魔性の傷跡
第11話 『心の証明』

【登場人物】♂3♀3(もしくは♂4♀2 全分割すると♂4♀4)
ルティア(21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ラセル(26歳)♂:ディルス国の若き王。
レイス(20歳)♂or♀:クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ。
シルキィ(28歳)♂:ディルス国の将軍。「白銀軍」を率いる。
ヨミ(24歳)+エルザータ(45歳)♀:白銀軍副長/クラリオンの王妃
アルザ(20歳)+ナレーション♂:給仕の青年。

【役表】
ルティア♀:
ラセル♂:
レイス♂or♀:
シルキィ♂:
ヨミ+エルザータ♀:
アルザ+ナレーション♂:

※レイスの幼少期は必要に応じて、女性が演じてください。

ナレーター「静まり返った礼拝堂。
      
      夕日が差し込むステンドグラスを見つめるレイスの表情に

      いつもの笑顔は浮かんでいなかった。

      ルティアは何故か心がざわめくのを感じながらも、レイスに近づいていった。」


【礼拝堂】

レイス「綺麗だよね…ステンドグラスって。」

ルティア「…そう、ですね。」

レイス「知ってる?この8枚の意味?」

ルティア「いいえ…」

レイス「ディルスを守る8つの軍を表してるんだって。

    それで、その頂点に立つのが騎神。戦いの神様…ご立派だね。」

ルティア「……」

レイス「神様なんていないと思わない?」

ルティア「私には…わかりません。」

レイス「もしいるならさ、カザックが死ぬことはなかったんじゃない?」

ルティア「……」

レイス「それとも、あれが運命ってやつなのかな?」

ルティア「レイスさん、お話とはなんですか?」

レイス「話してるよ。大事な事だから、順をおってね。焦らない焦らない。」

ルティア「……すみません。」

レイス「運命ってさぁ、腹立つよね。ルティアちゃんもそう思わない?穏やかに生きてる人もいっぱいいるのに

    自分の運命ばっかりこんなので理不尽だなぁって。」

ルティア「私の…運命ですか。」

レイス「魔性の花嫁。そうでしょ?」

ルティア「…はい。」

レイス「(苦笑)まぁ、わかってたけど確認したかっただけ。」

ルティア「…レイスさん、どうかなさったのですか?」

レイス「ん?なんで、どうもしないよ?」

ルティア「なんだか、いつもと違うように感じます。」

レイス「僕はね、逆らいたいんだ。」

ルティア「何にですか?」

レイス「運命に。」

ルティア「…」

レイス「だから。僕は今ここで、もう一度君にプロポーズしたいんだ。」

ルティア「なっ…何を言ってるのです…」

レイス「忘れちゃった?僕は君に一目ぼれしたんだよ。

    ラセルがあんまり腑抜けてるから、抜け駆けしちゃおうかなって。」

ルティア「…私は…魔性の妻です。」

レイス「関係ないよ。」

ルティア「え?」

レイス「関係ないって言ったの。」

ルティア「……」

レイス「ルティアちゃんが望んだ事じゃないんでしょ?」

ルティア「でも…」

レイス「君が君の運命から逃れられないなら、僕が手伝ってあげる。」

ルティア「……」

レイス「クラリオンにおいでよ。」

ルティア「え…。」

レイス「魔法帝国クラリオン、魔性に対抗したいなら悪い話じゃないでしょ。」

ルティア「……それは…」

レイス「少なくともラセルよりは頼りになると思うよ。それとも、僕の求婚を断る言い訳がしたい?」

ルティア「そうわけでは……」

レイス「なら、おいでよ。」

ルティア「……」


【シルキィ宅】

ヨミ「シルキィー、あーん♪」

シルキィ「もぐもぐ」

ヨミ「はい、あーん♪」

シルキィ「もぐもぐ」

ヨミ「はい、あーん♪」

シルキィ「ちょ、むぐむぐ」

ヨミ「はい、あーん♪」

シルキィ「ごふっ。んぐんぐ。」

ヨミ「はい、あーん♪」

シルキィ「んがふっ!!ごほっごほっ」

ヨミ「大丈夫?(背中トントン)」

シルキィ「ごほっごほっ……はー…殺されるかと思った。」

ヨミ「えへへ、いっぱい食べてくれるからつい♪」

シルキィ「まぁ、ヨミの手料理は上手いよ。これは本当だ。」

ヨミ「愛情がたっ〜ぷりこもってますからぁ♪」

シルキィ「久しぶりだな、こんな食事が出来るのも。」

ヨミ「しるきぃー♪(抱きつく)」

シルキィ「(髪を撫でながら)ヨミ、ずいぶん髪伸びたなぁ。」

ヨミ「伸ばしてるの。」

シルキィ「戦うとき邪魔にならないか?」

ヨミ「全然、むしろリズムもバランスも取りやすいよ。」

シルキィ「しっぽみたいだな。」

ヨミ「シルキィ長い髪の方が好きなんでしょ?」

シルキィ「そんな事言ったか?」

ヨミ「言ったよー!」

シルキィ「そっか。…なぁ。これ、ほどいていいか?」

ヨミ「んー。いいよ。」

シルキィ「(ほどく)うん、結んでるほうがいいな。」

ヨミ「ひっどーい。自分でほどいといてー!」

シルキィ「あはは、嘘だよ。どっちも可愛いよ。」

ヨミ「うー。」


【礼拝堂】

レイス「で、お返事は?」

ルティア「……レイスさんは、私の事を好きではないと思います。」

レイス「……へぇ。どうしてさ。」

ルティア「私には『守ってあげる代わりに結婚しよう。』そう聞こえました。」

レイス「……」

ルティア「私を好きだと言ってくださるのに、あなたの言葉は私に交換条件を突きつける…何故ですか。」

レイス「……っ。交換条件とは表現が悪いなぁ。」

ルティア「すみません。でも、そういう風に…聞こえました。」

レイス「言い方が悪かったかな、君が好きだから結婚したいし守ってあげたい。どう?」

ルティア「……どうと…言われましても。」

レイス「僕なりに、君のリクエストに答えたつもりだよ。」

ルティア「レイスさん、私にはやっぱり…貴方の心が見えない。」

レイス「そんなもの、見えるわけないじゃないか。」

ルティア「貴方の言葉は空虚で、何も…伝わってこないのです。ごめんなさい。」

レイス「………………うるさいな。」

ルティア「レイスさん?」

レイス「うるさい…うるさいんだよ…僕のせいにするなよ。

    君はそうやって、自分が悪者になるのを避けてるだけじゃないか!」

ルティア「そんな…」

レイス「僕に心がない?そんな不確かなものどうやって証明するのさ!

    僕は君を好きだって言ってるんだよ…この言葉が信じられない?

    君をクラリオンに招き入れる事がどれだけ危険か分かってて僕は言ってるんだよ。そうだろ?
  
    君も認めるだろ?主(あるじ)クラスの魔性の力を目の当たりにしたんだ、それでも僕は…」

ルティア「ごめんなさい…。卑怯な事を言いました。それではキチンとお答えします。

     私はここにいます。クラリオンには参りません。レイスさんのお気持ちには応えられません。」

レイス「……ラセルがいるから?」

ルティア「ラセルの事を考えるなら、私はここにいるべきではない。けれど、今はここにいたい。」

レイス「どうしてだよ…」

ルティア「ごめんなさい。」

レイス「馬鹿だよ、ラセルも君も。どうして自ら一番不幸な選択をするのさ。最善策をとるのが普通じゃないの?」

ルティア「そうだと思います。」

レイス「ラセルのどこが良いのさ。心も体もあんなボロボロになっちゃって

    あんなんじゃ君を守るなんて到底無理だ。」

ルティア「守ってもらうつもりはありません。」

レイス「君にはなんの力もない。どうやって魔性に対抗出来るって言うんだ。君はクラリオンに来るべきなんだよ。」

ルティア「もう…お話出来る事はありません。」

レイス「後悔させるよ。」

ルティア「…おやすみなさい。」

レイス「逃げるのか!」

ルティア「(退室)」

レイス「……絶対逃がさない。僕を認めなかった事、後悔させるよ。」



【シルキィ宅】

ヨミ「シルキィ私の事好き?」

シルキィ「あ、ああ。」

ヨミ「ベルサス様より?」

シルキィ「え。」

ヨミ「ベルサス様より好き?」

シルキィ「そ、それは…土俵(どひょう)が違うだろ。」

ヨミ「嘘つけないのねー、シルキィは。」

シルキィ「ベルサス様は憧れのお方だし、ヨミは…」

ヨミ「ヨミは?」

シルキィ「……ヨミは…」

ヨミ「なーにー?」

シルキィ「わ、わかってるだろ!」

ヨミ「言葉にしてくれなきゃわかんないよ。」

シルキィ「言葉なんて、不確かだ。吐き出したら…歪んでしまうかもしれない。」

ヨミ「怖いの?」

シルキィ「怖いというか…」

ヨミ「本当の気持ちがこもった言葉は、ゆがんだりしないよ。剣のように真っ直ぐに相手の心を突き刺すんだから。」

シルキィ「苦手なんだよ。」

ヨミ「天下の剣技国の将軍様も不器用なトコあるんだねぇ。」

シルキィ「うぅ…」



【レイスの部屋】

レイス「(鏡をじっと見つめる)…。」

エルザータM「アルトレア、私の可愛いアルトレア。」

レイス「…母上様……」

エルザータM「ああ、アルトレア。こんなに美しく育ってくれて母は嬉しいわ。」

レイス「……」



【回想:レイス7歳】



レイス戦闘訓練終了



エルザータ「レイス。お疲れ様。」

レイス「母上様、ご覧になっていたのですか。」

エルザータ「訓練励んでいるようですね。見事でしたよ。」

レイス「ありがとうございます。母上様がご覧になっているのなら、もう少し大きい剣にすれば良かった。」

エルザータ「お止めなさい、大きな剣など。レイピアで充分です。」

レイス「え…?」

エルザータ「貴方は魔法が使えるようになるのよ、剣の稽古はほどほどでお止めなさい。」

レイス「そうですか…」

エルザータ「疲れたでしょう。お茶にしましょう。着替えて私の部屋にいらっしゃい。

      マリーガルドから仕入れた新しいドレスを用意していますから。」

レイス「……ありがとうございます。」


※城の廊下にて

エルザータ「レイス、レイス…」

レイス「ご用ですか、母上様。」

エルザータ「ああ、こんなところにいたのね。こんなに汚れて…」

レイス「あの天井のスミのところにいるクモを近くで見たくて。」

エルザータ「え?…きゃああ!あんなところにあんなおぞましいものが。。

      誰か、誰か!あれを今すぐ殺しておくれ!」

レイス「母上様、かわいそうです。」

エルザータ「いいえレイス、あんなものに二度と興味を持ってはいけません。

      さぁ、早く湯あみしていらっしゃい。後でお人形で遊びましょう。」

レイス「………はい。」



回想終了



【レイスの部屋】

レイス「本当に…今までありがとうございました母上様。でも、もうお仕舞いです。」

エルザータM「何を言うの?アルトレア。」

レイス「僕は今まで何一つ、自分で望んだ物は無かった。」

エルザータM「不幸だったと言うの?」

レイス「いいえ、不幸ではありませんでした。だから感謝しています。

    けれど、僕はどうしても欲しいものが出来てしまいました。」

エルザータM「何が欲しいの?母がなんでも与えてあげます。」

レイス「いいえ。もう終わりにしましょう、貴方のアルトレアは今日もう一度死ぬんです。」

エルザータM「やめて!」

レイス「(ハサミを取り出す)もう、綺麗な服も、こんな化粧も、長い髪も必要ない!」


    (※レイスは化粧をぬぐい、服を、髪を切り裂きはじめる。)



エルザータM「やめて、やめて頂戴アルトレア!」

レイス「僕はアルトレアじゃない!」

エルザータM「どうしてなの…」

レイス「アルトレアじゃない僕には、何もないけれど…」

エルザータM「…あああ。」

レイス「あの人は僕に心が無いと言った。僕にだって、心くらいはある!

    あいつらとは…僕を売ったあいつらとは違う。

    あいつらは人の皮を被った、欲望の塊だ。僕は違う!

    僕はアルトレアの美しさも、クラリオンの強さも、全てを失っても

    手に入れたいものが出来たんだ。この心に偽りはない。

    それを証明したい。しなくてはならない。

    だから僕は君を殺す、お別れだアルトレア。13年間ありがとう!」



ナレーター「ディルスの東の空が赤く染まる。

      その日は息を呑むほどに美しい朝焼けであった。

      早朝訓練に励む白銀軍(しろがねぐん)も

      その赤光(しゃっこう)を浴びていた。」



【城外訓練場】

シルキィ「リグレット!今の感じだ!タウロ、遅れをとるな。」

ヨミ「なかなかみんな調子良さそうじゃん。」

シルキィ「うん、そろそろ試合を始めるか。」

ヨミ「シルキィやろうよ。」

シルキィ「え、ヨミとか?」

ヨミ「久しぶりだから興奮するでしょーん♪」

シルキィ「やりにくいが…わかった。受けて立とう。」

ヨミ「おっけー!みんなー、今から私とシルキィでやるから、よぉく見といてねぇ!」

シルキィ「盗める技は盗むように。では…はじめようか。」

ヨミ「お手柔らかに♪」

シルキィ「必要ないだろう。いくぞ。はああっ!(攻撃)」

ヨミ「(かわす)おっとぉ。1、2、3、4…」

シルキィ「はっ!はぁっ!」

ヨミ「2、2、3、4!ちょっと単調だよー。」

シルキィ「サービスだ!そらっ!そらっ!」

ヨミ「1、2、345。」

シルキィ「さすがに、あたらないな。」

ヨミ「んふふ、ペースあげてくよ。」

シルキィ「させるかぁ!(斬りかかる)」

ヨミ「(のけぞる)よおっと♪」

シルキィ「…また…体やわらかくなったか?」

ヨミ「まぁね〜♪たぁ!(斬る)」

シルキィ「っ!!(髪をかする)…ちっ。」

ヨミ「うん、すごい反応速度。さすが!」

シルキィ「ちょっと、本気出すぞ。」


【ラセルの部屋】

ノックの音

ラセル「…誰だ。」

アルザ「あの…アルザです。昨日、厨房に来てくださったと聞いて…」

ラセル「あぁ…入れ。」

アルザ「失礼します。(入室)」

ラセル「俺がまた行くと言ったのに。」

アルザ「何かご用だったのかと。。」

ラセル「いや、菓子の礼を言いたかっただけだ。」

アルザ「そんな、もったいないです。」

ラセル「昨日は休んでいたそうだな。病(やまい)か?」

アルザ「…あ。はい。」

ラセル「体…弱いのか?」

アルザ「……生まれつき、心臓が弱くて。たまに動けなくなるんです。」

ラセル「そうか。…すまない、聞きすぎたな。」

アルザ「いえ!大丈夫です。僕なんかに気をつかっていただくほうが…申し訳ないです。」

ラセル「……お前は、何故料理人を目指している?」

アルザ「本当は…体が弱くなければ…立派な戦士になって、ディルスをお守りしたかった。」

ラセル「……」

アルザ「あ!でも、今は料理学校を卒業出来て、こうして王宮にお勤め出来ることを誇りに思っています!」

ラセル「別に、取り繕う必要はないぞ。」

アルザ「本当ですよ!僕の作った料理を…いつか、いつか王宮の方々に召し上がっていただくんです!

    それが皆さんの血肉となって、きっとディルスを守る力となるんです!

    だから僕は、料理人である事を誇りに思っています。」

ラセル「ふふっ…」

アルザ「おかしい…ですか…」

ラセル「いや。凄いよ、アルザ。お前は必ずディルスを守る力となる。」

アルザ「はい。カザック様のようになれるよう頑張ります!」

ラセル「!!」

アルザ「…ラセル様?どうされました?」

ラセル「いや…何故、カザックの名を出した。」

アルザ「あ、す…すみません。僕、カザック様に…憧れていて…」

ラセル「憧れ?」

アルザ「だって、すごいじゃないですか…普通じゃないですよ。

    平民から宰相になれるなんて。それに、知識だけじゃなくて
 
    武芸にも優れていらして…。ものすごく努力されたんだと思います。」

ラセル「……」

アルザ「小さい頃に、何度か下町にいらしたカザック様にお会いした事があるんです。

    僕たちみたいな、下々の人間の言葉にも、親身に耳を傾けてくださって…

    僕の両親はいつも感激していました。」

ラセル「……そうか。」

アルザ「だから、僕もいつかあんな風に立派な人になれたらと思って…」

ラセル「なればいい。」

アルザ「無理ですよ。僕なんか…」

ラセル「お前の菓子は旨かった。…少し、甘いが。」

アルザ「こ、光栄です。」

ラセル「今日はもう帰れ。」

アルザ「は、はい。失礼します。(退室しようとする)」

ラセル「明日から、付け合せの担当くらいは出来るだろう。」

アルザ「え?」

ラセル「いつまでも掃除当番ではつまらんだろう。料理長に、言っておく。」

アルザ「あ……ありがとうございます!(深々と礼をして、退室)」


【城外訓練場】

ヨミ「はっ…はぁ…」

シルキィ「どうした、動きがにぶってるぞ!」

ヨミ「くそぉ、体力おばけ!」

シルキィ「ヨミはスタミナが足りない!」

ヨミ「んー!たああああ!(斬りかかる)」

シルキィ「脇が、甘い!(かわし、斬る)」

ヨミ「きゃあああ!(剣ごと弾き飛ばされる)」

シルキィ「ヨミ!しまった、やりすぎた!」

ヨミ「いったぁあああああい!」

シルキィ「ヨミ!大丈夫か!(駆け寄る)」

ヨミ「スキあり♪(アゴに短刀をつきつける)」

シルキィ「……………おい。卑怯だろ。」

ヨミ「勝負の世界は厳しいのだよ♪」

シルキィ「あ、雨だ。」

ヨミ「え?(上を見る)」

シルキィ「(短刀をはじきとばす)」

ヨミ「ああっ!」

シルキィ「(剣を突きつける)スキあり♪」

ヨミ「ひ、ひきょうものー!!!!」

シルキィ「どっちが!」

ヨミ「……あ、雨。」

シルキィ「おい、それは俺のネタだぞ。」

ヨミ「違うって。」


雨ぽつぽつと落ち始め、すぐに土砂降りとなる。



シルキィ「うわ!降ってきたな。」

ヨミ「試合中止だね♪」

シルキィ「勝負あっただろ…」

ヨミ「みんなー!引き上げるよ!アルスで1時間後、訓練再開!」

シルキィ「それにしても…こんな大雨めずらしいな。」

ヨミ「遠くで雷も鳴ってる。体にビリビリ響く。」

シルキィ「そうか。…これは荒れるかな。」

ヨミ「かもね。」


【中庭】

ナレーター「ルティアは突然の雨に、中庭から急ぎ自室へ移動しようとしていた。」

ルティア「…(走っている)」

ナレーター「そこに、レイスが立ちふさがった。」

ルティア「…レイス…さん?」

ナレーター「そこにいたのは、いつもの女性と見紛うようなレイスではなく、紛れもない青年であった。」

レイス「やぁ。」

ルティア「髪を、切られたのですか。それに、その格好はどうされたのです…」

レイス「どうでもいいだろ。そんな事。」

ルティア「…」

ナレーター「ゆっくりと、ルティアに歩み寄るレイス。その違和感にルティアは後ずさりした。」

レイス「怖い…?僕が。」

ルティア「……何があったのです。」

レイス「何もないさ。ただ、ちょっと…君を手に入れようと思って。」

ルティア「!?」

ナレーター「ルティアは確信した。レイスは自分に害を及ぼすつもりだ。

      ぬかるむ地面に足をとられながら、ルティアは必死で逃げ出した。」

レイス「逃がさないよ。この庭は、いっぱい仕掛けをしておいたから。」

ルティア「はっ…はっ……。きゃあああ!」

ナレーター「大地の植物達がルティアの足を絡めとろうと動き出す。

      何度も捕らわれそうになりながら、ルティアはそれでも必死にもがいた。」

レイス「いくら逃げたって、無駄だよ。」

ルティア「はっ…はぁ…怖い…どうして……」

レイス「君が悪いんだよ。」

ナレーター「どれだけ走ったか、ずぶ濡れになりながらルティアは恐怖に追われていた。」

ルティア「はぁっ…はぁ…怖い…どうしてしまったの…レイスさん……あっ…!」

ナレーター「水溜りに足を踏み入れたルティアは、そのまま両足が沈んで動けなくなった。」

ルティア「ああああ……」

レイス「捕まえた。」

ルティア「……何を。」

レイス「dava(デーヴァ)」

ナレーター「木々の枝が急激に伸びだし、ルティアの体を囲む。」

ルティア「レイスさん!」

レイス「ふふっ。かごの鳥みたいだね。」

ルティア「何をする気なんです、レイスさん。」

レイス「miθra(ミトラ)aspa(アスパ)」

ナレーター「泥が盛り上がり、馬の形を作り出す。それはやがて黒く固まり、生きた馬のように動き出した。」

ルティア「…これは…」

レイス「僕の愛馬。行こう。」

ルティア「どこへ!?」

レイス「わからない。けど、行こう。」

ルティア「嫌です!」

レイス「じゃあ、仕方ないね。……ザイタイル。」

電撃

ルティア「きゃあああああ!!!!」

レイス「ごめんね、ルティアちゃん。でも…大丈夫だから。」

ナレーター「レイスはルティアを抱え、泥で出来た馬に飛び乗った。」

ルティア「レイス…さ…(意識を失う)」


【ラセルの部屋】

激しくノックの音

アルザ「ラセル様!ラセル様!」

ラセル「…その声、アルザか。どうした?(扉を開ける)」

アルザ「僕、見ちゃったんで…何か事件だと思って…」

ラセル「落ち着け。どうした?」

アルザ「あの、クラリオンの、レイス様って…ラセル様のいとこの方ですよね…」

ラセル「ああ。」

アルザ「なんだか雰囲気がいつもお見かけするのと、全然違って…

    よくわからないんですけど、中庭で…金髪の女性を魔法で襲われてて…」

ラセル「なんだと!?」

アルザ「そのまま、その女性を連れてどこかへ…」

ラセル「馬鹿な。レイス!」

ナレーター「陰謀渦巻くディルスに激しい雨が降り注ぐ。

      大地は歪み、川は溢れる、その流れを誰も止める事は出来ない。

      次回、魔性の傷跡第12話。ご期待ください。」

fin

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