魔性の傷跡 第1話 『異国の女』
魔性の傷跡
第1話『異国の女』
【登場人物】♂2 ♀2 不問1
ルティア(21歳)♀:至高の美女 いつも悲しげな表情をしている。
ラセル (26歳)♂:ディルス国の若き王。
マール (38歳)♀:村の薬剤師。面倒見が良い。
シセルド・兵士(?歳/被り)♂:魔性 凍りつくような目をしている。
ナレーター不問
【役表】
ルティア♀:
マール♀:
ラセル♂:
シセルド:
兵士♂:
ナレーター不問:

【ディルス国 森の中】
ルティア「はぁ……はぁ……」
ナレーター「ディルス、ここは300年の長きに亘(わた)り貿易を閉ざした王国。
      
      周囲を深い森で囲まれており、正しい道を知るものでなければ国の入口まで辿り着く事は無い。
      昨夜から降り続いた雨が明け方になり弱まってきた。
      その中をずぶ濡れの女が走っている。
     
      いや、心は急いているものの、足はひきずり、歩いている速度と変わらない。
      女は自らがどこへ行こうとしているのか、どこから来たのかすらわからない。
   
      雨に濡れ、泥にまみれ、自我さえも失いかけている。
  
      女の名はルティア。ルティア・セーレクト。
      ついに力尽き意識を失ったルティアは地に伏した。」
マール「ん!?あんな所に女性が倒れてる!(※ルティアに近寄る)ちょっと、ちょっと、あんた!
    
    起きなさい。起きなさい!…脈はある。
    泥まみれだけど、なんて綺麗な人だろう。こんな髪の色も見たことがない。
    もしかして………異国人………かね……
    
    ……だけど、こんな所で放っておいたら死んじまう……よし。」
ナレーター「意を決し、ルティアを担ぎ運ぶマール。
      薬草を積む台車に隠すようにしてルティアを横たえ、布をかけ
      さらに薬草をかぶせる。念入りに。
      森の木々の葉から雨の滴が滴り、静かな朝日が差し込みはじめていた。」
【ルティアの夢】
シセルド「ルティア。お前は決して逃れられない。」
ルティア「……っ」
シセルド「自分でも、わかっているのだろう?どこまで行ってもお前には」
ルティア「……き……えて」
シセルド「お前には傷跡がある。」
ルティア「…消えて」
シセルド「ルティア」
ルティア「消えて……消えてぇっ!」
【マールの家】
マール「目が覚めたのかい!?」
ルティア「……ここは……」
マール「良かった、あんた三日も眠り続けていたんだよ。
     随分大きな声を出してうなされていたね、大丈夫かい?」
ルティア「あなたは?ここはどこ?」
マール「私はマール、ただの薬屋だよ。ここはディルス国の私の家。」
ルティア「……」
マール「びっくりしたよ。薬草を取りに、まだ日も出て無いような時間に森に入ったら
    こんな美女が倒れてるんだもんねぇ。
    
     ……でもまぁ、目が覚めて良かったよ。野菜のスープでも飲むかい?」
ルティア「……私」
マール「ん?」
ルティア「……私……まだ生きていたのね……」※静かに泣く
マール「ち、ちょっと、あんた?」
ナレーター「マールがルティアの肩に触れようとした瞬間、ルティアは絶対的な拒絶をあらわにした。」
ルティア「私に、触らないで。」
マール「……(息を呑む)」
ナレーター「ルティアのその深い怒りと悲しみを湛(たた)えた瞳に
      マールは背筋が凍りつくような美しさすら感じた。」
ルティア「……お世話になりました。私出て行きます、さようなら。」
マール「ちょっと、待って!あんたどこへ行くんだい。この国の事知らないのかい!」
ルティア「……」
マール「あんた異国人だろう、この国の連中に見つかったら殺されちまうよ。」
ルティア「……そう。」
マール「!?…私が言ってる意味がわからないのかい!?
    あんたをここまで台車に隠してこっそり運んできたんだよ。」
ルティア「……迷惑をかけたわね。」
マール「もう一度言うよ。この国では、異国人は見つかったら殺されちまうんだ。
    あんたは悪人って風には見えない。
 
    人目につかないよう、夜にこの国を出たらいい。
    今なんて真昼間だ、すぐ兵士に見つかっちまうよ!」
ルティア「かまわないわ。」
マール「なっ!?」
ルティア「たとえ殺されたってかまわない。お願いだから……もう、私に関わらないで。」
(マールの家の扉閉まる)
マール「……はぁ〜……腰が抜けそうだ。なんだろう、あの恐ろしい程の美しさ……
 
    出来ることなら、何か助けになってやりたかったけど……
    私なんかが関わっちゃいけない相手だったって事かね。」
【ディルス国 街中】
ルティア「……」
ナレーター「ディルスの街中は買い物客で賑わっていた。
      しかし、皆ルティアを見ると驚き、遠ざかる。
      
      ルティアの髪の色、肌の色、瞳の色、どれをとってもディルス国の人間とは
      かけ離れていたからだ。
   
      次第にルティアの周りを囲むように見物人の大きな輪が広がり、
      やがてそこに兵士が駆けつけた。」
兵士「おい女!この国の者ではないな!」
ルティア「……えぇ。」
兵士「嫌に素直だな、まぁいい。城へ連行する!来い!」
【ディルス城 尋問室】
ナレーター「ディルス城はメフィスブルク山の山頂に立地する。
      『騎神王(きしんおう)』として知られる前国王ベルサスの時代に起きた戦によって
       ザルツの町が焼き払われた際も、この城は無事であった。
  
       ディルスは城から8方へ渡る城壁によって外からの攻撃に厳重に備えた要塞都市である。」
ルティア「なんて強固な城……」
ナレーター「ディルス城に連行されたルティアは抵抗する事もなく、罪人の尋問室に入れられた。」
兵士「それで、お前はどこの国の者だ。」
ルティア「……」
兵士「何をしようとしていた。」
ルティア「……」
兵士「何も答えない気か?死罪になるぞ。」
ルティア「私の国はもう無い。もう望みなんて何も無い。」
兵士「……話にならんな。さっきから何度同じような答えを聞いたか。
   素直に答えれば、場合によっては死罪は免れたものを。
   まぁいい。光栄に思え、お前の刑の執行はラセル王直々に下される。」
ルティア「そう。」
兵士「かわいげのない奴だな、まもなく判決の時刻だ、行くぞ。」

【ディルス城 謁見の間】
ナレーター「武装した兵士に付き添われ、通された広間の奥の玉座に腰掛けていたのは
      まだ若い青年王であった。
  
      だが、その眼差しだけは容姿と釣り合わぬほどの強さを持っていた。」
兵士「ラセル王、こちらが正午サンナ街付近で捉えました異国人でございます。」
ラセル「名はなんという?」
ルティア「……ルティア。」
ラセル「……ほう……えらく美しいな。その容姿でどれだけの男を魅了したかは知らんが
    お前はここがディルスと知って侵入したのか?」
ルティア「いいえ。」
ラセル「ふん、ではあの薬剤師の策謀という可能性もあるか。」
ルティア「えっ!?」
ラセル「お前を数日かくまっていたという、マールという薬剤師だよ。」
ルティア「彼女は関係ないわ!」
ラセル「どうかな?薬剤師をここへ。」
ナレーター「兵士に連れられて、マールが入ってくる。」
ルティア「マール……」
マール「すまないね、もう関わらないであげたかったんだけど。」
ラセル「マール、ルティアの素性を話せ。」
マール「王様、恐れながら私はしがない薬屋でございます。外の森で薬草を探していたところ
    この女性が倒れているのを見つけ家で介抱しただけで、何も知りません。」
ラセル「この女が異国人という事は一目見ればわかったはずだ。
    髪の色、目の色、肌の色、どれをとってもディルス人には見えない。そうだろう?」
マール「……はい。」
ラセル「異国人の侵入に加担したことを認めるな?」
マール「外の森には飢えた獣もいます、そのままにしておけば、やがて死んでしまうと……」
ラセル「異国人の侵入に加担すれば、死罪だと知っているな?」
マール「……」
ラセル「何処から来たのかわからない、目的も不明、こんな女の無実をどうやって証明する、マールよ。」
マール「……」
ラセル「ディルスは血縁関係をもって深く繋がった3国を除き、他国との交流を
    徹底的に排除している。……国民ならば当然知っているな?」
ルティア「ここは、随分と腐った国なのね。」
ラセル「……何だと?」
ルティア「私一人、この国の法律に殺されたって少しも構わないと思ったけれど……間違っていたわ。」
ラセル「殺されてもかまわない?お前の意思など関係ない、欲しいのは正確な情報だ。
    お前が自らと、マールの潔白を証明出来れば別だが。」
ルティア「マールの無実は私が証明するわ。」
ラセル「……ほう。どうやって?」
ルティア「私の……命をもって。」
ラセル・マール「!?」
ルティア「ただし……っ!」※兵士の短剣を奪う
兵士「っ!?」
ルティア「この国の法律に殺されるのだけはごめんだわ!」
ナレーター「そう叫ぶとルティアは傍らにいた兵士から奪った短剣を、自らの胸に突き刺した」
ラセル「……なっ」
兵士「女っ!」
マール「あんた!」
ルティア「……これで……死ねるのね。」
マール「あんた!あんた!」
ルティア「……全て……忘れ……て……」
ラセル「……………な、なんだこの女。」
ナレーター「大理石の床にルティアの血がこぼれ、広がっていく。」
ラセル「……い、医者を!医者を、呼べ!」
【ルティアの夢】
シセルド「足掻けば足掻くほど逃れられぬ運命、そうは思わないか。」
ルティア「どうして、私を放っておいてくれないの。私はもう……」
シセルド「ルティア……死にたいか?」
ルティア「死にたい……」
シセルド「何の意味も無く、ただ虚しく死んでいくと言うのか?」
ルティア「……一つだけ……願う事が出来るのならば、せめて誰かの為にこの命を使いたい……」
シセルド「お前が命を捨てるに値する存在など有りはしない。」
ルティア「いいえ、私はただの醜い抜け殻。何の価値も無い……
     ……でも、こんな私でも最後くらい……誰かの役に立って終われれば……」
シセルド「そのような事、私が決して許さない。」
ルティア「……何故あなたにそんな事が言えるの。私こそ、あなたを絶対に許さない。」
シセルド「……もっと憎めばいい。私を。」
ルティア「憎んでいるわ。力及ばずとも、何もかもを失っても、あなただけは許さない。」
シセルド「ああ。そうだ、怒りと憎しみを、あらゆる憎悪を私に向けるがいい。」
ルティア「消えて。消えてよ。」
シセルド「(※微笑)お前を解放したのは、お前に自覚させるためだ。
      どこまで行っても、お前は逃れられないと。」
ルティア「……っ」
シセルド「そうだろう?ルティア、私の華……」
ルティア「私に、触れないでっ!」
ナレーター「そう叫ぶと同時に、悪夢から目覚めたルティアは
      自分が見慣れぬベッドの中にいる事に気づいた。
   
      簡素な部屋、最低限の生活用品が揃えられている。」
ルティア「……痛っ。……そうか、私……剣で胸を刺したのに……まだ、生きてるんだ。
 
     生きて…っ……」※声を殺して激しく泣く
    
ナレーター「死を望むルティアの想いとは裏腹に、ラセル王は彼女の命を救った。
      ラセル王の真意は?そして、王の悲しき過去が明らかになる。
      次回、魔性の傷跡、第二話。ご期待ください。」
fin

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