「これが運命ならあらがってみせる。あの人は殺させない。

あの人の美しさも、優しさも、本当のものなんだ。僕とは違う。

作り物の僕とは違うんだ。

僕はあの人だけはこの世界から消えて欲しくない。

神様。もしいるのなら……一つくらい……僕の願いを叶えて。

もう差し出せるのは…このちっぽけな体しか残っていないけど…!」




魔性の傷跡 第12話 『叶わぬ願い』

魔性の傷跡
第12話 『叶わぬ願い』

【登場人物】♂2♀2不問1
ルティア(21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ラセル(26歳)♂:ディルス国の若き王。
レイス(20歳)♂or♀:クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ。
シルキィ(28歳)♂+ナレーター:ディルス国の将軍。「白銀軍」を率いる。
ヨミ(24歳)♀:白銀軍副長

【役表】
ルティア♀:
ラセル ♂:
レイス♂or♀:
シルキィ♂+ナレーター:
ヨミ♀:


※兵士達は全員でお願いします。
※レイスの呪文は()の中だけ読んでください。



ナレーター「豪雨に見舞われたディルス。その森を一頭の黒馬が駆け抜ける。

      激しい雷鳴に臆する事なく、ひたすらに駆け抜ける。

      乗っているのはレイス。その腕の中には意識のないルティアがいた。」

【ディルスを囲む森/馬を走らせながら】

ルティア「ん…」

レイス「起きちゃった?」

ルティア「…レイスさん!」

レイス「大人しくしててね、もうすぐ森を抜けるから。」

ルティア「貴方は自分が何をしてるか判っているのですか!?」

レイス「わかってるよ。」

ルティア「お願いです、正気を取り戻してください。」

レイス「正気だよ。狂っていたのは、今までの僕だ。」

ルティア「正気だと言うのなら、こんな事は止めてください。」

レイス「嫌だよ。」

ルティア「レイスさん!」

レイス「僕はもう戻らない。君に認めてもらうためだよ。」

ルティア「私に?」

レイス「君は僕に心が無いって言ったよね。でも、あるよ。わかるだろ?

    こんな事をしてまで、君をディルスから奪うんだ。これは紛(まぎ)れも無く僕の心だよ。」

ルティア「レイスさん…」

レイス「そうだろ?認めてよ。」

ルティア「…私の言葉が…そこまであなたを追い詰めてしまったのですか…」

レイス「違うよ?答えは『Yes』それだけでいいんだ。」



【ラセルの執務室】

ノック→勢いよく扉をあける音

シルキィ「ラセル様!シルキィ並びにヨミ副長、ただ今、参上仕(つかまつ)りました!」

ラセル「よし、手短に話すぞ。クラリオンのレイスに我が国の捕虜ルティアが拉致された。」

ヨミ「ええっ!」

シルキィ「なんと!あのレイス様が…」

ラセル「白銀軍(しろがねぐん)に協力を願う。

    逃亡ルートは複数考えられるが必ず捕らえる。以上!行くぞ!」

シルキィ「はっ!」

ヨミ「ほんっと手短だけど、了解!」



【メルト渓谷】

レイス「見てメルト渓谷(けいこく)、絶景でしょ。」

ルティア「すごい…」

レイス「下はループス河、かなり増水してる。落ちたらお仕舞いだから、大人しくしててね。」

ルティア「レイスさん…こんな事をして何になるのです。」

レイス「幸せになるんだよ。」

ルティア「幸せ…?」

レイス「僕たちはこれから、誰も知らない場所に行くんだ。

    そしてそこで小さな家を建てる。お金はないけど、畑をつくって作物を育てよう。
 
    暖かい家族を作って、山や川の生き物を食べて。そうやって生きるんだ。

    そしてゆっくり年をとって、いつか二人で死のう。それって幸せだと思わない?」

ルティア「私の気持ちは…どうなるのです。」

レイス「大丈夫だよ。僕は君を好きなんだもの。」

ルティア「……何を言ってるのかわかりません。」

レイス「僕にだって、一つくらい欲しいものを頂戴。対価は充分払ったでしょ。」

ルティア「人の心は、利害関係だけで動きません。どうしてそれが判らないのですか。」

レイス「わかってるよ。」

ルティア「わかっているなら…!」

レイス「わかってるよ。だから僕は、僕自身だけで君を奪うんじゃないか。」

ルティア「………レイスさん、私は貴方の言っている事がわからない。」

レイス「ふふっ。そんなに怖がらないで大丈夫だよ、僕たちは幸せになるんだ。」


【ディルスを囲む森の中】

(白銀軍/馬を走らせながら)

シルキィ「…(少し笑う)」

ヨミ「どうしたの?シルキィ」

シルキィ「先ほどのラセル様のお顔、見たか?」

ヨミ「あぁ〜。怖かったね。」

シルキィ「先日のご様子が嘘のようだったな。恐ろしい勢いで出馬されて。

     ルティアとは、おそらくラセル様の想い人だろう。」

ヨミ「でも捕虜なんでしょ?」

シルキィ「事情はわからないが…俺はそう感じた。」

ヨミ「まぁねぇ。実は私もなんだ。」

シルキィ「そうか、ヨミもか。」

ヨミ「あの顔見ちゃったらねぇ。シルキィも私が攫(さら)われたらあんな風になってくれるのかなー。」

シルキィ「ヨミを攫えるやつなんて、そうそういないよ。」

ヨミ「えー。こんなに、か弱いのに。」

シルキィ「皆!間もなく森を抜ける!ここから手分けして捜索にあたる!」

ヨミ「無視したなー!」

シルキィ「ヨミ、一番逃亡ルートの可能性が高いのは?」

ヨミ「うーん。メルト渓谷かな、足場狭いけど。バナエ平原は視界が広いし

   クレーアム湿原はこの天気じゃ足を取られる。」

シルキィ「よし。ベラ、アラン隊はバナエ平原、ヘグニット、マリザ隊はクレーアム湿原をあたってくれ!

     俺とヨミ副長はメルト渓谷をあたる。この雷雨だ、皆充分に注意してくれ。

     夜明けに城に集合だ、よい報告を期待する。行くぞ!」

兵士達「おー!」

ヨミ「メルト渓谷かぁ、まともな神経だったらこんな日には行かないなぁ。」



ナレーター「鬼神の如き形相(ぎょうそう)でがむしゃらに馬を走らせるラセル。

      その胸には言い得ぬ感情が燃えあがっていた。」



【メルト渓谷】

ラセル「あれは……レイス!」

レイス「んっ!?」

ラセル「見つけた、見つけたぞレイス!」

レイス「ラセル!…あーぁ。追いつかれちゃったか…(止まる)」

ルティア「ラセル!」

レイス「(馬を翻らせる)相変わらず足だけは速いね。」

ラセル「レイス、何も聞かない。ルティアを返せ。」

レイス「そんなに目をギラつかせちゃって…やっと生き返ったのかな?

    でも、もう遅いよ。僕は決めたんだから。」

ラセル「御託(ごたく)はいい、ルティアを早く返すんだ。」

レイス「偉そうに。なんの権利があるのさ。」

ラセル「ルティアは我が国の捕虜だ。」

レイス「言い訳がましいよ!」

ラセル「っ…。」

レイス「女々しいなぁ、そうやっていつまではっきりしないつもり?

    カザックの事もだけどさ。いい加減見かねたんだよ。

    そんなんだったら僕が欲しいもの、君から奪ったっていいだろ?!」

ラセル「そうだな……確かに、女々しい事を言った。詫びよう。」

レイス「詫びなんていらないよ。」

ラセル「いや、詫びよう。そして誓う、これ以後ルティアを二度と捕虜として扱わない。

    俺の意志でディルスにおくという事を。」

レイス「そんな誓い必要ないって。僕は君から奪うんだから。」

ラセル「奪うという意味をお前はわかっているのか。」

レイス「そのままの意味だよ。」

ラセル「それほどまでにルティアを想っていたのか?」

レイス「忘れた?僕は初めてルティアちゃんに会った時すぐにプロポーズしたんだよ。」

ラセル「あれは冗談ではなかったのか。」

レイス「ははっ。鈍いね。僕は君に遠慮してあげてたんだよ。」

ラセル「遠慮?」

レイス「そうだよ!君が好きな人だから僕は遠慮してあげてたの。でもさぁ

    あんなウジウジしてる君見てたら馬鹿馬鹿しくなっちゃった。

    だからもう遠慮しない。」

ラセル「レイス、お前が望むなら俺は大抵のものは与えてやる。

    だが、ルティアは駄目だ。決して奪うことを許さない。」

レイス「許さないって、どうするわけ?」

ラセル「お前が本気だと言うのなら、こちらも本気をだそう。実力を行使する。」


【メルト渓谷/入谷付近】

シルキィ「ヨミ何か感じないか?」

ヨミ「うーん、こう雨も雷も強くちゃ、音がごちゃごちゃに混ざってて、わかんないよー。」

シルキィ「お前の感覚でも駄目か。ループス河の流れも強いしな。」

ヨミ「あとは…あっちの方が道幅が狭いから、追っ手を振り切りたい人なら

   …行くかな。ちょっと自殺行為だけど。」

シルキィ「よし、行くぞ。」

ヨミ「うー、足元怖いなぁ。」


【メルト渓谷】

レイス「あは…はははっ!」

ラセル「何がおかしい。」

レイス「とんでもない勘違い野郎だよ、君は。昔からずっと成長しないなぁ。」

ラセル「……」

レイス「いつも上から目線で偉そうに。そりゃお偉いものね。ディルスの王様だ。

    ラセル、君は幸せだね。自分が幸せなんだって知ってた?」

ラセル「何が言いたい。」

レイス「君が不幸だ、なんて思ってるのは君だけで、周りから見たら

    君は『お幸せな奴』なんだよ…って言いたいな。」

ラセル「誰にどう見られようと構わんが、俺は自分が不幸だなどと考えてはいない。」

レイス「この世の終わりみたいな顔してたくせに。

    君の父上が暗殺されたのだって、母上が病死したのだって、

    カザックが死んだのだって、僕から見たら全然不幸じゃないんだよ。」

ラセル「レイス…」

レイス「あはっ。傷ついた?君は本当の不幸も、孤独も知らない。お坊ちゃんなんだよ。

    だから、自分の不幸を周りに撒き散らすんだ。

    君は全然気づいてないんだろ?自分がいつも誰かから愛されてる事を。」

ラセル「俺が愛されている?」


レイス「父上からも母上からも、カザックからも。

    いつも、いつもあんなに深く愛されていたじゃないか!」

ラセル「……」


レイス「君はいつも人を惹きつける。いつも愛される。それに気づきもしない。

    なのに自分ばかり世界一不幸なつもりになって悲劇のヒーロー気取り?

    そんなのズルイよ。君は、僕の辛いときも苦しいときも…全然気づかなかったくせに!」

ラセル「…レイス、俺が…お前を苦しめたのか。」

レイス「違うよ、自惚れないで。」

ラセル「すまなかった。」

レイス「自惚れるなって言ってるんだよ!」

ラセル「……」

レイス「君のそういうところが大嫌いだ。馬鹿な犬は調教しないとね。
  
    実力行使、するんでしょ?かかっておいで。」

ラセル「全力で、いくぞ。」

レイス「剣の脆弱(ぜいじゃく)さ、思い知らせてあげるよ。」


【メルト渓谷/(ラセル達の場所から少し離れている)】


ヨミ「シルキィ!あれ!」

シルキィ「ああ、ラセル様!それに、レイス様。」

ヨミ「あーもうバトってる!」



【メルト渓谷】

レイス「ラグズティール。(雨水で鞭を生成する)」

ラセル「雨水が結集していく!?」

ルティア「水の鞭…」

レイス「こんな日に水の力を利用しない手はないでしょ。それに、犬のしつけにもピッタリだと思わない?」

ラセル「ふざけるな!はぁあ!(攻撃)」

レイス「(鞭ではじく)ふざけてないよ!」

ラセル「ふっ!(かわす)意外と、上手いな。」

レイス「君はまだ僕のお兄さんぶりたいんだね。でもさ、僕の方が強い!(攻撃)」

ラセル「ぐ…雨に紛れて、鞭の動きが見切れない。(剣に鞭がからみつく)」

レイス「どう?僕に勝てそう?おにいちゃん♪」

ラセル「…押し切るっ!(振り切る)」

レイス「何度やっても同じだよ。僕はここから一歩も動かず、君を倒せる。」

ルティア「レイスさん、やめてください!」

レイス「嫌だよ。」

ラセル「うおおおお!(走って切りかかる)」

レイス「ほんと、剣って無様…馬鹿の一つ覚え!(攻撃)」

ラセル「(直撃)ぐああっ!」

ルティア「ラセル!」

レイス「あはは、いい気味!」

ラセル「…っく…」

レイス「早く尻尾巻いてディルスに帰りなよ。今なら許してあげる。」

ラセル「断る!」

レイス「僕は別れを告げてきた。アルトレアにもクラリオンにも。

    だから例え君を殺したって、僕はいいんだ。だって、今の僕はレイスなんだから。

    僕が僕の意志で何をしようと、それは僕の自由だろ?ねぇラセル。」

ラセル「お前が何をしたいと思ってもそれを止める事は出来ない。だが、その行為は裁かれる!」

レイス「裁く?誰が?君が?神にでもなったつもりかい、王様!」


(水の鞭がラセルの右腕に絡みつき動きを封じる。)


ラセル「くっ!」

レイス「神なんていない。ましてや人が人を裁くなんて愚の骨頂だ!

    どれだけ愚かしい事か、僕が君を裁いてみせてあげようか!?」


シルキィ「ラセル様!助太刀致す!」

レイス「なっ!?シルキィ将軍!!!」

ヨミ「マルシェ、マルシェ…」

ラセル「シルキィ!やめろ!」

ヨミ「フレッシュ!」

レイス「(わき腹を強打される)あああああ!」

ヨミ「形勢逆転♪」

レイス「っく!よりによってシルキィ将軍が出てくるなんて。(距離をとる)」

シルキィ「遅くなりました、ラセル様!(ラセルに駆け寄る)」

ラセル「馬鹿者!何故攻撃した!」

シルキィ「え。」

ラセル「俺がレイスと戦っていたんだ。邪魔をするな!」

シルキィ「しかし!」



レイス「はぁ…はぁ…。かっこつけちゃって。ムカつくなぁ。」

ルティア「レイスさん…大丈夫ですか?」

レイス「ふふ。こんな時まで人の心配?君は本当に優しいね。」

ルティア「優しくなど、ありません。」

レイス「…それに、やっぱり綺麗だなぁ。本当の優しさも美しさも君の中には、あるんだね。」

ルティア「そんなもの…ありません。」

レイス「僕の人生は嘘と欲望で塗り固められていたけど…」

ルティア「お願いです。レイスさん。もう止めましょう。」

レイス「君が何度言っても答えは同じだ『No』。僕はもう戻れない。」


ラセル「レイス!シルキィの非礼を詫びる!大丈夫か!?」

レイス「将軍が出てきて急に優位に立ったつもり?
    
    心配ご無用さ。君の部下が何人出てこようと僕は負けない。」

ラセル「レイス、もう一度聞く。ルティアを返す気はないか。」

レイス「こんな綺麗な人、ラセルには不釣合いだよ。」

ラセル「よし…お前の意志はわかった。ならばこれは決闘だ。」

レイス「決闘ねぇ。ディルス式はよくわからないな。」

ラセル「1対1で戦う。これだけだ。」

レイス「君はどこまで格好つけたいんだろうね。」



シルキィ「……決闘。こんな事で王のお命を危険にさらすなど…」

ヨミ「安心してシルキィ。」

シルキィ「ヨミ?」

ヨミ「いざとなったら私がレイス様を止める。例え、お命を奪う事になっても。」

シルキィ「なっ、何を言ってる。レイス様はクラリオンの…」

ヨミ「お咎(とが)めは全部私が受ける。だから安心して。」

シルキィ「ヨミ一人に背負わせはしない。……ラセル様、騎神のご加護を。」


ラセル「レイス。俺はお前に感謝している。」

レイス「へぇ?」

ラセル「お前がルティアを攫ったと聞いた時、俺は目の前が真っ白になった。

    そして今まで悩んでいたことを全て忘れて、無我夢中で馬を走らせていた。

    お前のおかげで、やっと理解出来た。
   
    俺は例えルティアを守れないとしても、守りたい。それだけなんだと。」

レイス「かっこいいねぇ。でもさ。遅いよ!(攻撃)」

ラセル「ちっ!(かする)かわす事しか出来ない武器とは厄介だな。」

レイス「物理攻撃だけなんて時代遅れなんだよっ!(攻撃)」

ラセル「だが!(かわす)速度が落ちているな!レイス!」

レイス「ふん!」

ラセル「魔術は器用に使えても、体を鍛えるのは怠っていたようだな!」

レイス「野蛮なディルスと一緒にしないで!こっちは筋肉ばっかり鍛えてられないんだ!」

ラセル「それに、さっきからその鞭しか使っていない。

    魔術ってのは、同時に複数使うのが難しいようだな。」

レイス「だったら何?」

ラセル「魔術も、万能ではない!(急接近…攻撃)」

レイス「はやいっ。。!ぐあああっ!(腕をかする)」

ラセル「一歩は、動いたな。」

レイス「こだわってたの?…馬鹿みたいだよ!!」

ルティア「ああっ!ラセル!」

シルキィ「水の鞭が肥大化した!?」

ヨミ「ラセル様、あれじゃ息が出来ない!!」

レイス「万能じゃなくても、こんな事くらいなら簡単に出来る。」

ルティア「ラセル!ラセル!」

レイス「水柱(みずばしら)の中の泳ぎ心地はどうかな?」

シルキィ「ラセル様!!」

ヨミ「……(密かに短刀を抜く)」

レイス「人間って脆(もろ)いよね、息が出来ないだけで死んじゃうんだもん。」

ルティア「レイスさん!止めて!ラセルが死んでしまう!」

レイス「暴れないで。死んだっていいよ別に。」

ルティア「どうして!貴方は人の心がないのですか!」

レイス「黙れよ!どうして僕ばかり責めるんだよ!

    僕は君に損になるような事は何一つしてない!大人しくしてろよ!」

ルティア「離して、離して!」

レイス「ラセルばっかりどうしてなんだよ!!」

ルティア「今わかりました!貴方はラセルへの対抗心から私を手に入れようとしている!

     離して、離してください!!!」

レイス「違う!暴れないで!そっちは…崖なんだ…ああっ!」

ヨミ「ああっ!」

ルティア「きゃあああああ!!」

レイス「ルティアちゃん!!!」

ヨミ「あの流れに落ちたら助からない!」

シルキィ「なんたること…。(ラセルの水柱が消える)ラセル様!」

ラセル「…がはっ…がはっ。…ルティアぁ!!(崖に近づく)」

シルキィ「(ラセルを押さえつける)なりません!あの流れに飛び込めばお命はありません!」

ラセル「離せっ!もう二度と俺は見殺しにはしない!

    死なせない!絶対に、絶対にだ!!!!」

シルキィ「なりません!」

レイス「nauthiznyd(ナウシズニイド)--laguzlagu (ラグズラグ )

    blank (ブランクウィルド)--kenazken(ケナズケン)

    ="raidhorad(ライドーラド)/eihwazeoh(エイワズエオー)">

    berkanobeorc(ベルカノベオルク=);」

ラセル「レイス?何の魔術だ…」

シルキィ「なんだ?昔訓練で見た魔術と…何かが違う。」


レイス「tiwaztyr(ティワズテュール)/>-dagazdag(ダガズダグ)-

 thurisazthorn(スリサズソーン="othilaodal(オシラオダル)/">=」


ヨミ「うわっ。。空に綺麗な光が…」

シルキィ「あれは、魔方陣!?」

ラセル「あんな巨大な魔方陣、見た事ないぞ。レイス、何を…」



レイス「/ingwazing(インガズイング)><-isais(イサイス)-

    typetiwaztyr(ティワズテュール)」



ラセル「レイス答えろ。お前は何をしている!?」

ヨミ「ラセル様。レイス様は全く聞こえていません。」

シルキィ「極限まで集中力が高まっています。それに、あんな無防備で。」


レイスM「僕の全てを捨てても、手に入れたかった。

     あの人に認めてもらえたら、僕はようやく…僕として生きられる気がして。

     でも消えてしまう!僕のせいであの人の命が消えてしまう!

     駄目だ、それだけは駄目なんだよ…!!」


ヨミ「…こわい。」

シルキィ「どうしたヨミ?」

ヨミ「わからない…こんなの、こんな音、聞いたことない…」

ラセル「音?」

シルキィ「ヨミは非常に音に敏感なのです。どうしたんだヨミ!」

ヨミ「わからないの、でも…レイス様の体が…内側から悲鳴をあげてる……」

シルキィ「内側から?」

ヨミ「…聞こえるの…レイス様の血が、骨が…震えてる……」

シルキィ「…なんだと。」

ヨミ「嫌だ…怖い…この音…やめて……」

シルキィ「ヨミ…落ち着け(耳を塞ぐ)」


レイスM「これが運命ならあらがってみせる。あの人は殺させない。
 
     あの人の美しさも、優しさも、本当のものなんだ。僕とは違う。

     作り物の僕とは違うんだ。僕はあの人だけはこの世界から消えて欲しくない。

     神様。もしいるのなら……一つくらい……僕の願いを叶えて。

     もう差し出せるのは…このちっぽけな体しか残っていないけど…!」


ラセル「なんだ…風が急に弱くなったぞ…」

シルキィ「台風の目…でしょうか…?」


レイス「ラセル。」

ラセル「レイス、お前!」

レイス「後は、まかせるね。」

ラセル「な…何を?」

レイス「Sowilo(ソウィロー )…」


(レイスがその一言を解き放った瞬間、轟音をあげてループス河の水が一気に舞い上がった。)


ラセル「レイス!?なんだ…なんなんだこれは……!!」

シルキィ「…河の水が巻き上がる…我々は…夢でも見ているのか!?」

ヨミ「すごい上昇気流、これが魔術の力!?」

シルキィ「…ラセル様、上を!!」

ラセル「なっ…魔方陣から炎が!!」

ヨミ「なんて…凄まじい炎…」

ラセル「まさか、ループス河の水を上で一気に蒸発させる気か!?」


レイスM「魔法は万能ではない。確かにそうだ。
 
    汲み上げる魔力に見合った、それ相応の付加がかかる。

    でもさ、どんな対価を払っても…それでも叶わない願いだってあるんだ。

    だから…これは僕の最後の賭け。どうか、叶って。」


ラセル「レイス…これが…お前の力なのか…」

シルキィ「なんということだ。あの、激流が消えた。」

ヨミ「…ループス河が…干上がるなんて………」

シルキィ「……っ!レイス様!(駆け寄る)」

ヨミ「(レイスを見て)…うっ。」

シルキィ「これは…あまりに…。ヨミ、どうだ。」

ヨミ「……微かだけど、本当に微かだけど。心音は…聞こえる。」

シルキィ「本当か!?」

ヨミ「うん。」

シルキィ「そ、そうか!良かった。よし!気道確保。」

ヨミ「気道かく…(口をあける)…んっ…」

シルキィ「どうした…?」

ヨミ「…喉が…爛(ただ)れて……。内臓から全部…焼けてるみたい…」

シルキィ「……っ!…なんとしても、お助けする!レイス様は死なせてはならないお方だ。」

ヨミ「うん。」

シルキィ「ラセル様、今ならループス河の底を歩くことが出来ましょう。

     レイス様の行為を無駄にされますな、一刻も早くルティアさんの捜索へ!

     私とヨミはレイス様を医者へ連れて行きます。」

ラセル「……あぁ、頼む!」


ナレーター「瀕死のレイス、激流に飲み込まれたルティア。

      2人の命は今なお雨に打たれ、ループス河は緩やかにその水位をあげていった。

      次回、魔性の傷跡第13話。ご期待ください。」

fin

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