魔性の傷跡
第14話 『初恋』

【登場人物】♂3♀3
ルティア(21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ツドイ(35歳)♀:クラリオンの元帥。
リザイア(18歳)♀:マリーガルド国の姫。ラセルのはとこ。
ラセル(26歳)♂:ディルス国の若き王。
エメダ(42歳)♂:ウェルナン国の大臣。
スーラ(88歳)+ナレーター♂:ディルス国の宰相。


【役表】♂3♀3
ルティア♀:
ツドイ♀:
リザイア♀:
ラセル♂:
エメダ♂:
スーラ+ナレーター♂:



【中庭】

ルティア「開国・・・ですか?」

ラセル「ああ。ルティア、お前はどう思う?」

ルティア「良い事だと、思うわ。」

ラセル「・・・そういえばお前は、初めて会った時からそう言っていたな。

    この国は腐っている・・・だったか。アレには度肝を抜かれた。」

ルティア「ごめんなさい、あの時はつい・・・でも閉ざし続ける事は淀みを生むから。」

ラセル「淀みか。こうなってしまったと言う事は・・・悔しいが、そうなんだろうな。

    だが正直言うと俺は不安なんだ。ディルスは300年、同盟国以外との交流を閉ざしてきた。

    今になって開国など本当に出来るのだろうか・・・。」

ルティア「けれど、決めたのでしょう?」

ラセル「わかるか?」

ルティア「ええ。」

ラセル「そう、俺は決めた。今のままでは魔性に対抗出来ない。」

ルティア「そうね・・・」

ラセル「俺は特別頭が良い方ではないが、俺なりに必死に考えた。

    そして決めた。国を開くしかないと。

    同盟国の抵抗もあるだろう。外部からの攻撃もあるだろう。

    300年の歴史は、決して軽いものではない。血も流れるだろう。」

ルティア「血は見たくないわ。平和的に開国出来るように私も手伝います。」

ラセル「ルティア、国を開けばお前は自由になる。」

ルティア「え?」

ラセル「ディルスに、異国人の捕虜という存在は無くなるだろう。」

ルティア「そう・・・ね。」

ラセル「どこか遠く・・・少しでも安全な地へ行くか?」

ルティア「いいえ。」

ラセル「この国はいずれ戦渦に巻き込まれるぞ。」

ルティア「出来る事なら私は、この命が尽きるまで貴方の側にいたい。」

ラセル「・・・わかった。」

ルティア「最後の時はきっと、貴方の側にいたい。ねぇラセル。それを許してくれる?」

ラセル「・・・80年後に許してやるよ。」

ルティア「・・・(笑う)」



ナレーター「宰相スーラの進言によりラセル王が開国を決意し、ふた月。

      ディルスを囲む森には落ち葉が広がり、秋が深まっていた。

      そんな季節の移ろいを感じる暇(いとま)もなく

      城内には同盟国代表が集い、正午より4国会議(よんごくかいぎ)は開催された。」

【会議室】

エメダ「断固反対だ!」

スーラ「エメダ大臣、少し落ち着いてくだされ。」

エメダ「これが落ち着いていられますか!」

ツドイ「おっと、誰かの鼻息で私の書類が飛んでいってしまった。」

リザイア「(密かに笑う)」

エメダ「ウェルナンは開国など絶対に認められない!」

リザイア「まぁまぁ。エメダ様。お座りになって。」

エメダ「(少し頬を赤くして)・・・リザイア姫がおっしゃるのなら。」

ツドイ「しかし、スーラ殿。どのような戦略を?」

リザイア「300年前、国を閉じた時のように激しい戦いが起きるのではないですか?」

エメダ「そうだ!ようやくこの数十年、平和が訪れたというのに、ディルスはそれを乱すおつもりか!」

スーラ「もはや戦いは避けられませぬ。」

エメダ「何故です!今はこうして平和ではありませんか!」

スーラ「残念ながら、ディルスは魔性に目をつけられております。」

エメダ「それは・・・聞いておりますが。対魔性能力であればクラリオンで充分なはず!」

スーラ「ツドイ元帥、いかがですかな?」

ツドイ「聞けば、ディルスに現れた東の主・・・7の塔を打撃で半壊させたという。」

エメダ「なっ・・・」

ツドイ「クラリオンにも、主クラスの魔性の情報はほぼ皆無。現状、対抗出来るとは言い難い。」

エメダ「なんたること。対魔性能力エキスパートを名乗ってその程度か!」

ツドイ「悪いがどこかの食道楽(くいどうらく)の国とは・・・専門のわけが違う。」

エメダ「ツドイ元帥、ウェルナンを侮辱するか!」

リザイア「まぁまぁ、エメダ様。食は生活の基本、なくてはならないものです。

     それに私ウェルナンのフルーツは大好きですわ。」

エメダ「あ、ありがとうございます。」

スーラ「エメダ大臣、平和を願う気持ちは皆同じ・・・」

エメダ「ならば!」

スーラ「されど、平和である為には努力が必要ですじゃ。安穏とした日々がただ続いて行く事はあり得ませぬ。」

エメダ「それは・・・」

スーラ「そもそも、この4国同盟はたゆまぬ向上を目指して築いた関係のはず。目的は現状維持ではありませぬ。」

エメダ「だからと言って開国には繋がらない。他に手段があるはず。」

スーラ「どのような。」

エメダ「それは危急のディルスが考える事でしょう。」

ツドイ「(鼻で笑う)」

エメダ「先ほどから随分な態度ですね、ツドイ元帥。クラリオンはどのようにお考えか、お聞かせ願えませんか。」

ツドイ「さて。どうしたものか。考え中です。」

エメダ「ははっ。意見もなくこの会議に出席されたか!クラリオンの名が泣きますな!」

リザイア「マリーガルドは賛成ですわ。」

エメダ「リザイア姫!?」

スーラ「ほぉ。」

リザイア「父から同意書を預かってます。この会議の概要を伺った時から父は賛同しておりました。

     マリーガルドは協力を惜しみません。」

スーラ「ありがとうございます。」

ツドイ「ふん・・・ここでクラリオンが賛同すれば、過半数となりますな。」

エメダ「ぐ・・・」

ツドイ「スーラ殿、一つお尋ねしたい。」

スーラ「はい。」

ツドイ「ディルスは4国同盟をどうするおつもりか?」

スーラ「維持します。維持したまま、国を開きます。」

ツドイ「ディルスの意思に3国が従うとお思いか?」

スーラ「従うなどと、とんでもございません。これは提案とお願いでございますじゃ。

    ウェルナン、クラリオン、マリーガルド、ディルス、全てが協力しあってこそ新しい時代の道が開けます。

    その価値は計り知れないものになると考えておりますじゃ。」

ツドイ「成程。・・・私は一度帰国してからお答えしたい。」

スーラ「ほぉ。」

ツドイ「レイス様が心配で今は正しい判断が出来そうにありません。ここ2ヶ月でレイス様は大きく回復された。

    今の状態なら細心の注意を払えば、帰国にも耐えられましょう。」

スーラ「わかりました。ディルスもご帰国に必要な物品、人手など何でもご用意致しまする。」

ツドイ「ありがとうございます。」

スーラ「しかし申し訳ありませぬが、こちらもなにぶん時間がありませぬ。お返事はひと月でいただけますかな?」

ツドイ「承知。」

スーラ「では本日はこれにて。」


【廊下】

エメダM「くそっ・・・腹のたつ!どいつもこいつも!

    自国に余裕があるからあんな大きな口が叩けるのだ!

    国を開く備えなど、ウェルナンにはないんだぞ!

    ディルス、クラリオンは武力において向かうところ敵なし・・・

    マリーガルドとて武器、防具、兵器、そういった備えが充分あるだろう。

    だがウェルナンはどうなる。つい先日、また農地拡大のため資金を

    投入したばかりだと言うのに。

    戦が起これば他3国に全面的に頼るしかなくなる。

    王には断固阻止せよと命ぜられている・・・どうしたものか。」


スーラ「エメダ大臣。」

エメダ「これは宰相スーラ様。」

スーラ「少し、宜しいですかな?」

エメダ「なんでしょうか。」

スーラ「これをご覧下され。」

エメダ「なんですかコレは。」

スーラ「開国が現実となった際、ウェルナンの食料品及び加工技術がどれだけの

    利益を生むかを数値に表したものです。」

エメダ「何故こんな数値が・・・」

スーラ「対象としたのは、開国要求が度々あった近隣5国。少々見づらいかと存じますが、差し上げます。

    お時間ある時ゆっくりご覧くだされ。」

エメダ「くだらない。捕らぬ狸の皮算用ではありませんか。」

スーラ「おっしゃる通りですじゃ。狸の数と行動範囲を調べ、獲得できる確率を数字にしただけのもの。

    しかしこれが現実であれば・・・ほっほっ。あやかりたいあやかりたい。」

エメダ「・・・こんな事で・・・開国に賛同するとは思わないでいただきたい。」

スーラ「もちろんですじゃ。どうぞ、ウェルナンもひと月の間、今一度ゆっくりご検討ください。

    ウェルナンの食料供給なくしては苦しい時代を迎えます。良いお返事をお待ちしております。」

エメダ「失礼。(去る)」

スーラ「御機嫌よう。」


【レイスの病室】


ラセル「入るぞ。」

ツドイ「ラセル王。」

ラセル「レイスはどうだ?」

ツドイ「状態はかなり安定しています。今眠られたところです。」

ラセル「そうか。」

ツドイ「先ほど会議でスーラ殿にはお伝えしましたが、明後日クラリオンに帰国します。」

ラセル「そこまで回復したか。」

ツドイ「ん・・・?そのご婦人は。」

ラセル「レイスが心を乱すかもしれないから今まで連れてこなかったが・・・ルティアだ。」

ツドイ「・・・貴方が。」

ルティア「はじめまして。」

ツドイ「成る程・・・噂にたがわぬ至高の美女。恐れ入りました。」

ルティア「そんな・・・」

ツドイ「レイス様が心を奪われたのも頷ける。それに・・・魔性すらも惑わすとか。」

ルティア「・・・・・・」

ツドイ「どうです、ルティア殿も一度クラリオンにいらっしゃいませんか?」

ラセル「そ、それは駄目だ!」

ツドイ「何故です?」

ラセル「・・・とにかく、駄目だ。」

ツドイ「駄目駄目と言われても納得出来ません。

    クラリオンで、レイス様がこのような事になった経緯を説明する際に

    このルティア殿がおられた方が説得力があると思いませんか?」

リザイア「失礼しまぁす!」

ラセル「(ほっとする)」

リザイア「皆さんお揃いで。」

ルティア「リザイア姫・・・」

リザイア「あらルティアさん、まだいらっしゃったの。」

ルティア「はい。」

リザイア「おめでとう。ディルスが開国すれば晴れて捕虜は解放となるでしょう。早く荷物をまとめておいた方が宜しいのではなくって?」

ツドイ「(ボソッと)敵対心剥き出しだな。」

リザイア「行く宛てが無いのでしたら私がご用意して差し上げても良くってよ?南の島なんていかが?

     日に焼けて少しは健康的になるかもしれませんわ。ほほほ。」

ラセル「リザイア姫、ここは病室です。お静かに。」

リザイア「あら、失礼致しましたわ。この方がレイス様ですのね。

     昔、お見かけした事がありましたけど・・・随分雰囲気が違いますわ。前は女性と見間違えましたもの。」

ツドイ「レイス様は女性として育てられておりましたから。」

リザイア「それにしても痛々しい・・・マリーガルドも出来る限りのお力添えを致しますわ。」

ツドイ「ありがとうございます。」

リザイア「・・・ラセル様、少しお話したい事があるのです。」

ラセル「なんでしょう?」

リザイア「あの・・・ここでは・・・その・・・」

ラセル「わかりました。場所を変えましょう。ルティア、そろそろ部屋に戻ると良い。」

ルティア「えぇ。」

ラセル「ツドイ元帥、失礼。」

リザイア「お大事に。」



※ラセルとリザイア去る



ルティア「・・・では、私もこれで失礼させていただきます。」

ツドイ「待たれよ。ルティア殿、貴方には聞きたい事がある。」

ルティア「え・・・」

ツドイ「あの姫が来るとは運が良かった。ラセル王はルティア殿に随分執心のご様子・・・2人きりで話せる機会はそうないでしょう。」

ルティア「あの・・・」

ツドイ「レイス様の睡眠の邪魔になってはいけません、我等も場所を変えましょう。」

ルティア「私、部屋に戻らないと。」

ツドイ「いいえ。」

ルティア「・・・」

ツドイ「あなたは私の質問に答えなくてはならない。部屋に戻るのはその後です。」

【廊下】

エメダ「・・・宰相スーラか。伊達に年だけくってるわけではないな。食えんじじいだ。ん?」

アルザの後ろ姿を見かける。

エメダ「あれは・・・アルザ?おーい、アルザ!」

アルザ振り返る。

エメダ「(近づきながら)やはりアルザか!久しぶりだな!」

アルザ逃げる

エメダ「おい!何故逃げる!」

追いかける

エメダ「(見失う)・・・アルザ。何故お前がディルス城に・・・。」


【中庭】

リザイア「あの、ラセル様。肩の・・・傷は・・・」

ラセル「え?・・・あぁ。もう完治していますよ。」

リザイア「・・・本当ですか?」

ラセル「えぇ、最近は色々ありすぎて、すっかり忘れてしまっていたくらいです。」

リザイア「・・・良かった・・・でも、あとが残ってしまったのではありませんか・・?」

ラセル「大丈夫ですよ。どうか、もう気になさらないでください。」

リザイア「ありがとうございます・・・(涙目になる。)」

ラセル「・・・(気づいて居心地が一層悪くなる)っあの。間もなく春の衣装会ですね。

    前回の冬の衣装会の服はディルスでも最近よく見かけます。だいぶ寒くなってきましたから・・・」

リザイア「お優しいのですね。ラセル様・・・」

ラセル「・・・いや、そんな事は・・・」

リザイア「私・・・自分が恥ずかしいのです。まさか、あんな事になってしまうなんて・・・

     あの日の事を思い返す度、恥ずかしくて恥ずかしくて・・・

     マリーガルドに帰ってからも、いっそ死んでしまいたいと何度も思いました。」

ラセル「リザイア姫、あれは全て魔性がやった事です・・・」

リザイア「違います!」

ラセル「・・・」

リザイア「違うのです・・・魔性に操られてはいましたけれど・・・

     あの時の私は・・・本当の私で・・・

     私、本当に・・・ラセル様が・・・」

ラセル「・・・」


【空き応接室】

ツドイ「レイス様の件、大筋は把握しています。スーラ殿の説明は客観的で正確だった。

    しかし、ルティア殿しか知りえぬ事がある。」

ルティア「・・・」

ツドイ「レイス様はその日、どのようなご様子でいらしたか。教えていただきたい。」

ルティア「・・・上手く言葉に出来ないですが、深く決意を固めているようで、それでいてどこか夢を見ているようで・・・」

ツドイ「あなたの事を愛していると?」

ルティア「好きだと、言ってくださいました。」

ツドイ「それで、あなたは?」

ルティア「私は・・・レイスさんのお気持ちにはお答え出来ませんでした。」

ツドイ「何故?レイス様ほど優れたお方はそうおりません。」

ルティア「・・・優れているとか、劣っているとか・・私はそういった事に価値を感じられません。」

ツドイ「・・・そういう事は劣っている人間が言ってこそ説得力がある。ルティア殿にそれを言う資格はない。

    何故ならあなたは明らかに人より優れているものがある。その容姿だ。」

ルティア「レイスさんも私をそういう風に見ていました、けれどそんな物は表面的なものです。」

ツドイ「表面的なものでも、優れているには違いないでしょう。」

ルティア「申し訳ないですけど、価値観が合いません。」

ツドイ「ではあなたの思う価値とはなんです?」

ルティア「・・永遠を・・紡ぐもの・・」

ツドイ「なんですそれは?」

ルティア「花が咲いて枯れること、人が生まれ死ぬこと・・」

ツドイ「そんな事になんの価値があるのですか。枯れてしまえば、死んでしまえば全ては無になる。」

ルティア「いいえ、違います。」

ツドイ「・・・・あなたの思想は、人間離れしている。」

ルティア「・・・そうなのかもしれない。」

ツドイ「あなたは本当に人間か?」

ルティア「え?」

ツドイ「その思想も、容姿も魔性だと言われた方が頷ける。」

ルティア「・・・」

ツドイ「『傷跡』を見せてください。」

ルティア「そんな・・・」

ツドイ「どこですか?魔性の傷跡は?」

ルティア「お見せするようなものではありません。」

ツドイ「どうしても、この目で確かめたい。」

ルティア「なぜです。」

ツドイ「貴方が魔性ではないかと疑っているのですよ。」

ルティア「そんな。」

ツドイ「生まれついての魔性には『傷跡』がない。自分を人間だったと言うならば『傷跡』を見せてください。」

ルティア「お断りします!」

ツドイ「足・・のあたりですね。感じます。悪いですが、見させていただきますよ。(ルティアを壁に押し付ける)」

ルティア「(動けない)やめてください!失礼でしょう・・」

ツドイ「いいではありませんか、女同士です。(スカートに手を入れる)」

ルティア「そういう問題では・・・」

ツドイ「何を恥ずかしがるのですか、魔性に体を売った身で。」

ルティア「・・・!」

ツドイ「別にあなたが魔性と契約したという理由にはさして興味はない。

    興味があるのはレイス様が愛したあなた自身だ。」

ルティア「私は・・確かに傷跡を受けましたが、ただの人間です。」

ツドイ「その容姿も、魂も人間離れしすぎているんですよ。

    ・・・傷跡がよく見えないな。少し電流を加えます。ザイリル。」

ルティア「痛っ・・・ツドイさん・・・こんな事・・・」

ツドイ「白く艶めかしい脚、女の私ですら変な気がおこりそうだ。」

ルティア「ううっ・・・」

ツドイ「レイス様に代わって、今私があなたを奪ってしまおうか。」

ルティア「ツドイさん!?」

ツドイ「冗談です。・・・もう少し耐えてください。傷跡が浮かんできました。」

ルティア「・・・んんっ・・・」

ツドイ「おお・・・これが・・・北の主がほどこした傷跡か・・・なんて美しい。」

ルティア「はぁ・・・はぁ・・・」

ツドイ「成程。これは確かに主クラスの傷跡、見た事がない程に繊細で強力な傷跡。

    さすがは魔性の主と言ったところか。

    伴侶契約も間違いないようだ。失礼した。」

ルティア「(平手うち)」

ツドイ「ほう、虫も殺せぬ姫君かと思いきや・・・なかなかどうして、気が強い。」

ルティア「このようなやり方は失礼です!」

ツドイ「失礼というならば、あなたも充分失礼だ。」

ルティア「何がです?」

ツドイ「あなたはレイス様を侮辱した。」

ルティア「・・・侮辱?」

ツドイ「さっきあなたはレイス様に価値がないと言った。

    我等が何者にも変えがたく大切にお育てしてきたレイス様を。無価値だと言ったのだ。」

ルティア「そんな事は言ってません・・・」

ツドイ「あなたの意図は関係ない。私はそう受け取った。」

ルティア「あなたは横暴です。」

ツドイ「そうでなくては、クラリオンでは少々生きづらくてね。」


【中庭】

リザイア「・・・(恥ずかしくて言葉が出せない)」

ラセル「リザイア姫、まもなく日が落ちます。部屋にもどりましょう。」

リザイア「・・・嫌です。」

ラセル「風邪をひいてしまいますよ。」

リザイア「なら・・・ラセル様が暖めてくださればいいんです・・・」

ラセル「(ため息)リザイア姫。あまり困らせないでください。」

リザイア「ずるいですラセル様は!私の気持ちを知っていて・・・そんな事を言うんですね。」

ラセル「・・・・」

リザイア「好きです。好きなんです、ラセル様が!」

ラセル「・・・」

リザイア「でも、私には・・・もう・・そんな事を言う資格はないのでしょうね。

     あの時・・・短剣をラセル様に刺してしまったのは、私のこの手なんですもの。

     それでどうして、お慕いしているなんて言えるのでしょう・・・。」

ラセル「何度も言いましたが、そのことは本当に気にしないでください。大丈夫ですから。」

リザイア「もう期待させないでください!どうせ、どうせ愛してくださらないのに!」

ラセル「・・・」

リザイア「・・そうでしょう?」

ラセル「貴方は・・・まだ幼い。」

リザイア「私、もう18歳です。もう結婚も出来る大人です。

    お父様から、この4国会議に参加する事もまかされて参ったのです。」

ラセル「・・・そうですね、大人に・・・なられているのは、わかります。」

リザイア「昔からラセル様が私を・・・『同盟国の年下の姫』としか見てない事は、わかっています。

     それでも、いつかは・・・いいえ。もういいのです。」

ラセル「?」

リザイア「私今回ディルスに来る事になった時、心を決めて参りました。

     会議参加と、もう一つ・・・目的があって参ったのです。」

ラセル「目的ですか?」

リザイア「ええ。」

ラセル「どんな目的です?」

リザイア「(大きく息を吸い込んで)ラセル様に私をふっていただきたいのです。」

ラセル「ふる・・・?」

リザイア「ええ、きっぱりと。ふってください。」

ラセル「・・・・なんと、言えばいいのか。」

リザイア「では、私を愛してくださいますか?」

ラセル「・・・いや。出来ない。」

リザイア「もっと大人になっても?」

ラセル「貴方が今より成長しても、俺には愛する事は出来ない・・・。」

リザイア「・・・お願いです。理由を聞かせてください。」

ラセル「俺は・・・幼い頃からずっと、貴方を知っている。

    初めて会ったのは俺が12の時、貴方は4つだった。

    今はもう大人の女性になられた事を、頭では・・理解しています。
 
    だが、幼い頃の記憶が焼きついて、俺の中で変わりそうにない。おそらく永遠に。」

リザイア「・・・・・・それで、納得しろとおっしゃるの?」

ラセル「リザイア姫・・・」

リザイア「『見るに耐えないから死ね』と言われた方がまだマシですわ。」

ラセル「・・・。」

リザイア「ルティアさんがいるからでしょう。」

ラセル「・・・」

リザイア「違います?」

ラセル「ルティアに・・・特別な感情があるのは否定しません。」

リザイア「なぜハッキリ言ってくださらないのです?ルティアさんが好きだからだと!」

ラセル「そう・・・ですね。」

リザイア「ルティアさんはお美しいですものね。私とは違って・・・大人っぽくて・・・」

ラセル「ルティアの容姿に惹かれたわけではありません。」

リザイア「ではどこに?」

ラセル「・・・魂・・・。」

リザイア「魂?」

ラセル「自分でも『魂』という表現が相応しいのか、自信がないのですが・・・。

    例えば、ですが・・・最初にルティアを捕虜として捕らえた時の事です。

    異国の女で、自らの情報を何一つ語らないルティアを、美しいが恐れを知らぬ高慢な女だと思いました。

    ですが、ルティアは自分を助けたマールという女に害が及ぶ事を知ると、途端に顔色を変えた。

    自ら命を絶とうと、兵士の短剣を自分の胸に突き刺したのです。

    あれ程に強い意思を持ちながら、誰かのために一瞬で崩れ落ちる。」

リザイア「・・・。」

ラセル「その儚い輝きに、どうしても目が離せなくなった。

    そして月日が経ち、少しずつルティアの事を知るようになりました。

    彼女の抱えた深い絶望。人の身で耐え切れない程の暗い闇。

    その絶望から、彼女を救いたいと思ったのです。
  
    こんな感情を『恋』や『愛』と呼べるのかわからなくて、言葉に迷いました・・・」

リザイア「・・・わからないとおっしゃるのなら、私が教えてさしあげます。

     それは紛れも無く『恋』で『愛』です!」

ラセル「・・・そう、ですね。

    そうなんでしょうね・・・」

リザイア「認めてくださいますか?」

ラセル「はい。」

リザイア「・・・」

ラセル「俺は彼女を絶望から救いだして、生涯を共にしたい。

    ルティアを、愛している。

    だから・・・だから、貴方を愛す事が出来ない。リザイア。」

リザイア「・・・ふふっ・・・・・・・・・ふふふっ(涙が溢れる)」

ラセル「・・・。」

リザイア「ありがとうラセル様!やっと・・・すっきりしましたわ。」

ラセル「遅くなって、すみません。けれどあなたは、強く、可愛らしい。きっと俺なんかよりも良い男が・・・」

リザイア「そうですわ!」

ラセル「!?」

リザイア「私これからもっともっと素敵なレディになって、ラセル様よりずっと素敵な殿方と結ばれますわ。」

ラセル「・・・そうですか。」

リザイア「後悔しても、その時はもう遅いんですからね。」

ラセル「はい。」

リザイア「・・・さようなら、私の初恋の方。まだしばらくは・・・胸が痛みそうですけれど・・・。」


ナレーター「初めて見るリザイアの切ない表情にラセルは胸を衝かれた。

      夕焼けはディルスの森を赤く照らしていた。

      次回、魔性の傷跡第15話。ご期待ください。」

fin

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