もう25年も前になるか。昨日のように思い出せる。


固く結んだ唇を赤く染め、凛とした青い瞳に不安を残して

お前は私の元にやって来た。


…お前の魂に…私は一目で恋に落ちたのだ。




魔性の傷跡 第17話 『未来永劫』

魔性の傷跡
第17話 『未来永劫』

【登場人物】♂2♀5

ラセル(26歳)♂:ディルス国の若き王

ハルフォン(50歳)♂:クラリオンの王

エルザータ(43歳)/カルセドニー♀:クラリオンの王妃

リビア(?歳)♀:魔性。南の主(あるじ)

ツドイ(35歳)♀:クラリオンの元帥

ルティア(21歳)+宝石A+ナレーター♀:亡国セーレクトの姫

ヨミ(24歳)+宝石B+アルトレア♀:ディルス国、白銀軍の副長


【役表】

ラセル♂:
ハルフォン♂:
エルザータ/カルセドニー♀:
リビア♀:
ツドイ♀:
ルティア+宝石A+ナレーター♀:
ヨミ+宝石B+アルトレア♀:


※若かりし日のエルザータとハルフォン
 見合いの後、庭園で二人きりで。

ハルフォン「あ、あの、エルザータさん。」

エルザータ「エルザータとお呼びください、ハルフォン様。」

ハルフォン「あ、あぁ。…エルザータ…その…」

エルザータ「どうされました?」

ハルフォン「その…本当に、クラリオンの王妃に…その、私の妻になってくれるのか?」

エルザータ「勿論でございます。」

ハルフォン「まことか。よ、良かった!エルザータ!」※エルザータをきつく抱きしめる

エルザータ「んっ…ハルフォン様、ハルフォン様、い、痛いです。」

ハルフォン「あ。す、すまない!大丈夫か?」

エルザータ「(苦笑)はい。」

ハルフォン「あまりの喜びに、我を忘れてしまった。申し訳ない。」

エルザータ「ふふっ。」

ハルフォン「エルザータ…その、クラリオンの王妃に…私の妻になるという事は

      大変な事が数多く待ち受けていると思う。きっと色んな苦労をかけてしまうだろう。

      だが…その、なんといったら良いかわからないが…その、私は…どんな時でも

      君を、愛したい、そうだ。君に、永遠の愛を誓う。この命果てるまで、いや・・・この命果てようと・・・」

エルザータ「まぁ。」

ハルフォン「よ、良ければ、その手に、口づけることを許してはくれないか?」

エルザータ「喜んでお受け致します、ハルフォン様。」

ナレーター「そう言ってエルザータはふわりと微笑んだ。

      ハルフォンはぎこちなくエルザータの柔らかい手をとり、そっと口付けた。

      暖かい日差しが、若い二人を甘やかに包んでいた。」


【召喚室】

リビア「エルザータ、そなたの切なる願い、しかと受け取った。

    その願いの代償として、妾の忠実なる臣下となることに…同意するかえ?」

エルザータ「是非もなく、同意致します。南の主(あるじ)リビア様。」

リビア「これにて締結(ていけつ)。人としての命を終えるそなたに新しい名を授けよう。

    この後(のち)は『カルセドニー』と名乗るが良い。」

エルザータ「カルセドニー…あああああっ!」※傷跡が生じる

リビア「恐れることはない、心の臓が止まるだけのこと。

    人としての命が消滅すれば…すぐに魔性の命が吹き込まれよう。」


【召喚室/扉の外】

ヨミ「ラセル様、どうやら非常事態みたいですね。」

ラセル「ツドイ元帥、魔術でこの扉を壊してくれないか!」

ツドイ「…入りたくない。」

ラセル「…今なんと?」

ツドイ「私は見たくない…この中で何が起きているのか…知りたくない…!」

ヨミ「ツドイ元帥!」

ラセル「何を言っているんだ!」

ハルフォン「ツドイのそのようなさまを見るのは初めてだな。」

ラセル「ハルフォン王!」

ヨミ「王様!ルティアも。」

ルティア「みんな無事で良かった…」

ヨミ「それが、無事でもなさそうなんだよね。」

ツドイ「ハルフォン王…エルザータ様が中に……エルザータ様は…」

ハルフォン「あぁ、皆まで言うな。…もう、もう…わかっておる。」


【召喚室】

リビア「どうじゃ、傷跡から巡る魔性の性(さが)は。」

カルセドニー「とても心地良いです。もっと早く、こうしていれば良かった…」

リビア「カルセドニー…おもてをあげよ。」

カルセドニー「はい。」

リビア「ほぅ、なかなかに良い造形…妾の臣下に相応しいぞ。」

カルセドニー「有りがたきお言葉。」

リビア「ほほほ、よもやクラリオンの王妃が我が手中に入るとは思いもよらなんだ。

    さて、そなたの娘を動ける体にしてやらねばのぅ。」

ハルフォン「魔性に人を癒す力があるとは、初耳だな。」

カルセドニー「ハルフォン…!」

リビア「ほぅ。」

ヨミ「うわっ…床びちゃびちゃ…え…こ、これ…全部血!?」

ツドイ「…メルディア!ファーリー!…エリン、エリンまで…そんな…」

ルティア「ひどい…罪のない人達を…」

ラセル「なんてことだ…」

リビア「ぞろぞろとやかましいのが連れ立ってきおったのう…」

ヨミ「…あ…主クラス…」

リビア「一応鼻はきくのがおるようじゃの。いかにも妾こそ南の主『リビア』じゃ。」

ラセル「…化け物め。」

ヨミ「ラセル様…無理です、全然勝てるイメージが浮かびません。」

リビア「見よ、この王妃の姿を。若かりし頃より更に艶(あで)やかな姿へと変貌したであろう?」

ハルフォン「我が妻を誑(たぶら)かすのは、そこまでにしてもらおう。南の主(あるじ)。」

リビア「クラリオンの老いぼれか。そなたの妻が妾を誘惑したのじゃ。これは亭主の責任ぞ。」

ハルフォン「では問おう。我が息子レイスを癒すとは、一体どのような手法かな。」

リビア「癒すなどと誰も言うてはおらぬ。人には人の肉をあてがうだけのこと。

    これだけ肉塊(にくかい)が転がっておるのじゃ、どれ、それらしきものを見繕ってやろう…」

ヨミ「うわ…」

リビア「この娘の指などはなかなか見事じゃ。これは妾のコレクションに加えたいのぅ…!(引きちぎる)」

ルティア「ああっ!」

ラセル「ルティア見るな。それ以上、死者に触れるな!」

リビア「ほぅ。」

ヨミ「ラセル様。刺激しないでください、出来るだけ穏便に!」

ラセル「しかし…こんな事が…!」

リビア「…『ラセル』知っておる、その名。

    ディルスとかいう古びた剣(つるぎ)の国の王じゃな…

    とすれば、そこの月光色(げっこうしょく)をした髪の娘がルティア…」

ルティア「…」

ラセル「だったらどうだと言うのだ!」

リビア「ほほほ!おかしきこと。これよりおかしきことはないのぅ!」※急接近

ラセル「っ!?いつの間に間合いを…」

ヨミ「なんてスピード、全然見えなかった…」

リビア「ラセル。顔の造形はどうということはないが、この眼球。…これは良いものじゃ。」

ラセル「気安く…触れるな!」※剣を抜き払う。

リビア「久しく、久しく見ておらぬ、生まれながらの『王者の瞳』。

    そしてあの男を狂わせた人間の娘よ、人として血肉を受けたとは到底思えぬ魂の輝き…おお、欲しい。全て欲しいぞ!」

ハルフォン「強欲な主よ、二兎を追うものは一兎をも得ずという諺(ことわざ)をご存知かな。」

リビア「ふん。ならば、そなたが追う兎は一兎、見事捕えてみよ。」

ハルフォン「言われるまでもない。なぁ、エルザータ。」

カルセドニー「誰の事でしょう。私の名はカルセドニーです。」

ハルフォン「いいや、エルザータ。」

カルセドニー「…ではお好きにお呼びください。」

ハルフォン「お前が望むのは、このような形だったのか?」

カルセドニー「どのような形でもいいではありませんか。…レイスさえ回復するのならば。」



ラセル「ツドイ元帥、エルザータ王妃を元に戻す方法はないのか!?」

ツドイ「ありません…!魔性の傷跡は…決して消える事のない運命の刻印…」

ヨミ「ラセル様、主(あるじ)と戦ってはいけません。」

ラセル「ヨミは、ルティアを守っていてくれ。」

ヨミ「ラセル様!」

ルティア「ラセル、お願いだから無茶はしないで。」

ラセル「悪いが、する。」

ヨミ「そんなっ…」

ラセル「ツドイ元帥!」

ツドイ「…」

ラセル「臆されたか。」

ツドイ「私は…エルザータ様と争うことなど…出来ない…。」

ラセル「わかった、ならば貴方もさがっていてください。」

ツドイ「…」

ラセル「気持ちはお察しするが、その状態でいられては邪魔です。」



ハルフォン「レイスに死人の血肉をあてがい、王座に座らせようと言うのか?」

カルセドニー「えぇ、なんの問題があるのです?リビア様は美しく仕上げてくださいますよ。
 
       むしろ以前より更に美しく。」

ハルフォン「この侍女達は…お前が殺したのか?」

カルセドニー「えぇ。尊い犠牲でした。」

ハルフォン「娘達の恐怖、苦痛、怨恨(えんこん)、そんなものをレイスの体に纏わりつかせてでも…

      それでも王座につかせたいと申すのか!」

カルセドニー「当然です。そんなものクラリオンの王位に比べれば取るに足らない障害。」

ハルフォン「そうか…。」

カルセドニー「わかっていただけましたか。」

ハルフォン「あぁ、お前の意見はわかった。しかし、私は止めなくてはならない。我が妻よ、私はお前を…阻止するぞ。」



リビア「さて、この間にクラリオンの世継ぎを生ける死肉へと変えてやろうかの。」

ラセル「行かせるわけにはいかない。」

リビア「何故妾の道を塞ぐ?」

ラセル「レイスを化け物にしてなるものか。」

リビア「ただ人の身であるよりも、強く美しくなるのじゃ、悪い話ではあるまい。」

ラセル「馬鹿を言うな!」

リビア「ラセル。そなたも、強くなりたくはないか?」

ラセル「…何?」

リビア「風の噂に聞けば、そなた北の主の妻に恋慕しておるそうな?」

ラセル「それがどうした。」

リビア「ほほ、確かにあの女の魂は恐るべき輝き。成程あの男が娶ったわけがわかった。

    しかし、あの男からアレを奪うことなど、まこと出来ると思うか?」

ラセル「ルティアは所有物ではない!」

リビア「答えよ。妾が問うているのは、あの男に勝つ自信があるかということじゃ。」

ラセル「ある!」

リビア「…ほほ、ほほほ!」

ラセル「何がおかしい。」

リビア「理解出来ぬなら教えてやろう、そなたの力ではあの男に勝つことなど到底出来ぬわ。」

ラセル「どれだけ力の差があろうとも、俺は負けない。」

リビア「ほほほほ、ディルスの王は気が違っておる!…ますます気に入った。」

ラセル「…っ!触るな!」

リビア「ラセル、妾のものになれ。」

ラセル「断る!」※剣を抜く

リビア「…愛いやつじゃ。」


ヨミ「ルティア…どうしよう…私、どうしたらいいか、わかんないよ…」

ルティア「ヨミ…」

ヨミ「怖いの。レイスさんの魔術の時と同じだ…

   怖くてたまらない…剣が、ちゃんと握れないよ… 
  
   ごめんね、こんなんじゃ…ボディガード失格だ…」

ルティア「ヨミ。大丈夫よ。あなたは戦わなくてもいい。

     今、私達に出来る最善を考えましょう。」

ヨミ「今出来る最善…?」

ルティア「ツドイさん。レイスさんを南の主から守るために、何か出来るかしら…?」

ツドイ「…レイス様を…守るために…ですか…」

ルティア「ええ、レイスさんの安全確保。これがきっと、今の私に出来るたった一つの事だと思うの。」



カルセドニー「ハルフォン、レイスに王位を譲ると言ったのは偽(いつわ)りだったのですか?」

ハルフォン「偽りではない。だがこのようなやり方は認められぬ。」

カルセドニー「どのようなやり方ならば良かったと言うのです?いつまでレイスをあのままにしておくつもりですか。」

ハルフォン「時が満ち、運命が廻り始めるまで。」

カルセドニー「それは何十年、何百年先の話です。」

ハルフォン「明確な答えなど知る由もない、運命も人の心も絶えず揺らぐ。エルザータ、お前のように。」

カルセドニー「それは人の世での話。魔性になった今は違います、私は私の願いを遂げることに少しも揺らがない。

       例え今すぐ……貴方に譲位いただくことになろうとも!」※青い硬質な光の塊がハルフォンを襲う

ハルフォン「yrNied(エイワズニイド)!」※防御

カルセドニー「さすが…。魔性の力を得てもなお、貴方は私より強い。」

ハルフォン「エルザータ、お前の苦しみも悲しみも、ついぞ癒すこと叶わなかった。

      全ては私の責任だ。…この花束ですら…

      …お前を元に戻すことは出来ないのだろう。」

カルセドニー「ハルフォン、何も悔いることはないのですよ。

       貴方がそこをどいてくださりさえすれば、何一つお恨みすることはないのです。」

ハルフォン「お前の願いが、いかに純真であると私だけは理解していようとも…二度は違えぬ!」

カルセドニー「何を言っているのです?」

ハルフォン「私はすでに大きな過ちを犯した。」

カルセドニー「過ち?何をあやまったというのですか。」

ハルフォン「あの日…。レイスをアルトレアとして育てる事を許してしまった、あの日だ!」

カルセドニー「…」

ハルフォン「エルザータ、すべては私の業だ。」※花束を投げる

カルセドニー「綺麗な花束ですね。…償いのおつもりなら、不要です。」※花束を燃やす

ハルフォン「戦おう。思えば…慰めばかりをお前に与えていたんだ。私は。」


リビア「ほほほ。」※攻撃をかわしながら

ラセル「はっ、はぁあああっ!」※追撃

リビア「速い、速いのぅ。」

ラセル「もらったぁあ!」

リビア「…っくふふ。」

ラセル「馬鹿な…剣を自分に差し込むなんて…!」

リビア「そなたは魔性というものを全く理解しておらぬ。」

ラセル「は…はなせっ!」※後ろにひく

リビア「器など見せかけにすぎぬ。妾を殺したくば、魂を滅してみよ。」

ラセル「魂だと。」

リビア「ほれ、例えばこのように。」

ラセル「!?…うああっ!!俺の皮膚から…は、針が!!」

リビア「意識は保つのじゃぞ?死なせるつもりはないが、寝られてもつまらぬ。」

ラセル「な…なんだっ…これ……」

リビア「そなた自身から生じたエナジーの針じゃ。」

ラセル「ぐああ!」

リビア「一本、二本、ゆっくり増やしてやろうの。どうじゃ…痛むか?」

ラセル「くそっ!ど、どうしたら…」

リビア「その怯えた表情がまた好ましい。ほれ、もう一本増やそう。」

ラセル「が…くっそおお!」※攻撃

リビア「千本。」

ラセル「ぐああああああ!」

リビア「ほほほ。良いぞ、もがき苦しむさまをもっと見せよ。

    ああ、たまらぬ。

    そなたの命は妾の手の中じゃ。苦しみと絶望の中、妾に屈服せよ!」

ツドイ「悪趣味にも程がある。はああっ!」※攻撃

リビア「ぐぁっ!」

ラセル「は、針が消えた!」

ツドイ「ラセル王、幻覚と現実の境を弄ばれています。気をつけてください。」

ラセル「ツドイ元帥…正気に戻ったのか!」

ツドイ「どこかの愚かな王様のおかげでね。」

リビア「クラリオンの元帥か…なかなか、やるのぅ。

    ん…女共はどこへ行った?」

ツドイ「あなたがラセル王に夢中になっている間に消えましたよ。」

リビア「…ちっ。クラリオンの世継ぎのところか。小賢しいことを!」※追いかける

ラセル「逃がさん!」

※ツドイ、ラセル走りながら

ツドイ「ラセル王、魔性相手では魔力を駆使せねば話にならない。私の魔力に追随(ついずい)してきてください。」

ラセル「すまない、わかった!」


【廊下】

※ルティア、ヨミ走りながら

ヨミ「ルティア、こっち!」

ルティア「うんっ…」

ヨミ「ありがとうね!」

ルティア「…え?」

ヨミ「ルティアってすごいよ。こんな状況でも、きちんと前を向けるんだもん。」

ルティア「…ラセルの…おかげだわ…」

ヨミ「そうなの?」

ルティア「ええ。ラセルに会う前の私は、ずっと過去だけを見ていた。」

ヨミ「へぇ〜。そうなんだ。」

ルティア「ラセルに出会えて、私は本当に救われたの。」

ヨミ「そっか。ラセル様って本当は優しいもんね。」

ルティア「ヨミもそう思う?」

ヨミ「ちょっと怒りっぽいけどね。」

ルティア「ふふ。ラセルのおかげで、私は自分の運命と戦おうと思った。何の力も無くても、自分の出来る限り。」

ヨミ「だったらあれだね、体はもうちょい鍛えてもいいかもね。」

ルティア「うっ…。走るの、遅くてごめんね。」


【中庭】

カルセドニー「どこに連れ出すのかと思えば、中庭ですか。」

ハルフォン「あの場所では戦いにくいであろう。」

カルセドニー「ハルフォン、貴方に私が殺せるのですか?」

ハルフォン「殺す必要などない、ただ止めてみせるよ。」

カルセドニー「侮られたものですね。ならば、今こそ魔性になった私の魔力を見せてさしあげます。

       紅玉髄(カーネリアン)!血玉石(ブラッドストーン)!」

       ※カーネリアンとブラッドストーンの魔力が形を成す。

ハルフォン「ほぉ、召喚術…相変わらず見事だ。」

カルセドニー「呪文の詠唱も魔方陣も必要としない。『泉(いずみ)』から魔力を直接汲み上げられる。
  
       これが魔性の力…道理で人の身では適わぬはずです。」

宝石A(カーネリアン)「殺スノカ?王ヲ殺スノカ?殺スノガ望ミカ?」

宝石B(ブラッドストーン)「殺セバイイ、今スグニ。」

カルセドニー「そうね、あんまり邪魔をなさるのですもの…」

宝石A(カーネリアン)「希望ノタメニ!」

宝石B(ブラッドストーン)「繁栄ノタメニ。」

カルセドニー「死んでください!」

ハルフォン「出でよ『レーヴァテイン』!」

宝石A(カーネリアン)「マ、マブシイ!!!!」

宝石B(ブラッドストーン)「キャアアア!!!!!」

カルセドニー「…それを出しましたか。レーヴァテイン…内乱の火種と成り続けたクラリオン王位の証。」


【治療室近く/廊下】

ヨミ「んっ!」

ルティア「ヨミ、どうしたの?」

ヨミ「ルティア!南の主、もう私達のこと追いかけてきてるみたい!」

ルティア「もう気づかれてしまったの。」

ヨミ「ラセル様とツドイ元帥も止めようと追ってくれてる。

   すごい魔力の攻防戦の音がする…。とにかく…急ごう!」

ルティア「ええ、わかったわ…!」

【廊下】

ツドイ「くらえ、IS(イサイス)!!」 ※氷の魔力弾

リビア「後ろからちょろちょろと鬱陶しいのぅ。」

ツドイ「邪魔をしているのです、当然でしょう!ラセル王、行きますよ!」

ラセル「まかせろ!はああぁっ!」

リビア「-つむぎくげ-」

ラセル「くそっ!針のガードか!」

リビア「2人がかりなら勝算があると思うたか?」

ツドイ「そういう事は考えるのをやめました!」

リビア「愚かな。−四(し)の三半(さんはん)-」

ラセル「針の波!?ツドイ元帥、避けろ!!!」

ツドイ「arumarea(アルマレア)!…ぐっうぅ!!!」

リビア「ほぅ、殺すつもりであったが。即座に防御結界を組んだか、さすがに手早い。」

ツドイ「…そう易々と…仕留められるわけにはいかないんですよ。」

リビア「ならばこれもかわしてみよ。-溝(みぞ)おおくけ-」※ツドイの体を無数の針が円形にかこみ、襲い掛かる。

ラセル「まずい、囲まれる…上に避けろっ!」

ツドイ「言われなくても!」※飛ぶ

リビア「それで妾の針から逃れたつもりか?」※針が追いかける

ツドイ「barugiru(バルギル)!っ防ぎきれない!ぐああああっ!」

ラセル「ツドイ!くそっ!」

リビア「ククッ…クラリオンもいよいよ仕舞いじゃ。

    王妃は魔性となり、世継ぎは生き人形と化し、元帥は…妾のコレクションに加えてやろうのぅ。」

ラセル「ふざけるなぁああ!」

リビア「-つむぎくげ-。無駄じゃ、ラセル。このような事、無駄だとは思わぬか?」

ラセル「くそ…この針さえなければ…」

リビア「針など形の一つにすぎぬ、力の差だという事…まだわからぬか!」※攻撃

ラセル「ぐあああ!」

リビア「痛いか?人の身で魔性に対抗しようなどとするから痛い目をみる。

    特に、『魔法帝国』などと痴(し)れ言をぬかす国の元帥には

    きついお灸をすえてやらねばのぅ。」※倒れているツドイの頭を掴みあげる

ツドイ「ぐっ…。」

リビア「弱きものよ、人間など。悔しいか?」

ツドイ「いい気に…なるな!」※攻撃

リビア「ふん。」

ツドイ「わ、私の拳(こぶし)を素手でとめた…!?」

リビア「なるほど、鍛え上げられた良い拳。ここに洗練されたこの魔力をのせ

    直接、対象に叩き込む。なかなか効率は良いな。」

ツドイ「は、はなせっ!」

リビア「しかし身の程というものがある。教えてやろうのぅ、まずはこの右手に。」※ツドイの右手に杭が刺される

ツドイ「ぐああああっ!」

リビア「妾の杭の味は極上であろう?神々をも貫く苦しみの杭。続いて左手。」

ツドイ「あああああっ!」

ラセル「くそおお!!!やめろぉおお!!!(攻撃)」

リビア「-つむぎくげ-。何度やっても同じじゃ。」※ガード

ラセル「ツドイを…離せ!」※ガードに剣を押し込みながら。

リビア「つまらぬ邪魔をするなラセル、見よ。美しい標本になったであろう?まるでクラリオンの象徴じゃ。」

ラセル「これ以上は…これ以上は絶対にゆるさんっ!南の主!」

リビア「…ほぅ、波長が変わった。魔力を扱う気か?」

ラセル「…フレイ…デュール…」

ツドイ「…ラ…ラセル王…あの時より更に…」

リビア「ほぉ…これはこれは、なかなか見事なものじゃ…」

ラセル「フェウル…」

ツドイ「…そう…そうです…メルディス…アリア…」

リビア「ん…魔力が膨れ上がった。」

ツドイ「…スリサズ…ソーン…」

リビア「っ!増幅魔法じゃと!?」

ツドイ「滅びよ…南の主…」

リビア「死にかけの雌豚が小賢しい!」

ラセル「くらえ…INGBEORC(インガズベオーグ)!」

リビア「ああああああああっ!」



【中庭】

カルセドニー「瑪瑙(メノウ)!蛍石(フローライト)!天青石(セレスタイン)!」

ハルフォン「宝珠(ほうじゅ)媒体を5体も同時に召喚か…恐るべき魔力だ。」

カルセドニー「こんなにも楽に魔力を扱えるなんて思ってもみなかった。

       しかし、まさかレーヴァテインを出されては、これだけ出しても心もとない。

       …カーネリアンは怯えてしまいました。」※花飾りを髪から抜き取る。

ハルフォン「その髪飾り…エルザータ…お前まさか…」

カルセドニー「お出でなさい…可愛い蜜花石(アリスタイト)」

ハルフォン「や、やめろ!」

ナレーター「小さな髪飾りの宝石から現れたのは、今まで召喚された宝石達とは明らかに異なっていた。

     まだ十(とお)にもならない、幼い少女…アルトレアの姿であった。」

アルトレア「…お父様。」

ハルフォン「…おぉ…なんと…なんということを…」

アルトレア「お父様?どうしたの?」

ハルフォン「おお。寄るな…寄ってくれるな、愛しき幻影よ…!」


【治療室入り口】

ルティア「ヨミ、ここね!」

ヨミ「そうだね!ここにレイス様がいる…ルティア、ツドイ元帥からもらった解呪(かいじゅ)のオーブを。」

ルティア「ええ。あ、オーブが光ってる…。」

ヨミ「おおっ!これは手ごたえありだね。さっそく、やってみよう!」

ルティア「ええ。やってみるわ。」※オーブに祈りを込めはじめる


【廊下】

ラセル「やった…大丈夫か、ツドイ元帥!」

リビア「今のでやったつもりか、手ぬるいわ!!!!」※爆炎の中から針が噴き出す。

ラセル「ぐあああっ!!」

ツドイ「ラセル王…っうああああああ!!」

リビア「ほほほ!!しかし少しは痛みを感じた。

    この妾に傷をつけたのじゃ、それなりに報復はさせてもらうぞ。」

ツドイ「や、やめろ…!」

ラセル「何をする気だ!」

リビア「-帷子(かたびら)つま-」

ナレーター「リビアを中心として嵐のように針が吹きすさぶ。

      無数の針は斧のように城内を切り崩していった。」

ラセル「や、やめろぉお!城内には人間がいるんだぞ!」

リビア「ほほほ、だからこその報復であろう。」

ツドイ「もう…やめてくれ…!」

ナレーター「どれだけの時間、針の嵐が続いただろう。

      ラセルとツドイは動く事も出来ず、ただその光景を見つめる事しか出来なかった。

      崩れ落ちたクラリオン城の天井から、青い月がのぞいていた。」

ツドイ「ああ…城が…崩れていく…」

リビア「このぐらいにしておいてやろうかの。安心せよ、壊したのは3分の1程度じゃ。

    カルセドニーを傷つけるわけにはいかぬからのぅ。」

ツドイ「今の破壊で…どれだけの犠牲が出たか分からない……」

リビア「ツドイと言ったか。弱きものはすぐ死ぬのじゃ。それは自然の摂理であろう?

    そしてそなたのこの鍛え上げられた肉体。やはりこれは妾のコレクションに値するのぅ。」

ツドイ「さわるなっ…!(蹴り上げる)」

リビア「(かわす)ふっ。足はまだ動くか、イキがいいのう。では足も止めてやろう。(杭をうつ)」

ツドイ「ぐああっ!」

リビア「ほほほほほ!」

ツドイM「主クラス…ここまで遠いのか…

    日々限界まで鍛錬を積んだと自負していた…

    …それでもなお遠く及ばないと、こんなにも痛感させられるのか…!」

リビア「今際(いまわ)の際(きわ)に言い残す事はないか?」

ツドイ「…っ…あるものか…例えあったとしても…お前などに聞かせはしない…」

リビア「そうか。では今度こそ永訣(えいけつ)の時じゃ。」

ツドイM「出来る事ならば…もう一目、もう一目だけで良い…

     心より笑顔の貴女に会いたかった…エルザータ様…!」

カルセドニー「きゃあああああああああ!」

リビア「カルセドニー!?」

ラセル「今の声はエルザータ王妃!」

リビア「…おのれハルフォン…妾の臣下に何をしおった!(立ち去る)」

ラセル「あ、待て!」


【中庭】

カルセドニー「アルトレア!アルトレア!」

アルトレア「…お父様…どうして…」※胸を貫かれている。

ハルフォン「もう止めようエルザータ、このような幻にすがるのは。

      誰より苦しんでいるのは、他でもないお前自身だ。」

カルセドニー「幻だというのですか…」

ハルフォン「…」

カルセドニー「許せない。こんなことは許せない。ハルフォン…ああ、やはり全ては偽りであった!

       この中庭の木々や花々は私のためと言ったのも、レイスを世継ぎにすると言ったのも

       アルトレアを愛していると言ったのも!貴方の言葉は全て虚言(きょげん)だった!」

ハルフォン「違う!」

カルセドニー「ならば何故アルトレアを殺したのです、自らの手で。」

ハルフォン「あれはアルトレアではない。」

カルセドニー「こんな、こんな地獄は、もう終わらせたい!」

リビア「終えようではないか。」

カルセドニー「リビア様!」

ハルフォン「南の主…。」

リビア「無事で安堵したぞ、カルセドニー。」

カルセドニー「お力をお貸しください、あの男を殺すため。」

ハルフォン「…」

リビア「よかろう。ハルフォン、兎は捕えられなかったようじゃの。」


【治療室】

ヨミ「扉が開いた!ルティアすごいよー!」

ルティア「オーブのおかげよ。私には何の魔力もないもの。さぁ、入りましょう。」

ヨミ「そうだね!」※入る

ルティア「えっ!」

ヨミ「な、なにこれ!?」

ルティア「誰も…いない…」


【中庭】

ハルフォン「随分と我が城を壊してくれたようだな。」

リビア「そなたの飼い猫が妾に噛み付いたのでの。」

ハルフォン「お前を滅すれば、エルザータを人に戻せぬだろうか。」

リビア「さて、滅せられたことがないのでわからぬ。」

ハルフォン「いずれにせよ、戦わねばならぬか。」

リビア「…ほぅ、その錫杖(しゃくじょう)…それが噂のレーヴァテインか。」

カルセドニー「フローライト!セレスタイン!ハルフォンの動きを止めなさい!」

宝石A(フローライト)「リョーカイ。」

宝石B(セレスタイン)「オヤスイゴヨウデス…」

ハルフォン「無駄だ。」

宝石A(フローライト)「キャア!」

宝石B(セレスタイン)「グゥウウ!」

リビア「ほぉ…さすがクラリオンに代々受け継がれるという伝説の武器。

    カルセドニーの魔力では太刀打ち出来ぬか。」

カルセドニー「小癪な…ブラッドストーン!メノウ!」

宝石A(メノウ)「イキマスヨ。」

宝石B(ブラッドストーン)「コッチデス!」

ハルフォン「っ!?…ぬぅっ!」

カルセドニー「やった!」

リビア「おお!捕らえた!」

※ツドイ、ラセル入ってくる。(ツドイ回復魔法使用済み/瀕死→大怪我くらいまで回復)

ツドイ「エルザータ様…もう、もうお止めください!!」

カルセドニー「ツドイ…」

ラセル「ツドイ元帥、あなたは回復が間に合っていない。さがっていてください。」

ツドイ「嫌です…!あぁ、ハルフォン王、なんとレーヴァテインを…」

ラセル「ハルフォン王!私が加勢します!」

ハルフォン「いや、お気持ちだけいただこう。」

リビア「ふっ。強がりを申すな、妾はかまわぬぞ。」

ハルフォン「強がりなど申さぬ!」※一振りで宝石達を蹴散らす

宝石A(メノウ)「キャアアア!」

宝石B(ブラッドストーン)「アノ杖ガ恐ロシイデス、カルセドニー様!」

リビア「ちっ。やはり駄目か。カルセドニー下がっておれ。」

カルセドニー「申し訳ありません…」

ハルフォン「南の主。一つ聞こう。我が妻を解放する気はないか。」

リビア「何を言う。」

ハルフォン「エルザータは貴殿(きでん)の臣下として傷跡を受けた。

      忠実な臣下として魂を作り変えられた。しかし。

      貴殿がエルザータを解放するのであれば…あるいは魂は…」

リビア「愚問じゃ。断る。」

ハルフォン「交渉決裂か…ならば、致し方ない。」

リビア「四の五のぬかさず、かかってくるがいい。」

ハルフォン「そうだな。力を借りるぞ、レーヴァテイン。」

リビア「老いぼれに杖は良く似合うのぅ。杖にたよれぬ程に足腰くだいてやろう。-絹しきし-」

ラセル「ハルフォン王!右です!」

ハルフォン「必要ない。yrNied(エイワズニイド)」※防御

リビア「ほぉ、よく防いだ!汲み上げが速いな、だがこれはどうじゃ。-もめんつぎ-」

ハルフォン「Yr_Lagu(ユル_ラーグ)Geofu(ギューフ) …」

リビア「やりおる、やりおる!ほほほ、そのまま耐え切ってみせよ!」

ハルフォン「Wyn(ウィン) Eolh(エオロー) …」

カルセドニー「なんという高度な魔力のぶつかりあい…ハルフォン、やはり貴方はすごい…」

ハルフォン「おおおおっ!」

リビア「-千鳥がけ-」

ツドイ「ああっ、魔力の糸が!」

ラセル「南の主、あんな技もあったのか!」

ハルフォン「ぬぅう…!」

リビア「ほほほ、針と糸はつがい、常識であろう?」

ラセル「囚われた…っ!」

ツドイ「ハルフォン王!」

ハルフォン「レーヴァテイン!我に力をギュルヴェイグ!」

リビア「無駄じゃ無駄じゃ!その程度かクラリオンの伝説の武器とは!」

ハルフォン「ぐぅうう……!」

リビア「ほほほ、杖を借りても老いぼれは老いぼれ。非力なものじゃ。

    妾の糸が皮膚に食い込むのを感じるであろう。肉を裂き血を啜る糸じゃ!」

ハルフォン「ぐあああっ!」

ツドイ「あああっ!ハルフォン王!」※リビアに近づく

ラセル「ツドイ元帥!?」

ハルフォン「来るな、ツドイ!」

リビア「また元帥か。恐るべき執着心よ、それほどまでに息の根止められたいか。−四(し)の三半(さんはん)-」

ハルフォン「させぬ!うおおお!」

リビア「ほう、見事な杖術(じょうじゅつ)。老いぼれにそのような力があったとは。」

ツドイ「ハルフォン王…血が…!」

ハルフォン「気にするな。」

ツドイ「申し訳ありません…足をひっぱってばかりで…何一つ、お役にたてない…っ…」

ハルフォン「いいや、ツドイ。そんな事はない。」

リビア「傷の舐め合いは他でやってもらおうかの。-千鳥がけ-」

ハルフォン「ぐああっ。」

ラセル「くそっ!また糸か!」

ツドイ「くっ…ハルフォン王ですら、レーヴァテインの強化を受けても、南の主の力にかなわないのか…」

ハルフォン「……もはや、ここまで。」

リビア「…何?手を抜くでない。もっと妾を楽しませるのじゃ。」

ハルフォン「いや、限界だ。」

リビア「年寄りは諦めが早くてつまらぬのぅ、では早々に死んでもらおうか。」

ハルフォン「死ぬのは私ではないぞ。」

リビア「ほぉ…傲岸(ごうがん)な。」

ハルフォン「信ずるのは、己の想い。そしてクラリオンの長き歴史が紡いだ人々の祈りの水晶。」

ツドイ「ハルフォン王…まさか、レーヴァテインを…」

ハルフォン「ああ。解放する。」

カルセドニー「なっ…なんてこと。リビア様!お逃げください!」

リビア「妾が逃げる?戯言を申すな。面白そうではないか。」

カルセドニー「侮ってはなりません、あれは人間が魔力を扱うものではないのです。」

リビア「もう一度言う。下がれ、カルセドニー。」

ツドイ「あぁ…ついに封印を解く日が…この日が来てしまった。」

ラセル「封印?」

ツドイ「ラセル王、目に焼き付けてください…ただ一度、一瞬だけです。一国を守り得る力というものを。」

ハルフォン「いくぞ…」

リビア「見せてみよ。古びた杖にどれほどの力があるか。」



ハルフォン「大地の水晶 逆さに巡る

      泉の輝き 永遠(とわ)の大海へ
 
      TIR(ティール)JARA(ジュラ)BEORC(ベオーク)」



リビア「なんじゃ、この呪詛は…あまり聞かぬな。」

カルセドニー「あぁ…『星海(せいかい)と泉の歌』…」


ツドイ「南の主…貴様は最大のミスをした。教えてやろう。

    レーヴァテイン自体が代々クラリオンの王に受け継がれる伝説の武器ではない。」

リビア「何…」

ラセル「そうなのか?」

ツドイ「えぇ。あれはただの鍵にすぎないのです。」

リビア「鍵じゃと…」

ツドイ「内乱の火種となり続けた、クラリオン王位の『絶対的な力』。

    その身をもって知るがいい……」

ラセル「なんだ、この地響き…」

リビア「…この魔力…まるで泉から…まさか…あの十字の水晶…!?」

ツドイ「気づいたか。そう、『泉』から魔力を直接汲み上げ続けた十字の水晶。

    幾星霜(いくせいそう)のエネルギーが今ここに開く…

    これこそが魔法帝国クラリオンの切り札だ!」


ハルフォン「天上の糸 いとなみ 巡る

      大海の憂い そは風に似たるかな
 
      TIR(ティール)JARA(ジュラ)BEORC(ベオーク)」


ラセル「うわっ…じ、地面が割れた!」

カルセドニー「ああ、十字の水晶が解き放たれる…クラリオンの祈り…」


ハルフォン「やすみなき至福(さち) 我らをいだかん 闇に害成せ…レーヴァテイン!」


ナレーター「ハルフォンがレーヴァテインを地面に突き立てると同時に

      辺り一面に激しく閃光がはしった。

      大地は脈打ち、やがて全てが真っ白な光に包まれていった。」


【光の中】

リビア「…ここは…『最果て』…妾がこんな…こんなところに飛ばされたじゃと…ハルフォン…!」

ハルフォン「全ての糸をこちらにいただいたよ、南の主。」

リビア「おのれ…人間ごときに…」

ハルフォン「人間でなくては出来ぬ事もある。」

リビア「それは泉の翼・・・天上の力、まだ存在していたのか。

   しかし、貴様に天上の力など操れるものか!

   ・・・くっ!?・・・ち、力が出せぬ…」

ハルフォン「この次元でのお前は唯の糸に過ぎない。哀れなものだな。」

リビア「哀れ?妾を哀れと申すか、人間ふぜいが。」

ハルフォン「あぁ、哀れな生き物だ。魔性とは。」

リビア「ぬかせ!-溝(みぞ)おおくけ-」

ハルフォン「まだ力が残っていたか、さすがは主と言ったところ。」※かわしながら

リビア「くっ…泉から湧き出す魔力を全て奪われる…」

ハルフォン「絡めとられる気分はどうだ。次元の糸の数千数億を束ね、欲しいままに貪った女郎蜘蛛よ。」

リビア「…くくっ。そうじゃ。妾は欲しいものは必ず手に入れる。

    全てを手に入れる力があるのじゃ。

    妾の手に入らぬものなど、その存在ごと消してくれるわ。」

ハルフォン「自らの思い通りにならぬものを全て消し、それで全てを手に入れたつもりになると言うのか。」

リビア「言わせておけば。

   枯れた体に泉の源泉(げんせん)を受けたところで老いぼれは老いぼれ、この後に何を残すというのじゃ?」

ハルフォン「最早残すものなど無い。ただ、未来のため。
       
      この力は私の力ではない。クラリオンの、いや、人間の長き祈りの結晶。   
      
      魔性には決して扱えぬ、人間の想いと祈りが生み出した力だ。」

リビア「口だけは達者な・・・その翼を土産に天に召されよ!」

ハルフォン「さらばだ。Kreuzt-kulo-tu(クロイツ・クォーツ)!」

カルセドニー「リビア様ぁああああ!」※リビアをかばう

リビア「カルセドニー!?ぐあああああ!!!!!」


【中庭】

ラセル「なんという光の洪水だ…やっと目がなれてきた…」

ツドイ「あああ!エルザータ様!」

ハルフォン「おおお…エルザータ…」

リビア「ククッ…兎を追いすぎて…捕える前に殺してしもうたのぅ…愚かな…」

ツドイ「なんということだ…」

リビア「…ラセル…近こうよれ…」

ツドイ「まだ動くか…怨霊のごときその体、私がこの手で叩き崩してくれる!」

ラセル「ツドイ元帥、あまり動いては…!」

リビア「ほ…ほほほ…ラセル…そなたは逃がさぬ。」

ラセル「ぐっ!!」

リビア「捕らえた。…さぁ、妾の接吻を受けるのじゃ。」

ラセル「うっ…!?」

ツドイ「あっ…南の主、どこまで淫らな欲望の塊だ!」

ラセル「…ぅう…離せ!おぞましい!」

リビア「ククク、やった…吹き込んでやったぞ…!」

ラセル「何?…ぐああ!喉が、燃える…!」

ツドイ「ラセル王!?」

リビア「甘受せよ、そなたは妾の願いをとげるのじゃ。そなたはいつの日かあの男を滅ぼす妾の駒となる…」

ツドイ「おのれ、南の主!祟(たた)ったな!」

リビア「ほほ…ほほ…」※崩れ塵になっていく

ラセル「ぐあああああ!!!!」

ツドイ「ラセル王!!」



ハルフォン「エルザータ…エルザータ…」

カルセドニー「あなた…」

ハルフォン「エルザータ!おお…魂が解放されたのだな!」

カルセドニー「いいえ、私は…カルセドニーです。」

ハルフォン「待っていろ、今回復魔法を…」

カルセドニー「いいえ。お止めください。どうか。」

ハルフォン「…」

カルセドニー「ここにいるのは…魔性に身を落とした、ただの愚かな女です。

       貴方のエルザータなら…もっと老いていたはず…」

ハルフォン「あぁ、確かに。今の姿は若き日のエルザータだ。忘れもしない。お前が嫁いできた日のままだ。」

カルセドニー「いつの話をしているのです…」

ハルフォン「もう25年も前になるか。昨日のように思い出せる。

      固く結んだ唇を赤く染め、凛とした青い瞳に不安を残して、お前は私の元にやって来た。

      だが、そんな美しい容姿よりも…ずっと美しい…お前の魂に…私は一目で恋に落ちたのだ。

      今も昔も変わらぬ。私が愛を誓った優しきこの手…そうだ、この手に口づけ私は永久(とわ)の愛を誓ったのだ。」

カルセドニー「そのような事、忘れました…」

ハルフォン「私は忘れぬ。例えお前が忘れても、お前が思い出せるまで何度でも話そう。

      アルトレアが生まれた日…私はこのような幸福感を人生で味わうことが出来るとは
 
      思ってもみなかったんだ。生まれてきてくれた娘に感謝し、産んでくれたお前に感謝した。

      この世の全てが愛しく思えた。エルザータお前はどうだった…?」

カルセドニー「さぁ…どうだったかしら…」

ハルフォン「平穏を願うあまり、私は何度過ちを犯した?

      お前をどこまで追い詰めたのだ。わからぬ。今もまだわからぬ。
     
      お前を癒したい。なのにそれがお前の望みとはいつも逆(さか)しまなのだ。

      エルザータ私はお前に謝罪したい。

      この舌が擦り切れるまで、この歯が擦り減るまで。お前に謝罪したい。」

カルセドニー「ただ一つ、お恨み申し上げることがあるのなら…

       私は…貴方の優しさが…何より辛かった。」

ハルフォン「…」

カルセドニー「どこまで行っても…魔性に身を落としてすら…

       どこまで行っても私はあなたに届かない…!」

ハルフォン「エルザータ、そんな事はない。」

カルセドニー「たった一つでいい。証がほしかった。

       私は確かにあなたの妻たり得るという証が。」

ハルフォン「なぜそのような事を気に病む。私はそれでも…」

カルセドニー「いくら体が弱くとも、いくら日々年老いていこうとも…子を成さずとも…!

       あなたはそれでもいいと言ってくださる。それがわかっていた。」

ハルフォン「…」

カルセドニー「貴方が完璧であればあるほどに私は必死になって。

       心は闇にとらわれていった。」

ハルフォン「お前を失いたくない…」

カルセドニー「貴方の手にかかって迎えるこの綴(と)じ目…

       あぁ…こんな幸福感は何年ぶりかしら…

       そうだわ…アルトレアが健やかであった時のよう…

       瞼の裏に、今も…見える…」

ハルフォン「エルザータ…」

エルザータ「…………はい。」

ハルフォン「…!」

エルザータ「…悪妻の…最後のわがままを叶えていただけませんか…」

ハルフォン「あぁ。何でも、何であろうと。叶えたい…!」

エルザータ「…抱きしめてください。」

ハルフォン「…エルザータ……!」

エルザータ「…………貴方は本当に…お優しい……」



ハルフォン「エルザータ…。エルザータ…雪だ。十字の水晶から魔力の雪が降る。」


ナレーター「静かに、静かに零れ落ちる真っ白な光が、全てを包んでいく。

     ハルフォンはエルザータを抱きしめたまま、じっとその光景を見つめていた。」


ハルフォン「おぉ…エルザータ見よ、もう冬だというのに花が咲いたぞ…

      お前が好きだと言った花だ。何年ぶりであろう。見事だなぁ…

      お前と見る最後の光景がこれでよかった。

      次にあうのは血の池か針の山か…

      この光景の後(のち)ならば、どこであろうとかまわぬな…

      必ず会おう。そしてその時、私はもう一度誓うよ。

      どんな場所でどんな姿になろうとも、お前だけを未来永劫、愛していると。」


ナレーター「その日、魔法帝国クラリオンは不思議な光に包まれた。

     水晶から零れ落ちる白い光は、クラリオンにいくつかの小さな奇跡を起こした。
    
      中でもハルフォン王がエルザータ王妃に贈った樹に数年ぶりに咲いた真冬の花は
 
      天上のものと見紛うばかりの美しさであったという。

       次回、魔性の傷跡第18話。ご期待ください。」

fin

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