魔性の傷跡
第10話 『白銀軍の帰還』

【登場人物】♂4♀1(もしくは♂3♀2) (全分割すると♂5♀3)

ラセル  (26歳)♂       :ディルス国の若き王。
レイス  (20歳)♂or♀      :クラリオンに養子に出されたラセルのいとこ。
シルキィ (28歳)♂       :ディルス国の将軍。「白銀軍」を率いる。
ヨミ   (24歳)+エルザータ♀ :白銀軍副長/クラリオンの王妃
スーラ  (88歳)+ナレーション+掃除係♂:ディルス国の宰相


※ラセル・レイスの幼少期は必要に応じて、女性が演じてください。

※兵士達は全員でお願いします。

【役表】

ラセル♂:
レイス♂or♀ :
シルキィ♂:
ヨミ+エルザータ♀:
スーラ+ナレーション+掃除係♂:





ナレーター「ディルス国を囲む深い森、その大地を揺らす馬蹄(ばてい)の音が響く。

      一糸乱れぬ白銀(はくぎん)に輝く鎧の騎士達。

      それは、8ヶ月に渡る遠征から戻った

      ディルス王立『白銀騎士軍(しろがねきしぐん)』の姿であった。率いるのは、

      28歳にしてディルス最強の戦士の名を欲しいままにしたシルキィ将軍である。」



【ディルスを囲む森の中】

シルキィ「久しぶりだな、この森も…」

ヨミ「ほんと、いい空気〜!ディルスに帰った感じするぅ!」

シルキィ「この様な形で帰る事になるとは、不本意だったな。」

ヨミ「まぁねぇ。」

シルキィ「ラセル王は、いかばかりにお悲しみだろう…それを思うだけで、胸が痛む…」

ヨミ「あの宰相様とは小さいときから、ずうっと一緒だったもんねぇ。」

シルキィ「ヨミ副長…もう少し声色を落とせないか。」

ヨミ「なんで?」

シルキィ「今のディルスに君の気楽な声を響かせたくないんだ。」

ヨミ「しっつれいしちゃうわねぇ!…昨夜(ゆうべ)はあんなに可愛いって言ってくれたのになぁ。」

シルキィ「お、おい!」

ヨミ「照れちゃってかわいいなぁ、シルキィ将軍♪」

シルキィ「(咳き込む)」

ヨミ「んふふふ♪」

シルキィ「と、ともかく!(馬を翻らせ、兵士達に)皆、間もなくディルスだ!」

兵士達「おー!」

シルキィ「我らはこの度、大きな戦果挙げた。我らの働きをもって、いくつもの戦いの芽を摘んだと

     胸を張って言えよう。諸君の力は偉大だ!私は皆に心から感謝する!」

ヨミ「うんうん。」

シルキィ「しかし、この戦果に我らは決して驕(おご)る事なくあろう!

     今ディルスは先の偉大なる宰相カザック殿の死により、不安と悲しみに包まれている。

     我らは、過去の栄光は顧(かえりみ)ない!

     常に、今のディルスこそを、守る力となろうぞ!」

兵士達「おー!」

シルキィ「ありがとう、さぁ帰ろう。懐かしき祖国へ!」

ヨミ「うーん。男前♪」




【ディルス15年前】(ラセル11歳、レイス5歳)


ラセル「お前なんで泣いてんの?」

レイス「だって…ひっく…」

ラセル「名前は?」

レイス「…レイス…」

ラセル「俺はラセル、お前はどっから来た?」

レイス「…ひっく…わかんない…お父さんとお母さんどっかいっちゃった…」

ラセル「迷子か。」

レイス「ひっく…ちがうの…捨て子だって…」

ラセル「捨て子?」

レイス「僕は…捨て子なんだって……」

ラセル「誰がそんな事言った。」

レイス「兵士さん達が……言ってるのが聞こえたの…」

ラセル「ぶん殴ってやる!」

レイス「え?」

ラセル「俺がそいつらぶん殴ってやる!」

レイス「……だめだよ、そんな事。」

ラセル「なんでだよ!」

レイス「だって…だって痛いし、怖いし…」

ラセル「馬鹿!」

レイス「えっ」

ラセル「見てろよ」

レイス「…え、え…あーっ!その人じゃないよぉ!」


レイスN「昔の君は今よりずっと暴君だったね。頼りになるお兄さんぶりたかったみたいだけど

    僕は見てらんなかったなぁ。

    この時の僕は幼くて、『捨て子』って言葉にただ傷ついてたけど

    大きくなるにつれて、その言葉の本当の意味を思い知ったよ。

    僕の両親はどちらもがロクでもない快楽主義者だったでしょ。おまけに仮面夫婦。

    2人とも私利私欲の為だけに日々を生きてた。当然子供はほったらかし。

    皆が僕を見るたび影で囁(ささや)く。「捨て子」。

    でもそれはやがて比喩(ひゆ)ではなく現実にのものになった。

    ねぇ、ラセル。僕があの時どんな気持ちだったか…君は全然わかってなかったよね。」


【謁見の間】

スーラ「おお、シルキィ将軍、ヨミ副長。よく戻られましたのぅ。」

シルキィ「ただいま戻りました。スーラ殿、ご就任の伝達は白銀軍(しろがねぐん)にも届いておりました。」

スーラ「ありがたく存じまする。」

シルキィ「(ヨミに小声で)時間、間違えたかな?」

ヨミ「(小声で)ジャスト14時、間違いないよ。」

スーラ「っほほ。謁見のお時間に間違いはございませぬ。」

シルキィ「?!」

ヨミ「すごい地獄耳…」

スーラ「申し訳ありませぬが、王は重なるご心労に伏せっておいでじゃ。

    代わりに小生(しょうせい)が報告をお受けしましょう。」

シルキィ「なんと…ラセル王はそれほどまでに…」

スーラ「酷くご自身を責めておいでのご様子ですじゃ…」

ヨミ「あれまぁ、大変。」

スーラ「さて、シルキィ殿。ダズットの武装勢力(ぶそうせいりょく)の件じゃが」

シルキィ「スーラ殿、報告は先に書面でお送りした通りです。

     本日はこれにて失礼します。今はなんとしても、王にお会いしたい。」

スーラ「そう焦りなさるな…」

シルキィ「しかし…!」

スーラ「時の流れが解決する事も世の中には多い。」

シルキィ「はぁ…」

スーラ「時が経たねば解決しない事も…また然り。」

ヨミ「(小声で)じーさんは気が長いってことね。」

シルキィ「(焦って/小声で)おい!」

スーラ「ほほ。先を見るのは、今出来ることをキチンとしてからにしなされ。さ、報告をいただけますかのぅ。」


【ディルス13年前】(ラセル13歳 レイス7歳)

レイス「何これ…」

ラセル「何って。花だよ。花束。餞別だ。」

レイス「いらない。」

ラセル「そうか…」

レイス「なんで…なんで花なんかくれるんだよ。いやだよ!僕クラリオンなんかに行きたくないよ!」

ラセル「うーん、俺はいい話だと思うけどなぁ。クラリオンの王妃が是非にって言ってるんだぞ。」

レイス「意味わかんないよ。僕はここにいたい。」

ラセル「家族が増えるって考えたらいいじゃないか、今の親にもう会えなくなるわけじゃないんだぜ?」

レイス「いやだよ!」

ラセル「いやいや…って。まぁお前まだ子供だからなぁ、わかんないか。」

レイス「子供じゃないよ!」


レイスN「子供だったのはラセルの方だよ。大人達の奇麗事に騙されて。

    僕は売られたんだよ。クラリオンに。

    僕の本当の両親は、地位の保証と莫大(ばくだい)な礼金欲しさに僕を売ったんだ。

    相手はクラリオンの王妃だ、何一つ損はない。
 
    強欲なあいつ等はこの話に飛びついたね。

    この時僕は、自分が売られる事を、本当に捨て子になってしまう事を認めたくなくて

    クラリオンに行きたくないって言ったけど…

    あいつ等を軽蔑する事で、次第に未練はなくなったよ。

    さようならディルス。僕はあんな大人には絶対にならない。さようなら。」

※13年前の回想 終了



【ラセルの寝室】


ラセル起きる


ラセル「レイス!?」



静まり返った寝室


ラセル「……何故今頃。(ため息)…しまった。謁見の時間を過ぎてるじゃないか。」



服を来て急ぎ部屋を出る。



厨房を通りかかる。


吸い込まれるように、フラリと中に入る。



【城内の厨房】

ラセル「……そこの男。」


床掃除をしてる色黒の男が振り向く。


掃除係「うええええ!?お、王様!?なんでこんなとこへ…」

ラセル「突然悪かったな、新入りの…アルザはいるか?」

掃除係「え、アルザすか?最近見てないっす。休んでるっぽいです。」

ラセル「…病(やまい)か?」

掃除係「自分ちょっとわかんないんで…上に確認してくるっす!」

ラセル「いや、いい。」

掃除係「ふぇ。そうすか?」

ラセル「また明日来る。」

掃除係「すんませーん。」


【レイス回想】(ラセル13歳、レイス7歳)


エルザータ「レイス…あなたは今日からクラリオンの子です。」

レイス「はい。王妃様。」

エルザータ「私の事は今日から母と呼びなさい。」

レイス「わかりました、母上様。」

エルザータ「可愛い子。ああ、なんて…見れば見る程…良く似ているの…」

レイス「母上様?」

エルザータ「嘘なのでしょうあんな事…やっぱり嘘なのだわ…」

レイス「どうされました?母上様?」

エルザータ「ああ…もっと呼んで頂戴。アルトレア…」

レイス「…アルトレア…どなたです?」

エルザータ「(我に返る)…ごめんなさい…なんでも…ないのよ。」

レイス「……」


レイスN「アルトレア。それが王妃の娘の名だと知るのにそう時間はかからなかった。

   不幸にも若くして流行病(はやりやまい)で亡くなったそうだ。

   僕は彼女の生き写しらしい。王妃は僕の中にアルトレア姫を見ていた。

   でも僕はそれでも良かった。だっておかげで王妃は僕を愛してくれたんだから。」


エルザータ「こんな話をしても、まだわからないかもしれないけれど

      貴方に正式に王位を継承するのはとても難しいの。だから、父も母も精一杯頑張るわ。」

レイス「ありがとうございます。」

エルザータ「だから、貴方も頑張るのよ。」

レイス「はい。」

エルザータ「貴方はこれから、成人するまでの長い時間をあの塔で過ごすことになります。」

レイス「…ずいぶん遠いですね。」

エルザータ「今の貴方は、クラリオンではとても生き残れない。あの塔で身を隠すのです。

      決して外の者に見られぬようになさい。そして女の子の姿でありなさい。」

レイス「女の?」

エルザータ「そうよ。大丈夫、あなたは可愛らしい。誰も男の子だなんて思わないわ。

      王位継承権のない女の子なら万が一、人目に触れても安心なのよ。」

レイス「そうなんですか。」

エルザータ「大丈夫、信頼できる優秀な者達を傍においてあげます。

      文武ともに励みなさい。私も出来る限り、会いにいきますから。」

レイス「ありがとうございます。」

エルザータ「レイス。この国で生き残る為に、強く美しくなりなさい。」

レイス「はい。」


レイスN「僕は僕であって僕じゃない。でもいいのさ、上手に生きて行けるもの。

    なんだって器用にこなす方だし、魔術と容姿には特に自信がある。

    強く美しく。母上様の望む形そのものでしょ。何が悪いって言うのさ。」



【謁見の間】

スーラ「ほほぉ〜。」

シルキィ「以上で今回の作戦のご報告とさせて頂きます。」

ヨミ「パーフェクトでしょ!」

スーラ「いや、まっことお見事。非の打ち所がございませぬ、ほっほっほっ。」

ラセル入ってくる

シルキィ「ラセル王!」

ヨミ「(小声で)わぉ…すんごい痩せてる。」

スーラ「体調は宜しいのですかな。」

ラセル「あぁ。遅れてすまない、シルキィ将軍。ヨミ副長。」

シルキィ「いえ…この度は心から…心からお悔やみ申し上げます。」

ラセル「…あぁ。報告は終ってしまったかな。」

スーラ「滞りなく。」

ラセル「あとで記録簿を全て読む。部屋に送ってくれ。」

スーラ「ご用意しております。」

ラセル「戦地からの報告は随時受けていた。よくあの武装勢力を無血で抑えてくれたと思う。ご苦労だった。」

シルキィ「とんでもございません。」

ラセル「褒美をとらせる。白銀軍各位に金800と昇格を、ヨミ副長には金4000と領地を与えよ。」

スーラ「承知致しました。」

ヨミ「ひゃほぉ〜!」

ラセル「シルキィ将軍の褒美は…本人に任せよう。望みのままに申せ。」

スーラ「おやおや」

ヨミ「すごーい。」

シルキィ「…よろしいのですか。」

ラセル「ああ、申せ。」

シルキィ「ならば…ラセル王、お手合わせをお願い申し上げます。」

ラセル「何?」

シルキィ「褒美を望んで宜しいならば、今ここで…お手合わせをお願いします。」

ヨミ「シルキィ、それはちょっと止めようよ。ラセル様の顔色見てわかんないの?」

シルキィ「わかってる。ひどくお痩せになって……痛いほど、心中お察し申し上げる。」

ヨミ「ならさぁ」

シルキィ「私は、剣でしか語れない。」

ヨミ「……」

シルキィ「ラセル様。カザック殿の事は私も辛く感じているのです。

     あの方は、とても厳格(げんかく)で、それでいて…優しかった。

     お忙しい中、何度も剣の相手をして頂きました。そして、とても…お強かった。」

スーラ「あれは恐ろしい訓練風景でしたのぉ。」

シルキィ「あの方は…本当に素晴らしい方でした。魔性、東の主とやらが7の塔に現れた時

     私も共に戦う事が出来ていたらと、戦地で何度も何度も…悔やみました。」

ラセル「…。」

シルキィ「私は何も…何も出来てないのです!…ですが、この先は違います。

     二度と魔性と言う得体の知れない存在にディルスを脅(おびや)かされるわけにはいきません。」

ラセル「……」

シルキィ「今ディルスは悲しみと不安に包まれています。我等は全力でこの国をお守りしたい。

     ですが…王よ、あなたのそのご様子は如何されました?頬は痩せ、瞳に力無く…

     どうかそのお心をお聞かせください。剣をもって。」

スーラ「シルキィ殿、今はまだ時ではありませぬ…」

ラセル「…いいだろう。」

ヨミ「えぇっ!?」

スーラ「王よ、ご無理なされまするな…」

ラセル「俺は望みのままに褒美をとらせると言った。

俺と剣を交わす事が望みだと言うのならば…与えよう。」

シルキィ「ありがたき幸せ。」

ヨミ「わがままっこだねぇ、シルキィ。」


両者試合用の剣をとる


スーラ「おほん。僭越(せんえつ)ながらこの試合、審判は小生が勤めさせていただきます。

    ラセル王の体調をご考慮し、危険と判断した場合は即刻試合中止とさせていただきます。

    ご同意いただけますかな?」

シルキィ「同意致します。」

ラセル「同意する。」

スーラ「それでは、騎神のご加護を。……はじめ!」  

シルキィ「はぁぁああああっ!(攻撃)」

ラセル「ふぅっ!(受け流す)」

ヨミ「うっまぁい!」

ラセル「くらえっ!!(流した力を利用して攻撃に転じる)」

シルキィ「っ!お見事!」

ラセル「はっ!はあっ!だああ!(連続攻撃)」

ヨミ「(鼻歌のように)マルシェ、マルシェ、ファンデウ…」

シルキィ「っと!」

ヨミ「ボンナリエール、ロンペ、マルシェ、ファンデウ…」

シルキィ「たあっ!」

ラセル「ぐあっ!」

ヨミ「うーん、イマイチ。」

シルキィ「早く立て直されよ!」

ラセル「っく…わかって…いる…」

シルキィ「ほら!(攻撃)ほら!(攻撃)まだですか!」

ヨミ「ファンデウ、ファンデウ…」

ラセル「…くそっ!(大きく後ろへ)」

ヨミ「…ボンナリエール」

シルキィ「どうなされた!なぜそのように逃げ腰です!(前へ)」

ラセル「…逃げてなど、ないっ…(前へ)」

シルキィ「前の貴方とは!明らかに!違う!(流れるような剣戟)」

ヨミ「ファンデウ、ファンデウ!ファンデウ!綺麗、さすがぁ♪」

ラセル「くそおおっ!(なんとか受けている)」

シルキィ「技術は着実に上がってる!(攻撃)なのに、何故です!(攻撃)」

ヨミ「勝負あったな…」

ラセル「はぁああああああ!(大きく振りかぶる)」

シルキィ「ヤケになってはいけません!(返し、ラセルの腹に一撃)」

ラセル「がぁああ!(直撃)」

シルキィ「せっかくの貴方のスマートな剣技が、泣きます。」

スーラ「そこまで!」

ラセル「はぁ…はぁ…」

シルキィ「よく、わかりました。」

ラセル「失望させて、悪かったな。俺ではお前の相手など…つとまらん。」

シルキィ「ラセル王。私は、あなたの剣が好きです。細く、鋭く、鮮烈(せんれつ)で…」

ラセル「買いかぶりだ。」

シルキィ「あの激しさは…類(るい)を見ません。どうか、自信を取り戻してください。

     本日はこれにて失礼致します。行こう、ヨミ。」

ヨミ「はぁい。」

シルキィ・ヨミ 退室

ラセル「自信など…なんの意味もない。力がなければ…」

スーラ「左様でございます。」

ラセル「…スーラ。俺はもう…駄目かもしれない。」

スーラ「ほほほ。落ちるところまで落ちましたな。」

ラセル「…何だと。」

スーラ「落ちて、落ちて、地の底か…まだその底か。」

ラセル「……黙れっ…お前に何がわかる…」

スーラ「何もわかりませぬ。知りもしませぬ。自らが無知である事。それ意外、何もわかりませぬ。」

ラセル「……老いぼれが。」

スーラ「ほほほ、憎まれ口を叩けるのならば、まだ落ちられまする。

    落ちなされ落ちなされ、どこまでも。そして地面に這いつくばるのです。」

ラセル「そんな王がどこにいる…」

スーラ「王とて人間ですぞ。王族、貴族、騎士、国民、奴隷、誰もが人間。」

ラセル「当たり前の事を…」

スーラ「どこまで落ちようと貴方は人間ですじゃ。だから安心して落ちなされ。」

ラセル「……」

スーラ「貴方が今するべき事は、国務でも、自信を取り戻すことでもありませぬ。

    自分が何を求めているのかを見つめ直す事。それだけですじゃ。」

ラセル「わからない…」

スーラ「わかるまで、じっくり考えなされ。人生は長いのですからのう。ほっほっほっ。」




【城の廊下】

ヨミ「さすがに今のは王様に対して失礼だったんじゃないのぉ。」

シルキィ「どうしても、今…知りたかったんだ。王のお心を。」

ヨミ「なんかわかったぁ?」

シルキィ「ああ、言葉を交わすよりずっとわかりやすい。想像以上に精神的に参っておられる。」

ヨミ「まぁ、あれだけやつれてるしねぇ。リズムも悪かったなぁ〜。」

シルキィ「技術は8ヶ月前より格段に上がっている。しかし集中力が無かった。

     …おそらく、まともに寝られていない。」

ヨミ「そうだねー、最初の力利用されたあたりは『おおっ♪』と思ったよ。

   スピードはやっぱりあるしねぇ。ただ、その後はボロボロだったね。」

シルキィ「いつもの威圧的なまでの迫力も無かった。

     ラセル様があそこまで自信を失われるとは…魔性の力とは、一体どれ程のものなのか…。」

ヨミ「腕がなるねぇ。」

シルキィ「全力をつくそう。魔術について我等は無知だ。」

ヨミ「はぁい。」

シルキィ「ラセル様は騎神王ベルサス様の血を受け継いだお方だ。必ずや、立ち直られる。」

ヨミ「好きだねぇ、ベルサス様。」

シルキィ「…それと、もう一つ気になった事がある。」

ヨミ「うん?」

シルキィ「王は試合中何かをずっと…気にされていた。」

ヨミ「何か?」

シルキィ「精神の深く、捕われて離れられないような…想い人でも…出来たんだろうか。」

ヨミ「えええ!」


【礼拝堂】

ナレーター「夕闇差し掛かる時刻。赤い夕日が差し込むステンドグラスを

      レイスは静かに見つめていた。

      礼拝堂の扉がゆっくりと開くのをレイスは背中で感じた。」



レイス「…待ってたよ、ルティアちゃん。」



ナレーター「振り返ったレイスの顔に、いつもの微笑みは浮かんでいなかった。
    
      夕日が彼の瞳に映り、揺らめいた。

      次回、魔性の傷跡第11話。ご期待ください。」

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