨミ「え?」

アルザ「みんな必ず僕に注目します、その一瞬の隙に逃げてください。」

ヨミ「何言ってるの……」

アルザ「左側を突破出来れば、通路の先に細い水路があります。そこはバルト海に通じていたはずです。」

ヨミ「だめだよ!」

アルザ「いいんです。元々そんなに長生き出来ないのはわかってるんです。

    もしこれをした事でディルスの歴史書に僕みたいなのがいたって……

    ほんの少しでも書いてもらえるなら、これ以上の幸せはないんです。」

ヨミ「……どうしてみんなそうやって命をかけるの……!

   生きるために戦ってるんだよ。そんなの絶対ダメだよ。

   生きてディルスに返って、この事をラセル様に伝えなきゃ。

   アルザ頑張ろう、大丈夫まだ戦える。ここが私達の正念場だよ!」


スフレ「ナイスポジティブシンキン〜!」※ヨミを後ろから抱きしめる

ヨミ「っ!?」

イース「スフレ!」

エメダ「スフレ殿!」

イース「助かった。生け捕りも女の相手も大の苦手なんだ。」

スフレ「いやぁ感涙感涙。素晴らしく前向きな言葉とは裏腹に、体は子犬のように震えて

    必死に恐怖と戦っていたんですねぇ、僕は胸をうたれました。」

ヨミM「うそ……どこから現れたの……いつ後ろをとられたの………この感覚、まさか……」

スフレ「おやまぁ、大丈夫ですか?お顔が真っ青です。

    安心してください、こうやって後ろから抱きしめていてあげますからね。」

ヨミ「ま……魔性……?」

スフレ「西の副官スフレと申します。仲良くしましょうね。」

ヨミ「西の副官……!」

剣落とす

スフレ「おやおや、ナイトが剣(つるぎ)を落とすとは。戦意喪失ですか。それは賢い選択です。」

ヨミM「助けて……シルキィ……!」

ナレーター「西の副官スフレ、その怪しき手中に堕ちた白銀軍副長ヨミ。

      彼女の胸を黒い恐怖が埋め尽くした。      

      次回、魔性の傷跡第21話。ご期待ください。」


fin

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